その18
◇◇◇◇◇◇ その18
つつじケ崎に戻ると晴信は松蔵に命じて居室の改修に着手した。自分の居室を一回り大きくすると共に奥の間を設け、隠れられるようにした。
さらに奥の中には襖を二重に張り巡らし、衝撃を少しでもやわらげるように備えた。板の間にも畳を二重に敷き詰めた。松蔵は外の小屋から奥へ自由に入る事が出来るようになった。
「諏訪へ行く。」
完成したた奥を見届けると晴信は松蔵一人を連れて諏訪へ出立した。松蔵も手慣れた様子で馬の轡を取るとかけていく。
諏訪では静が晴信の到着を待ちかねていた。
「晴信様、明後日が満月でございます。」
日暮れの諏訪湖のほとりで静は晴信に語りかけた。
「なぜ、すぐにわかる。」
「だって、ほらお月様があの木のところに来ると満月なのでございます。」
静は諏訪湖の水面から突き出ている倒木を指差して言った。
「静はそのようなことまで知っているのか。」
「それは生まれた時からこの地に住んでいれば何時ごろの月がどこにあるかはわかりまする。」
「静は賢いな。」
晴信は静の不思議な能力に驚いたようであった。
満月の夜、晴信と静は諏訪湖で身を清め、床に就いた。時間もあの晩と同じである。
「今宵こそ、再現しようぞ。」
実験の方に熱心な晴信に静はちょっと不満であったが、晴信のたくましい手が自分に向かって伸びて来るとたちまち体が熱くほてってくるのがわかった。
「静、今宵はそなたの体はばかに熱いな。」
「それは晴信様が恋しいからでございます。」
静はそういったが、その体からは熱気が立ちこめているかのような火照りようであった。晴信は静の火照った体をぎゅっと抱きしめた。二人の唇が重なり、晴信の手が静の体を捉えた。
「うっ。」
晴信の頭を閃光が走った。二度目なので前よりも落ち着いてはいるが目も眩むような光で頭の中が埋め尽くされていく。
「晴信様、静は熱い。頭の中がまぶしい。」
どうやら静にも同じ現象が起きているらしかった。晴信の頭の中では光の渦が駆け巡っている。しかし、その光はどうやら文字のようであった。その文字列が洪水のように出口に渦巻き、やがて二人は気を失った




