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第48話:終止符

半年も放置して申し訳ありませんでした!いつもながら、大まかな筋は決まっていながら、どうまとめるかに苦労し後回し後回しにしてここまで・・・本当にすみません!



戦場と化している森の中・・・

ソラとクレスがアイアクロスと戦いを繰り広げている最中、その戦場から離れた場所で、二人の人物が対峙していた。

一人は、黒装束の老人・・・セルビスだ。彼は目の前に余裕の態度で佇む人物を、キッと睨み続けている。


そして、そのもう一人の人物は・・・



「貴様・・・それは一体どういうことじゃ!!」





――――――――――――――――



時を遡り・・・ある場所では、周囲の木々を揺るがすような声が響いていた。



オオオオ・・・!

グッ・・・!

グワッ・・・!



「ぬおりゃあああああっ!!」

「ギエエッ!!」

「グフアッ!!」

「くそっ、次から次へとしつこいやっちゃなぁ!!」


声は、ある一人の青年の裂帛の気合いと、彼を取り囲むいくつもの影の悲鳴とで構成されていた。青いバンダナを頭に巻き、両手に握る刀を振り回す青年は、周囲から襲い掛かる黒い影を斬り倒していく。


「グウゥ・・・」

「ギィィ・・・」


否、倒してはいない。黒い影・・・猿型のイビルは青年・・・ヤマトに斬り飛ばされたイビルは、一人として霧散していない。それは即ち、誰一人として死に至っていないということである。だが、イビルは再びヤマトに立ち向かうことはなかった。彼らはすべて、手や足を絶たれていたのだ。


「くぅっ・・・太陽の力があらへんからなぁ・・・殺してしまうことは避けたいんやが・・・」


太陽の力を持つソラやクレスがおらず、その状態でイビルを殺せば、太陽の力でのちに再生するはずの魂を消滅させてしまうことになる。ヤマトは、イビル達の生命活動を停止させることのないよう、戦闘力を削ることに専念していたのだ。しかし、結果としてヤマトは持久戦を余儀なくされてしまっている。ついに発見した標的を討伐せんという勢いで次々と敵が押し寄せてくるため、振り切ることも出来なかった。ヤマトの体力が尽きる前に援護が来るか、堪えている間に敵の頭であるメディストルを倒してしまうか・・・。


「これはちときついなぁ…」


いずれにしろ、ヤマトはこの持久戦を続けるしかなかった。


――――――――――――――――――――

「ハアッ、ハアッ・・・」


ヤマトが戦っているころ、また別の場所を駆け抜ける小さな人影があった。両手に苦無を逆手に握り、辺りをキョロキョロと見渡しながら、人影、アルエは森の中を駆けていた。


「!!」


高速で走り続けていたアルエだったが、突如、何かに気づき足を止め、左手方向の一か所・・・彼女から十数メートル離れた茂みを見据える。


「そこにいるやつ、何者だ!」


苦無を握る手に一層の力を込め、茂みから目を離すことなく叫ぶ。対象は茂みに隠れきっており姿が見えないが、若年ながらも殺し屋として幾つもの修羅場を潜り抜けてきたアルエは、気配を察知する自身の勘が間違っていないことを確信していた。


「出てこないならば・・・!」


アルエは苦無を順手に持ち直し、左腕を後ろに引く。苦無を投げる体勢だ。


「ま、待って待ってアルエっ!私、私だよ!」


慌てたような声を上げながら、茂みからささっ、と人が現れた。それは、アルエも知る人物だった。毛皮のベストを纏い、弓を握るその姿は、最も遅くながらも、この森で新たに仲間になった人物のもの・・・。


「ウル!?よかった無事だったのか!」


ソラ達とイビルの戦いに巻き込まれてしまったこの森の狩人、ウルであった。


「よかったぁぁ~!あの爆発からみんな離れ離れになっちゃったからさぁ、何とか隠れ隠れやり過ごしてたんだ!」

「そうだったのか・・・」


メディストルによって仕掛けられた、砲撃型のイビルによる爆撃で、仲間達は散り散りになっている。ソラ達は、ソラとクレスの太陽の力がない限り、戦闘を避けたい状態にある。よって、今はイビルとの戦闘やメディストルの行方より、ソラ達仲間との再会が急務だ。アルエとウルが再会出来たのは、その一歩と言えるだろう。



オオオオ・・・!

