第40話:包囲網
とうとう40話までやって来ました。あとどれくらいで完結するのか、私にもわかりません(汗)。
第40話です。どうぞ。
竹林を取り囲む黒い影……その一角にいる、黒く老いたマスターイビル、メディストルは、浮かべた笑みに狂気の色を滲ませながら、今か今かと待ちわびていた。
「お……?」
メディストルは、『竹林とは逆方向である』背後に気配を感じ、振り向いた。
「お…おぉ……おおおおぉぉ!!?」
振り向いた先にある何かを視認すると、メディストルは子供のように目を輝かせた。
視界の先には、黒い影……イビル達の塊。どうやら増援のようだ。それも、かなりの大軍だ。
大軍の先陣には、他のイビルとは違う出で立ちの者がいた。メディストルの老いたものとはまた違う長い白髪をストレートに下ろし、紺色の鎧、手甲、脚絆を身に着け、腰には大剣を携えている。まるで王を守護する騎士のような出で立ちだ。
おそらく、この大軍を指揮するマスターイビルであろう。
「メディストル殿、お望み通り援軍を連れて参りました。ただ、なにぶん急であったので見ての通り最下級のイビルばかりですが……」
騎士のイビルの言う通り、彼の引き連れてきたイビルの大軍は、皆猿のような姿をしたものばかり。今や個人では、メディストルがつけ狙う、ソラ達の相手には到底ならない。
「構わん構わん……ワシが欲しいのは戦力ではない……目と壁じゃからな……
では、始めるかのう、フェッフェッフェ……」
一方、ヤマト、アルエ、セルビスの三人は、竹林が包囲されていることを知り、敵から少し離れたところで隠れていた。
『光』を使えない三人は、ソラ、クレスと合流するまで戦闘を避けたいところだったのだが……。
「む!?」
いち早く状況の変化を察知したのはセルビスだった。
「まずいぞ……二人共、あれを見い!」
二人は青ざめるセルビスの示す方向を見ると、同様に青ざめた。
「なんやあいつら……こっちに向かって来よるぞ!?」
「しかもなんだ、あの数は……!?」
イビル達は隊列を組み、黒い塊となってザッ、ザッ、とこちらに迫って来ていた。
それはさながら、竹林を向こうから徐々に呑み込んでいくようだ。
「包囲網を縮めるように動いておるらしいな……中心に向かってヤツらの円が縮めば、竹林の中にいるワシらはいずれ発見される……。
おまけに円が縮めば縮むほど、円からはみ出す者が後ろに並ぶから飛び越えることも出来なくなる。このための大軍か……!」
「飛び越えようにも竹林では登れないし、隠れることも出来ないか……!」
「待つのは止めや……早うソラ達と合流した方がええ!」
「うむ」
一刻も早くソラ達と合流するため、ヤマト達はイビルに悟られないように動き出した。
「あいつらすぐに見つかりゃええねんけど……」
「考えてる場合じゃないだろ!バラけて探すか……」
「それはいかん!ワシらが合流出来るか分からんぞ」
ソラ達を探すといっても竹林の中では再会出来るかどうかは怪しい。よって三人は不安を紛らすかのように、案を考えながら、移動を続ける。
だが、いずれ発見されるのも時間の問題。仮に合流出来たとしても、どうやって包囲網をくぐり抜けるか……。
「まさかヤツら……ここまで予測して……?」
「じいちゃん、どういうことだ?」
「ヤツらの作戦は、ワシらとソラ達を引き離すところから始まっていた、ということじゃ」
光を使える者と使えない者に分断し、使えない者を必然的に戦闘不能に追い込む。合流する頃には、敵の布陣は完成される。加えて逃げ場のない竹林……。
「この竹林を抜けようとする、最初から仕掛けられていた罠だと……?」
「く……確かにあのクソヤロウやったら考えつくかも分からへんな……!」
セルビスの、精神から追い詰めようとする陰湿な手口は、海底都市でヤマトとアルエは目にしている。セルビスも遠くから確認しただけではあるが、その狂ったような執念の露呈を見ている以上、メディストルがこの策を練り出したことは充分に肯定出来る。
ますます追い詰められていく三人に、魔の手は着々と忍び寄っていた。
「なんだあいつら……きっちり行進して来やがる……」
「私達を見つけた訳じゃないみたいだけど……」
ソラとクレスもまた、イビルの大軍の接近に気づいていた。太い竹を選びイビル達の視界に入らぬように後退しつつ様子を伺っている。
ヤマト、アルエ、セルビスの三人とは違いメディストルの姿を確認してはいないが、マスターイビルの統率があるだろうということは予想していた。
「ヤマト達は無事かな……」
「あいつらは簡単には死なねーさ。とにかく、三人と合流しよう」
「……うん……」
「……?」
ソラの励ましに、クレスは歯切れ悪く返し俯いてしまった。クレスのこの態度に、ソラは、クレスが三人だけではない、他の何かを心配しているようだと感じた。
「……どうしたクレス?」
「なんか……嫌な予感がする……三人の事じゃない。よく分かんないんだけど……」
何かが失われたような……嫌なことが起きてる気がするんだ……。
「フェッフェッフェ……!久しぶりだなぁ糞餓鬼共め……」
「……気持ち悪い顔を近づけて喋るな」
結局三人は、ソラ達と合流する前に捕まってしまっていた。武器を取り上げられた三人は背中合わせの状態で、まとめて縛られている。
メディストルはその様子を見て大層ご満悦のようだ。アルエの毒づきにも全く気にする様子がない。
「なに、安心せい……お前達はまだ殺さん。残りの二人がやって来てからじゃ……
右腕の恨み、たっぷりと晴らしてやるからのぉ……フェッフェッフェ……
フェーッフェッフェッフェッ!!!」
狂ってる……
狡猾残忍なマッドサイエンティストが破顔し、歪んだ表情で笑い狂う様は、ヤマト達三人に冷や汗をかかせるには十分だった。
「メディストル様」
そんな彼らの元に、援軍に駆けつけた騎士のマスターイビルが現れた。
「例の二人、拘束しました」
「「「!!」」」
近くで聞いていた三人の表情が絶望に変わる。このままでは、待っているのは全員の惨たらしい死……まさしくメディストルの思うがままだ。
「ご苦労であった……さて、ヤツラはどのように苦しんでいくのかのう……?
…フェーッフェッフェッフェッフェッフェッ!!!」
メディストルの顔が更に狂気に歪む様を見ながらも、三人には状況を打開する術はなかった。
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