第5話:軍隊と月
お久しぶりです。菊一文字でございます。予告の通り遅くなりました。では第5話です どうぞ。
クラウロックの町を出て2日目、ソラとクレスは山の中を歩いていた。
「おーい大丈夫か〜?」
前を歩いていたソラが、後ろに向かって呼びかける。
「ち、ちょっと待って…」
後ろからクレスがゆっくりと登ってきた。
「ハァッ、ハァッ」
クレスは息が荒くなっている。相当疲れているようだ。
「ホラホラ、全くだらしねぇなぁーこんな山で」
「…こんなって……もう丸1日登ってるよ…た、高いよこの山…」
「あと少しだから頑張りなって、この先に俺の得意先の軍隊が拠点敷いているんだから。」
二人は、軍隊を訪ねる為山を登っていた。
ナルグの町から送った道具の代金を請求しようとしているのだ。
ここに立ち寄って代金を受け取らなければ、イビルの襲撃を受ける前に餓死してしまう。
また、軍の中から腕の立つ者を仲間にできればベストだと考えていた。
ザッザッザッザッ…
突然足音が聞こえてきた。集団のようだ。ソラとクレスは音の方を見た。
すると、甲冑で身を包んだ12、3人ほどの集団が列を作って山を下りていった。どうやら鍛練のようだ。
「ソラ…今のが得意先の軍隊…?」
「ああ、有志でやってんだけどさ、その行動力や戦闘力で国に高く評価されているんだ。
ホラ、見えた。彼らのベースキャンプだ。」
山中の広場にテントや小屋などが建っており、一つの小さな村のようだ。
「や、やっと着いた…」
クレスは体力を激しく消耗していた。
「さてと、まずは隊長を探して…どれが隊長のテントだ?」
とソラが辺りを見回そうとしたその時
「おぉ!ソラやないか、久しぶりやなぁ!」
頭に青いバンダナを巻いた長身の少年がこちらに走ってきた。
その腕には小手を付け、白地のTシャツを着ている。両腰には1本ずつ、少し短めの刀を差している。
ソラは手を振って応えた。
「ようヤマト!相変わらずラフだな!軍人とは思えないぜ。甲冑着けないのかよ。」
「あんな物重くて着けられるかい。あれ、女の子連れかいな。」
ヤマトという名の少年は横にいるクレスに気付いた。
クレス「あ…どうも…」
ソラ「ヤマト、タイタン隊長はどこだ?」
ヤマト「ああ、向こうの小屋や、案内する。」
こうして三人はこの広場で一番大きい小屋に向かった。
「隊長ー、ソラが来てまっせ……」
奥に座り背を向けていた隊長と呼ばれた男は、正にがっちり体型で、その体を鎧で包んでいる。髪は短めで赤い。見た感じ三十代後半くらいのようだ。
その風格と気迫が部屋全体に広がり、重苦しい雰囲気を造っている。
ゴゴゴゴゴ……
正にこんな効果音が合う風景だ。ソラもクレスも息を飲んだ。
ゴゴゴゴゴ……
男は体をゆっくりとこちらに向けた…
ゴゴゴゴゴ……
一気に緊張が増す二人。
そして……
「いやぁーよく来たなぁソラよ!品物はもう受け取ったよははははは!」
………あれ?
クレスは緊張がとけたと同時にびっくりした。
(ついさっきまでの気迫はー!?)
ヤマトがクレスの心理状況を察知し、声をかける。
「娘はん、びびってたようやけど、隊長は結構楽しい人やさかい安心せえや。
なぁソラ?」
「ああ。まぁ最初は怖いだろうけど何度も会って話すると、実はこの気迫はびびらせるためにわざとやってるって分かるもんだ。」
ソラが答えた。
「がっはははは!」
当の本人タイタンは豪快に笑っていた。
その時、一人の兵士が焦った顔で小屋の扉をバンと開けて入ってきた。
「大変です!訓練に出た第3部隊がや、やられました!」
その報告で、笑っていた隊長が一転して驚いた顔になった。
「なんだと!場所はどこだ!」
「山の中腹付近です!」
「すぐに向かう!ヤマトッ!来い!」
「はいな!」
「俺達も行こう、クレス!」
「ええ!」
タイタン、ソラ、クレスヤマト、兵士の5人は、急ぎ中腹へと向かった。
――― 中腹 ―――
「なんということだ…」
タイタンはつぶやいた。
「うっ……」
クレスは吐き気を感じていた。
中腹には兵士の骨や肉片、甲冑の破片などが散らばっていた。
よく見ると鋭い歯で噛み砕かれたような形跡がある。
「……獣?獣に襲われたの?」
吐き気に耐えたクレスが口を開く。
「そのようだが…」
そう言ってソラが甲冑の破片を拾い、それを見つめる。
「見ろよ、甲冑すら噛み砕かれた跡がある。只の獣のアゴじゃねぇ。」
その時、
ガサッ!