グッ・・・!

グワッ・・・!



「ん・・・?なんだこの声・・」

「アルエも聞こえるんだ…!凄いね!」

「ウルもか?」

「狩人だからね」



互いの聴覚に感心している場合ではない。この声の正体を割り出すことが先決である。


「何かが・・・何かに襲われている感じだね・・・」


ウルは漠然とした感想を述べただけであったが、アルエにはこの声には聞き覚えが・・・馴染みがあった。


「この声は・・・ヤマトだ!」

「ヤマト!?・・・って確か、青いバンダナした・・・」

「そうだ!ヤマトが戦ってる!おそらく・・・イビルと・・・」

「え!?じゃあ早く加勢に・・・!」

「いや、待て!!」


声のした方へ駈け出そうとするウルだったが、それをアルエが静止した。


「なぜ!?ヤマトを助けないと!!」

「加勢して突破しても新たなイビルが差し向けられるだけだ!それより、ヤマトが敵を引き付けているうちに、メディストルを探し出して倒すんだ!」

「で、でも・・・それじゃヤマトは・・・!」

「あいつはそう簡単にくたばるやつじゃない!」


そう言い切ると、アルエはヤマトやイビルの声がした方とは逆方向に走り出した。ウルもまた、アルエの言うことに一理あると感じたのか、ウルも一度は後ろ髪を引かれるようにヤマトの方を見るも、すぐにアルエの後を追いかけていった。


「「!!」」


前方から二体のイビルが飛び出してくる。


「ちっ!」


毒づきながらも、アルエは咄嗟に苦無を構えた。速度は落とさない。このまま勢いに任せて迎撃し、突き進むつもりでいた。


一方ウルは、走りながら矢を一本背中の矢筒から引き抜き、弓を強く引き絞った。アルエもそれを把握したのか、身をずらし、射線から外れる。そして、ウルは矢を放った。



―――――――――――――――――





「ちょっと待て、クレス!」



アイアクロスを倒したソラとクレスは他の仲間達との合流を目指していたが、ここでソラは足を止めた。


「どうしたの?」


「血の匂いだ・・・!」

「血!?」


戦場において血の匂いというのは珍しくはないが、ソラ達が置かれている状況においては違う。イビルは、太陽の力を介するにしろそうでないにしろ、命が尽きれば粒子となって消滅する。よって、その身を斬ろうとも貫こうとも、血液が飛び散ることは一切ないのだ。

そんな中で血の匂いがするということは、仲間である可能性が高い。あるいは、ウルのように巻き込まれてしまった民間人ということも・・・。


「確かめるぞ・・・」

「うん・・・!」


その場にはまだ誰かが残っている可能性を考慮し、ソラは剣を抜きクレスは拳を握り、血の匂いを感じた茂みの奥へと進んでいく。歩を進めるたびに血の匂いは強くなり、言い知れぬ不安感が段々と二人を襲う。


「はっ・・・!」


血だまりと、そこに横たわる人影・・・その人影は、なんとソラ達の知る人物だった。


「「アルエッ!?」」


戦場におよそ似つかわしくない小柄な体躯は、その体躯と裏腹に過酷な経歴と戦闘能力を持つソラ達の仲間のものであった。ゆえに、ソラとクレスは一瞬その光景を信じることができなかった。が、すぐに現実であると分かり、アルエのもとへ駆け寄った。



