その3
◇◇◇◇◇◇ その3
子供が産まれた涼子は産休、育児休暇、初めて父親になった健一も子育てにばたばたしているうちに静奈が姿を隠す頻度が増えていることに気がついた。最初は二人に遠慮しているかと思ったが、どうもそうではないらしい。健一と涼子はもしかすると現世での女神様の降臨終了が近づいているのかもしれないと覚悟を決めたのである。
女神様がその時代にどの程度の間降臨し、人々を助けてくれるのかは誰にもわからない。現世では既に某国からのミサイル攻撃を防御し、異星人から得たオーバーテクノロジーである重力システムのヒントを日本にもたらしてくれている。これ以上の御利益を望むのはそれこそばちがあたるというものであろう。
「しばらく、有給を取ります~。みなさんお幸せに~。」
ある日、健一がM企画諏訪支所に出所すると、静奈からのメモが机に貼ってあった。本物の女神様からのお告げとしてはずいぶん雑な気がしたが、静奈らしくもあった。静奈の机はそこそこ片付けられており、本当にしばらく姿を見せないつもりなのだろう。
こうして健一は、内閣総理大臣特務M機関諏訪支所長として、女神様しばらくお隠れの第一報を送ったのであった。
「いい加減に寝なさい。」
五才になる東谷純一は十時になっても寝つけなくて母の涼子に今夜も怒られていた。
「早く寝ないと今夜もどんつくが来て純を連れていっちゃうぞ。」
父の東谷健一も同じ様に脅かしている。純一は目をつむって一生懸命眠ろうとしていた。だが、昼寝をしすぎたせいかなかなか眠りにつくことができない。
「どんつく、どんつく、どんどん。どんつく、どんつく、どんどん。やさえーえ、やさえー。」
地をはうような低音でぶきみな音が響いて来る。同時に「ぎしぎし、ぎしぎし」と得体の知れない音も絶間なく聞こえてくる。
「ほら、純がちっとも寝ないからどんつくが来ちゃったじゃないか。」
父の健一が脅かす。音はだんだんと大きくなり純一の家の前で
「せい。」
という掛け声と共に停止した。