その23
◇◇◇◇◇◇ その23
「あの祭り以来私は神仏に魅入られてしまったようだ。」
「晴信様が天下を納めるのにもっとも適していると神仏が認めたのでございましょう。」
「だが、私はあくまでも神仏の代理なのだよ。それを忘れたらおしまいだな。」
勘助は二人の会話を見守るように聞いている。
「お館様、妙なうわさを耳にしました。」
勘助が思い出したように口をはさんだ。
「悪いうわさか。」
「いえ、最近御柱がたまに光るとのうわさにございます。
「いつからだ。」
「それがどうもお館様と静様が飛んだ時のようで。」
「ふーむ、私が飛ぶ事と御柱が関係あるというのか。」
「そのようでございます。」
「よし、武田の勢力下となった神社は全て諏訪大社としよう。そこに御柱を建ててみるのだ。神社の社には奥の院を設けて余人が入ればたたりが起こると触れ回れ。」
晴信はつつじケ崎館の居室も敵の攻撃に備えて、他の部屋に比べてことさら太い四本の柱で囲まれている事に気が付いた。
「四本柱があればどこでも飛べるのやも知れぬな。」
晴信は自在に飛ぶ可能性をずっと探していたのでうれしそうであった。
「深志にまずお作りなったらいかがでしょうか。」
勘助が二人の会話に入った。
「うむ、それは私も考えていた。」
「浅間の近くに良い場所がございます。」
「よし、勘助が手引き致せ。神社を新しく作るのは土着の民がうるさい。」
晴信は静と勘助の扱いには充分注意した。もし、この二人が死ぬようなことがあれば天下統一は大幅に後退してしまう。晴信が戦略を考える場所はつつじケ崎の自分の居室である。最近はこの部屋を「飛翔の間」と呼び、思案の最中は誰も入れないのでここに二人を呼んで話しをするのが一番安全であった。
晴信は一度居室に入ると何時間も出て来ない事が多い。そしてその後必ず甲斐の国の将来を左右する決定がなされるのである。
父信虎の時代に諏訪頼重の息女を人質にしたことがあった。この姫はそのまま側室として迎えたのであるが、最近病に倒れてしまった。そこで静をこの姫の身代わりとしたのである。