「おい、アルエ!アルエッ!」


意識があるか否か、呼びかけながら目視で傷を確認する。傷は腹部を深々と貫く刺し傷であった。出血量から判断しておそらく貫通しているのだろう。


「ぐ・・・!」

「!・・・まだ生きてる・・・!」


アルエのうめき・・・彼女がまだ生きていることを確認したソラは、自身の服の袖をちぎり、傷口を縛り止血を図った。


「ふ・・・二人とも・・・」


アルエが意識をはっきりと取り戻し、二人を認識する。ここまではっきりすれば、血はひどいが、無理をしなければ命に別状はないだろう。


「こんなことって・・・何があったの・・・」

「私を・・・う、ぐっ・・・!」

「無理すんな!安静にしてろ!」


「私を・・・ぐっ、襲ったのは・・・あいつだ・・・!」


―――――――――――――――――――――――――――



「そういうこと・・・」


時を戻し、冒頭でセルビスと対峙していた人物は、ペンダントをくるくると指で回す。



「まさか貴様が奴らに寝返っていたとはな・・・ウル!!」



セルビスと向き合う者にして、アルエを倒した者の正体・・・それは、ウルだった。



「裏切ったっていうのは違うんだなぁ~~、そ・れ・が」


そう言うと、ウルはその場でくるりと一回転した。すると、茶色い髪が段々と白く、そして、肌は浅黒く変化する。


「まさか・・・!貴様もともとイビルか・・・!」

「そ、メディストル様に生み出されたマスターイビル・・・ウルよ。もっとも、貴方達を騙す変身のために能力の半分をつぎ込んだから、戦うのは苦手なんだけど・・・」

「ならば、話は簡単・・・お前を瞬殺するまでよ!」


セルビスは短刀を取り出す。本来はイビルを太陽の力なしで殺害するのは好ましくないが、アルエのことも心配である以上、考える余地はない。


「分かってないなぁ・・・なんでアルエちゃんにとどめを刺さずに置いておいたか分からない?」



そう言うとウルは、セルビスに見せつけるように、矢をつがえた弓を上空に向ける。矢の先には矢じりではなく、導火線に火のついた円筒のようなものがついていた。


「まさか・・・!」


セルビスは、長年の経験から、その意図を察した。


「アルエちゃんの周りにはお忍びのイビルが配置済み・・・私がこの狼煙付きの矢で合図すれば、アルエちゃんはたちまちバラバラってワケ」

「貴様・・・グゥッ!!」


憤慨するセルビスだったが、ここで突如、右足に鋭い痛みを感じ、ガクッと膝をついてしまった。激痛の原因を確認せんと右足を見やると、その脹脛に矢が刺さっていた。後ろから放たれたもののようで、眼前のウルが放ったものではない。


さらに先を見ると、トカゲ型のイビルが這っているのが見えた。その口からは、矢じりのようなものが生えていた。セルビスは知らないが、海底都市で見た射撃タイプのイビルである。


