第45話:狩人
物語は大筋を決めてから細部の繋がりを埋めていくというのが私のやり方なのですが、その穴埋めが難しいんですよね……はい、言い訳です…すみません……。
第45話です、どうぞ。
川原で食事を摂っていたソラ達の前に茂みから飛び出してきたその人物は、半袖の白シャツの上に動物の毛皮から作られたであろう袖のない黒いベストを羽織り、ぴっちりした青い長ズボン、腰まで伸びたストレートの茶髪の、クレスよりも4、5歳年上といったくらいの若い女性だった。
背中には何やら筒らしきものを背負っている。その中には、羽のついた細い棒……おそらく矢であろうものが入っていたが、それを放つための弓がどこにも見当たらなかった。
何かに追われているのだろうか、常に自分が飛び出してきた茂みの方を気にしているようだ。
「オラァ待ちやがれェ!!」
「ヒャッヒャッヒャアァ!!」
続いて茂みから二つの影が飛び出してくる。それは、ソラ達もよく知る黒い影……今や旧型となってきた猿型のイビルだった。状況から察するに、女性を追ってきたのだろう。彼らが飛び出してきた瞬間、女性がひっ、と小さな悲鳴を漏らした。腰が抜けてしまったようで、逃げられる状態ではないらしい。
「……なんだか分からねーけど!!」
何故彼女が追われていたのかはさておき、相手がイビルなら自分達の敵、と結論付けたソラが、彼女を庇うようにイビル達の前に立ち塞がる。
「テ、テメーは……!!その女、テメーらの仲間か!?」
「だとしても、もう遅い!!」
瞬間、ソラは剣を抜き、素早くイビル達に一太刀ずつ浴びせる。イビル達は悲鳴を上げる間もなく金の粒子となって消滅した。光の力も随分と使いこなせるようになっていた。
「大丈夫か?」
イビル達が消滅したのを確認したソラは剣を納め、膝立ちとなって女性に目線を合わせる。女性は少し呆然としていたようだが、助かったのだと理解したのか、ぱっと笑顔になり、
「サンキュー!!助かったぁ!!」
がばっとソラに抱きついた。
「「「「!!!」」」」
「!!!??////」
突然の行動に五人全員が驚く。特にソラは異性と密着したことで恥じらいを感じているようだ。
「お、おいおい何なんだいきなり!!?///」
「アハ♪照れちゃって、か〜わいい〜!」
女性はソラの初な反応を楽しむように、抱擁を強くする。ヤマト、アルエ、セルビスの三人は複雑な表情を浮かべたまま、呆然としていた。
「!!!」
そんな中、ソラは何か悪寒のようなものを感じた。ヤバい、殺されると錯覚してしまうような鋭い気配。その身に突き刺されるような視線を目で辿ると、その発信源となっていた人物は真っ直ぐにこちらを見つめ……いや睨んでいた。
「あ……あのー、クレス……?」
口元は笑っているのに、クレスからは何故かやたら威圧感のある怒気が発せられている。その怒気に当てられたソラの顔に、変な汗が滲み出る。クレスは目を据わらせたまま、ゆらりとソラ達に向かって動き出した。
そして、ソラの目の前で動きを止め……
「ソラの…………
……ッ、バカ――――ッ!!!!!」
次の瞬間、渾身の力が籠ったクレスの拳がソラの横っ面を抉り、彼の体は宙を駆けていった。ソラに抱きついていた女性はその勢いで手を放し、その場に倒れ込む。突然手から感触が消え、何が起こったのか状況を判断し始める頃には、『吹き飛んだ何か』が川に叩きつけられ、水柱が立っていた。
『この小説始まって以来の五年間で一番痛かったです……』
後に、ソラはそう語ったとかなんとか……。
「……で、あなたは何者なの?」
しばらくの後、川から引き上げられ屍となっているソラを尻目に、女性への尋問が始まっていた。
先程の出来事があってか、クレスはご機嫌斜めの様子だ。一応、女性対クレス達四人で向き合ってはいるものの、ヤマト、アルエ、セルビスの三人は若干クレスとの距離が開いている。
「あ……この森に住んでる狩人なんですけど……」
件の女性はというと、何故か正座で敬語になっていた。目線がチラチラと泳ぎ、クレスと、倒れ伏すソラを交互に見やっている。おそらくクレスを恐れて低姿勢になっているのだろう。
「あー……クレスよ、そんなに怒気を出しながらじゃ居心地悪いじゃろうよ……勘弁してやったらどうじゃ?」
「それは…そうだけど……」
(ソラに抱きついていたとはいえ…それだけだもんね…)
クレスは、ソラに好意を持っている。故に、女性がソラに抱きついたことに怒りを覚えたことは分かっているが、何故それほどまでに怒りが込み上げたのかが、イマイチ腑に落ちていないのだ。
(独占欲……ってやつなのかな……?)
「……あ〜…えっと……」
おそるおそるといった感じで女性が四人に声をかける。その声によって四人が自分に注目するのを確認すると、女性はオホン、とひとつ咳払いをすると、ぱっと明るい表情と自分のペースを取り戻し、口を開いた。
「改めまして、私はこの森に住んでる狩人で、名前はウルといいます!先ほどは助けていただき、誠にありがとうございましたっ!」
ウルと名乗る女性はしゅたっ、と敬礼しつつ捲し立てるように言う。これが彼女のペースなのだろう。その大げさな物言いと仕草に、自然とヤマト達も、怒りを覚えていたクレスまでも和やかな雰囲気になった。
「……で、その……あの化け物達について何かご存知なら、お聞かせいただけない……?なんか、皆さん戦い慣れてる感じだったから……」
今度は恐縮そうに、控えめな感じで尋ねてくる。本当に表情がコロコロと変わる人だ、と思いつつ、クレスが率先して話し出す。さっきまでの理不尽な怒りはもうない。
「あまり詳しくは言えないけど、あれはイビルっていう種族。私達は奴らと戦ってるの。今は、戦地をこの森の中に限定して敵の戦力を削ってるところ。
……巻き込んでしまってごめんなさい、この森の中に人が住んでたなんて思わなくて……」
いやいや気にしてない、とウルは手を左右に振るが、でも……と重く口を開く。
「よろしければ、しばらく皆さんについていってもよいですか……?周りは化け物だらけだし、私の家も潰されて……」
それを聞いた四人は、どうしよう?と顔を見合わせるが、クレス、ヤマト、アルエの目線がセルビスに向く。判断をセルビスに仰ぐようだ。
「……本来なら、ワシらと共に来るのは極めて危険じゃが……やむを得まい。じゃが、自分の身は自分でなんとか出来るようにの」
同行を許可され、ウルはありがとうございます!と頭を下げた。
その後、起き上がったソラにその旨を説明し、晴れて狩人ウルが仲間になった。