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その11

◇◇◇◇◇◇ その11


 御柱の後ろでは女衆が華やかな衣装をまとい、笠をかぶり、踊り続けている。


「あの踊りはなんだ。」

「花笠踊りでございます。」


「向こうで担いでいるのはなんだ。」

 晴信が指差したのは長持ちを担いだ行列であった。


「あれは長持ち行列でございます。その里ごとで造りと音に工夫を凝らしております。」

「中には何が入っておるのだ。」

「その昔は神への貢ぎ物として若い娘を入れておったようですが、今は良い音を出すために砂を入れておるようです。」


 晴信はしばらく御柱と花笠の娘と長持行列を眺めていた。長持行列が「ぎしぎし」という独特の音を出しながら晴信の目の前に来た時だった。


 晴信の頭の中を閃光が駆け巡り、見た事も無い記号らしきものが飛び交った。馬上にいた晴信は自分の頭の中の光に自分で驚き、目を見開いたまま放心状態に陥っていた。


「建て御柱は明日でございます。本日は私共の館にお泊まり下さいませ。」

 若い娘に声をかけられて晴信はようやく正気に戻った。

「うむ。そうさせてもらおうか。」


 声の方に目を向けるとそこにはこざっぱりとした身なりの娘が立っていた。若い娘らしく、桜色の小袖を着ており、長い髪がつやつやと輝いている。娘と当主の先導で晴信は守屋の館に入った。


「建て御柱はそれは激しい物でございます。前の御柱の時、私はまだほんの子供でございましたが、柱の上から人が落ち、亡くなったのを覚えております。」


 晴信に語りかけたのは守屋の娘、しずであった。幼い時分に飯田の秋山より養女に出され、今は静と名乗ってこの神社を守っている。


「そんなに危なくては祭りをやる人間がいなくなってしまうではないか。」

「あら、静も男だったらあの柱の上に登ってみとうございます。あの柱の上は合戦と同じで命を懸ける場所でございます。」


「そうか、この祭りはそんなにいいものなのか。」

「お館様、山出しはもっとすごうございますよ。」


 春先に山から木を切り出し、その木に男達が乗って降りて来るのが山出しである。晴信はそちらも見たかったが、次にあるのは7年後であるのであきらめるしかなかった。


 大月館で静の給仕で食事をし、一献傾けているうちにめまいもおさまってきた。頭の中を飛び回った記号はいくら考えても覚えが無い物であった。




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