「どうすればいいか・・・言わなくてもわかるでしょお?」

「くっ・・・!」


抵抗せずにここで死ね・・・しかも最初に足を射抜いたところを見ると、なぶり殺しにする気なのだろう。しかしアルエが人質となっている以上、手出しすることはできない。



「その怖~いものは没収よ♪」

「がっ!!」


次に撃たれたのは、怖いもの・・・即ち短刀を握る、右腕。力の入らなくなった手から、短刀がこぼれ落ちる。



「うーん、でも拾いそうだからもう一本いっとくか♪」

「ぐっ!!」



続いて左肩。



「あ、そうだぁ・・・土下座して命乞いする?手伝ってあげるわぁ♪」

「ぐお!!」



左足をも射抜かれ、立つことも出来なくなったセルビスは、地に伏せてしまう。なんとか立ち上がろうとするも、四肢に力が入らない。



「ぶ・ざ・ま・ねぇ~♪惨めな気持ちでしょ・・・」


楽しそうにコロコロと笑うウル。最初に出会った時と同様の無邪気そうな笑顔だが、そこには邪悪な魂が込められている。

そんな笑みのまま、ウルは悠々と矢に付けられた狼煙の筒を外した。


「可哀想な貴方には、私がトドメを刺してあげるわ・・・」



筒を足元に捨て、導火線の火を踏み消しながら、ギリギリと弓矢を引き絞る。


「ぐ・・・ぬうぅ・・・!!」


セルビスはなんとか逃れようとするが、四肢が動かない状態ではどうすることも出来ない・・・。





「さ・よ・な・ら・・・」






矢の羽を摘まむウルの手が離れ、矢が放たれた。






しかし、その矢は地に伏せたセルビスの遥か頭上を飛び越えていってしまった。

ウルは矢を放つ前に、背中からの衝撃に自らの体を襲われたのだ。




「・・・え?」




衝撃の正体・・・それは背中から腹にかけて貫く金色に輝く刃と、それを握るソラだった。



さらに、それまでセルビスを撃っていたイビルも、クレスによって倒されていた。

そして、ウルが射殺したと思っていたアルエも生きており、倒れ伏すセルビスに向かっていた。



「じいちゃん・・・大丈夫か・・・?」

「・・・お前こそ・・・」


アルエはウルに撃たれた傷口を押さえながら、セルビスと互いの安否を確認し合う。




「アルエの周りに配置してたイビルは俺とクレスで倒したぜ・・・!」

「そう・・・だったの・・・てことは、アイアクロスも・・・全く、上手くは・・・いかないものね・・・」


ふ、ふふ・・・と自嘲気味な笑いを溢し、ウルは消滅した。





――――――――――――――――



「遅いのう・・・そろそろ戻ってくると思うたが・・・」


メディストルはただ一人場を動くことなく、報告を待っていた。

「あの連中の始末、完了しました」という報告を。


アイアクロスと、ウル。この二人は連中の持つ『良心』を突くべく生み出したマスターイビル。かつてエンゼルであった者を媒介とし、躊躇からくる隙を真正面から叩き潰すアイアクロスと、殺気を完全に殺して第三者を装い、信用を隠れ蓑に背後から刺すウル。

この二人ならば、連中の全滅も不可能ではないと思っていたのだが・・・。


すると、ザザザザ、という音が聞こえてきた。草地を踏む足音だ。間隔が短く、走っているのだろう。その音は真っ直ぐこちらに向かってきている。


「ついに来たか・・・!」


メディストルはその足音が報告に来たイビル・・・アイアクロスかウルかと思い、その場で待機した。


そして、足音の主が眼前に飛び込んできた。




「よう・・・」


「なっ・・・貴様は・・・!」



しかし、その姿はメディストルが望んだものではなかった。

その髪と同じく剣を黄金に輝かせ、メディストルを睨み付ける彼は、二人のイビルに始末させたはずの青年・・・ソラであった。


「アイアクロスとウルは倒したぜ・・・あとはお前だけだ!!」

「ば、バカな・・・!それに、何故此処が分かった!?」

「あの爆発の混乱の中で二人に俺達を始末させて、お前自身はその報告を待つため動かねえと読んだだけさ・・・!」


ズバリ、図星であった。メディストルはそれまでの攻防で、完全に自信をつけていた。それが油断となり、この結果を招いたのだ。



「お前には散々手こずったが・・・それもこれまでだ!!」

「ひ、ひいっ!!」


メディストルは恐怖に背を向け、逃げんとするが・・・




「消えろ!!!」

「があっ!!!」




ソラは一気に踏み込み、上段に構えた剣を思いきり振り下ろし、メディストルを切り裂いた。




「ひぃ・・・ぎゃああアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」



真っ二つになったメディストルは、断末魔の悲鳴を上げながら粒子となり消えていった。


その場に、淡い光を放つ一枚の羽根を残して。



かくして、海底都市から続いたメディストルとの因縁の戦いに、遂に終止符が打たれたのだった。




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