全員がその音に反応し、剣を抜き身構え、咄嗟に戦闘体勢をとった(クレスのみ剣無し)。
……音は止んでいる。しかし、背中に妙な悪寒が走る。しばらくその緊張が続いた。そして――
ガサ!!
「うわぁぁぁーっ!」
突然ライオンが飛び出し兵士に襲いかかった。
「こいつ!」
タイタンがすぐにそのライオンを蹴飛ばしたおかげで兵士は軽い怪我で済んだ。
蹴飛ばされたライオンは体勢を立て直し、グルルと唸りながらキッとこちらを睨んだ。
「「「んっ?」」」
「「あっ!」」
それぞれタイタン、ヤマト、兵士組
ソラ、クレス組の反応である。
ライオンは鼻を境に体の右半分くらいが黒く染まり、その部分から少しトゲが出ていた。
「グオオオ!」
ライオンが今度はヤマトに飛びかかる。
「調子にのるんやないでーっ!」
ヤマトは両手に握られていた二本の刀をビュンビュンと振り回し、その遠心力を乗せた攻撃でライオンを吹き飛ばした。
「おぉォォォ!」
ザシュッ
ライオンが怯んだ隙を突き、タイタンが愛用の少し大きめの剣で切りつけ、遂にライオンは動かなくなった。
次の瞬間ライオンが粒子状になって天に登っていった。
「ハァ、ハァ…やりましたね…」
「なんで半分黒かったんかいな?しかも死体も残らずに…」
「分からんな…だが、
第3部隊、非常に残念だった…」
兵士、ヤマト、タイタンがそんな話をしている間ソラとクレスは深刻なな表情だった。
「あれは、ひょっとしてイビルだったのか…?」
「イビルじゃないけど…天地神明の翼が破壊されたことでアッパースカイと下界の体裁の乱れの影響がでてるよ…
アッパースカイで魂を選別し洗い流した時出る怨念や憎悪はある場所に封印されるんだけど…今回のことでその封印が外れて怨念が下界に漏れ、ライオンに取り付き暴走させた…」
「なんや、何か知っとるんか?」
二人の様子に気付いたヤマトが尋ねた。
「……クレス」
「うん…話さなきゃね
タイタンさん、基地に戻りましょう。話したい事があります。部隊を集合させて下さい…」
5人は基地に戻り、広場に全部隊を集めた。
そしてクレスは全員に語った。
自分のこと、アッパースカイのこと、イビルのこと、天地神明の翼のこと………
どよどよ…ざわざわ…
クレスの説明を聞いた軍は、互い顔を見合わせ、信じられないな、そんなことがあるのかなどの言葉を飛び交わさせた。
当然である。彼らにとって、この話はあまりにも非現実的だった。彼らはなかなかその事を受け止められない。
しかしここで一人の兵士が口を開いた。
「信じましょう!」
……その言葉をきっかけに兵士達が口々に言う。
「それが本当なら、世界は大変なことになるな」
「イビルかビルか知らんが、調子に乗らせてたまるか!なぁ?」
「ああ!やってやろう」
こんな言葉が隊内で波紋となって広がり、やがて
ワァァァァァァ!!
という歓声で一つになった。
それを聞いたクレスは、深く頭を下げ、
「ありがとう…」というのであった…。
――その夜――
「……クレスよ…
……月の者よ……」
………誰……?
「月の者よ…太陽の光を纏うもう一つの光よ…」
月の者……?私……?
私のことなの……?
「……イシスの森…」
えっ………?
「……イシスの森に……マスターイビル…猛獣使い…沢山従えて……」
マスターイビル!?
「………」
あっ、待って!あなたは誰なの?
……月の者って…?
「…………………」
―タイタン軍キャンプの離れ小屋―
「………夢……?」
クレスはベッドの上で先程の映像を振り返る。
まだ――夜は明けない。
バタン…
「……ん…?」
小屋の扉が閉まる音でソラは目を覚ました。
まだ少し眠気の残る目を擦り、横のベッドを確認する。
だが、そこにいるはずの者はいなかった。
――キイ……バタン
再び扉が開き、閉じる。
まだ空は暗く、星が瞬いている。外に出たソラが辺りを見回すと、
彼女はそこにいた。
何か、悲しそうな顔で空を眺めていた。
ふと、クレスがこちらに気付いたようにふり向いた。
ソラはよお、とだけ声をかけ、クレスの近くに向かい歩いた。
「どうした?」
「ん…」
クレスは俯いた。
「何かあったのか?」
「うん…」
―――――――――
「夢で…声が語りかけてきた…?」
「うん……」
クレスは先程夢で聞いたことをソラに話した。
「太陽の光を纏うもう一つの光…月の者…か。太陽ってのは俺のことってのは分かるが…
月の者?クレスが…?」
「……ひょっとして私達最初から出会う運命だったのかな…?
