その26
◇◇◇◇◇◇ その26
「昼間でもなぜあの苔は光っているのですか。」
静が不思議そうに尋ねたのは光苔であった。この苔は蛍光物質を蓄えており、岩の狭間で淡く光る。
「和尚、この寺に御柱を建てさせてくれんか。」
晴信は和尚に尋ねた。
「はっはっ、晴信様は面白事をおっしゃられる。ここは寺ですぞ。諏訪神社ではござりません。」
「だが、どうしても建てたいのだ。」
「いかに晴信様の御依頼でもそればかりは無理でございます。」
和尚が頑として首を縦に振らないのも当たり前である。
「和尚、この寺には何か面白い話しはないのか。」
晴信があっさり引き下がったので和尚も意外であった。
「そうですな。早太郎のお話しはいかがでしょうか。」
「それはもう聞き飽きたわい。」
晴信がうんざりして答えた。
「でも早太郎を連れに来た行者が、あっという間にひひの元に行き、退治した事は知りますまい。」
和尚は得意になって話し始めた。
「早太郎は行者が来るとまるでわかっていたような顔をしてわんわんと吠えて裏の山へ連れって行ったのじゃ。」
「これ和尚、もったいつけずにはよう話せ。」
晴信は和尚をせかせた。
「まあまあ、ここから先は裏山での。」
和尚は晴信を連れて裏山に向かって歩き始める。本堂を出て山の中を細い小道を通り、しばらく登ると見晴らしの良い高台に出た。
「ほれ、丁度このあたりじゃよ。」
高台からは寺の様子がよく見える。
「晴信様、ここからよくご覧ください。」
和尚が指差す方向を晴信は目を凝らして見た。
「ほれ、あそこに石があるじゃろう。」
和尚の指の先に庭石には不自然な場所に石があった。
「ほれ、そこにもここにもあるじゃろ。」