太陽と月が出会うっていう伝説か何かがあって、それが今現実の物に……夢の中の声はまるでそうなることを知ってたような話し方だったし…
…それに…」
「それに?」
「それに何か……
助けを求めている感じだった……
イビルの居場所を教えたのも、イビルを倒して欲しいってことなのかも」
「イビルから救って欲しい人が伝説を頼って、夢を通して語りかけてきたってのか…?」
クレスはソラの目をしっかりと見て、頷いた。
「……どうする?」
ソラがクレスに尋ねると、クレスはクスクス、と笑って言った。
「…決まってるでしょ?
私も…あなたも…」
それを聞いて、ソラもニッと微笑み、
「だよな、その声が一体何か知らんが、今やることは……だな。
みんなに話してみよう。
獣が大勢いるなら、軍に協力して貰わないと」
「うん。」
そう言って二人は、空を見上げた。
無数の星達と共に、月が白く光っている。
「月の者……か」
クレスは呟いた。
「本当か?」
「ええ。イシスの森に、あの時のライオンみたいな奴がうじゃうじゃいやがる。
それを操ってるのは、俺達が探している、イビルなんだ。」
「…そう夢で言ってたんかいな?」
「ええ……」
上から順に、タイタン、ソラ、ヤマト、クレスの言葉である。
明くる日、ソラとクレスは早速、クレスの見た夢をタイタン達に話したのだ。
しかし、なにしろ夢の中の話である。
「うーむ…二人を信じない訳じゃないが、流石にすぐに行動には移せん」
「何故だ!?」
「ソラ、夢の中じゃ確信は持てへんし、それじゃ隊の士気も上がらへん。
たとえ本当だとしても。
それで戦いに出てみい。…分かるやろ…まして、第3部隊もやられ戦力も落ちとるんやし。」
「…そ、それは…だったら、偵察を出して…」
「仮に本当と確認できても、偵察が戻って来れるか…
とにかく、獣一頭に一部隊を潰す力を与える連中相手に、下手に仕掛ける事はできん。」
「仕掛けられてからじゃ遅いんだ!
…俺はクレスを信じている…隊が動かないなら、俺とクレスだけで行く。
すぐに出るぞ!」
「………待って!!」
クレスが大きな声を出してソラを止める。
「ソラ……私を信じてくれて本当に嬉しい。
でも、タイタンさんの言うことも当然だし、私としても部隊に無駄死にして欲しくない。
…ソラにもよ…二人で行ったら部隊動かすより危険だし…」
そう言ったところで、クレスはふっと笑って
「…只の夢だもの。
……ムリ言ってごめんなさいタイタンさん。
ソラ…私…先に部屋に戻るね。」
と言って、小屋から出ていった。
「……夢のことが頭から離れねぇクセに…」
そう言ってソラも出ていった。
…部屋に残ったタイタンとヤマトはしばらく黙っていた。
沈黙を先に破ったのは、ヤマトだった。
「……二人で背負わせるには、ちと重いんとちゃいます?」
「……だが…イビルの存在にも疑問を持つ者すらまだいるのだ。いや、そちらがほとんどだろう。皆昨日は表向き信じると言ったがな…
おまけに夢のお告げがあったなどと信じる者が、一体何人いるだろうか?
戦いは、その者の信念に左右される。不信の心で戦って勝てる訳が無い。
無駄に軍を死なせる訳にもいかん。」
「……二人で戦ったら、それこそ勝てる訳無い。ソラの信念がどんなにまっすぐでも…目に見えてることやで、軍ぶつけるよりも確実に!」
「だが……」
バン!!
突然、部屋の扉が勢いよく開き、四人の男が入ってきた。
そして――――
「「「「行きましょう!イシスの森へ!!」」」」
「な…なんや…!?」
「お、お前達…!?」
「森にはマスターイビルに操られた多くの獣や、イビルがいる。まともに戦ったら勝ち目は無い」
「だが、隠れてうごくにしても、この大勢で向かえば間違いなく見つかる。戦いは避けられない」
「いっそのこと少数精鋭で動くか…?」
「駄目だ。リスクが高すぎる。見つかったら終わりだ」
その日の夜のことだ。
突然乱入した各隊の隊長によってイシスの森への出陣が決定した後、どう攻めるか会議を開いて議論していた。
敵は第3部隊を簡単に壊滅させた獣達と、それを操るマスターイビル。
クレスの見た夢によれば獣は大勢、
それにかつてクラウロックの町で戦ったフォルテアノがそうであったように獣を従えるマスターイビルだって、何か他に能力があるかも知れない。
まして他のイビルの存在も皆無とは言えない。
会議は長い机を取り囲むように座って進んでいた。
出席者はタイタン、ソラクレス、ヤマト、第1部隊隊長ランド、第2部隊隊長アクス、第4部隊隊長モール、第5部隊隊長マグナムである。
会議はなかなか進まなかった。
「クレス、マスターイビルはどれくらいの強さと思うか?」
タイタンが尋ねた。
「分からない……以前は二人で倒すことは出来たけど、マスターイビルの強さはバラバラだと思うし…仮に弱いとしても能力の使い方によっては侮れない…」
「アッパースカイでは結構前から対立してたんだろ?誰か調べてねーのかよ?」
今度はアクスがクレスに尋ねた。
「何度か調べに行かせた事はあるけど……
誰一人戻っては来なかった……」
………………
しばしの沈黙が流れた。
「用心に越した事はねぇか…」
ランドが会議の空気に戻した。
「だが確かな事がある。獣達はマスターイビルを倒せば止まるということだ。
しかしそういう奴は大抵軍の最後尾に回る。
つまり総力戦でまともに戦えば長期戦だ。
それではこちらが圧倒的不利となる」
マグナムが言った。
「…ということは、やはりマスターイビルの暗殺か… なら問題はどうやって倒すか、だ」
モールがそう結論を出した。
しばし思考……
その後、タイタンが口を開いた。
「イシスの森に獣が何百匹もいるとは思えんのだ…おそらく兵の数はこちらがまさっている。
そう考えれば案外作戦は立てやすい」
「何か思いついたっちゅうんやな隊長、どうするんや?」
ヤマトはタイタンの発言に食い付いた。
「うむ、少数精鋭と残りの二手に別れて動く。
少数精鋭は隠れてマスターイビルを暗殺に行く。
残りの者は獣共と戦う囮だ」
タイタンの案は簡単な物ではあるが、相手の大半は知能の低い獣である。
下手に策を弄するよりも確実かもしれない。
反対者はいなかった。
「では、少数精鋭の者を選抜せねば」
モールが言った。
「うむ。だが、この役はソラとクレス、君達二人には行ってほしい。
イビルのことは君達が一番分かっているだろう」
「でも待ってくれ、俺達が隠れたら間違いなく、皆が囮だってばれるぜ」
「分かってる。が、その囮が大勢で正面からまともにぶつかってくるとすれば、奴らには他に兵力を割く余裕は無い。
君達の存在を隠すというより、そちらが狙いだ」
ソラはタイタンの回答に納得した。
「じゃあすまないけど、隊一つをこっちに割けねーかな。
確かに俺達二人でマスターイビルを倒したことはあるが、ギリギリだったし、今回の奴がそれより強いかもしれない」
「そのつもりだが、隊一つ分の人数では動きづらいだろう。
ヤマト、お前がついていけ。
ソラとの連携も一番やり慣れてるだろ」
「ソラとの連携をやり慣れてる?」
タイタンの言葉に反応したのはクレスだった。
「なんやソラ…言うてなかったんかいな」
「あ…言ってねーや…
俺は数年前この軍隊にいたんだ。
ヤマトとはよく組んで動いてた」
「へー……」
クレスはそれで、今までのソラの強さやタフさに納得した。
と同時に、数年前といえばまだ子供のはずなのになんで軍にいたんだろうという疑問が新たに生まれた。
「ヤマトよ、第6部隊からソラと共に行く兵士を7人ほど選抜しろ!
残りは森で決戦だ!」
タイタンが叫ぶと、突然クレスが立ち上がる。
「皆さん……」
クレスが静かに話し始める。
皆がクレスに注目する。
「本当ならこれは、私たちの問題…皆さんが命を張って関わるべきじゃないはずです…
…こんなことに巻き込むこと、どうかお許しください…」
と言うと、クレスは頭を深々と下げた。
やがてランドがふっと笑い、
「俺達はこの世界を守るのが仕事だ。君達がいなくても、やるぜ」
と言うと、
「そうだ、俺達は巻き込まれたんじゃない。やるべきことをやるだけだ」
「死ぬなんて軍に入った時に覚悟しているさ」
「そう自分を責めるな」
アクス、モール、マグナムが続けて言った。
そしてタイタンが高らかに叫ぶ。
「出発は明日の朝だ!」
「オォォォーーー!!」
「……ありがとうございます!」
クレスは、ひたすら感謝する。下げた頭はしばらく上がらなかったとか…
―――そして………翌日
評価、感想、アドバイス等お待ちしております。次回は未定です。しかし1ヶ月以内に更新したいと思います。