第39話:執念の狂科学者
短いですが、キリがいいので投稿します。
第39話です。どうぞ。
「オラァ!!」
「ハァァ!!」
気合いと共に空を切る白銀の閃きと、黄金の輝きが、黒い異形を捉え、切り裂き、穿つ。
レビタの町を出て二日。ソラ達は竹林の中でイビルと戦闘を繰り広げていた。イビルはレビタの町で見た、両腕が刀になっている新型が四体。
しかし、イビルと戦っているのはソラとクレスの二人。ヤマト達三人とははぐれてしまったようだ。
ソラが最後の一体を頭から縦に真っ二つにし、イビルが霧散したのを確認すると、二人はふぅ、と息をついた。
「ソラ……駄目だ、三人とかなり離れちゃったみたい……」
「くそー、集中攻撃避けるために分散したのが仇になっちまったな……」
「無事だといいけど……これからどうする?三人を探す?」
「……いや……先ず竹林を抜けた方がいいな……見通しがいいとはいえ、こんな広い竹林の中じゃあすれ違うのがオチだぜ」
「そうだね……」
事のあらましはこうだ。次の町を目指して竹林に入った一行は、突然イビルの軍団に襲われた。一ヶ所に固まっては危険だと判断したセルビスの進言によって、一行は散開し戦っていたが、その結果はぐれてしまったらしい。
ソラとクレスが共に居られたのは不幸中の幸いだろう。これでクレスの、ポータブルサンの光切れによる命の危険はない。
とにかく林を抜けようと、ソラとクレスは先を急いだ。
一方、同竹林の中を颯爽と駆ける三つの影があった。
「ホレ、早うせんか」
先頭を走るのはまさしく影のような黒装束のセルビス。その少し離れた後ろに、アルエとヤマトが走っていた。
「な、なんでや……なんであのじーさんあんな速く長く走れんねん……」
「じいちゃん……闇のセルビスは健在か……」
ブツブツと愚痴のようにこぼしながら走る二人を見ていたセルビスは、フゥ、と呆れたように溜め息をつくと、足を止めた。その間に後ろの二人が距離を詰めると、セルビスは二人に向き直る。
「なんじゃなんじゃ、島に籠っとる間に、随分と温い時代になっとったんじゃのう……ワシの若い頃なんざ山から山へも昼夜休まず駆け……」
「あ〜ハイハイ、じいちゃんの長話は勘弁だから……」
「……ならば急ぐぞ。いつまたイビルが攻撃を仕掛けて来るか分からん。ワシらは『光』を出せんのじゃからな」
「……分かっとるわ……竹林抜けてソラ達と合流せなあかんな……」
セルビスの言うように、三人は『光』を出せない。もし今イビルに襲われれば、『光』による浄化が出来ないため、イビルを殺す他にない。それを出来る限り避けたい三人は、息を整えると一刻も早く竹林を抜けるべく走り出した。
どれくらい走ったか、三人はようやく竹林の出口が見えるところにまでやって来た。
「む!?止まれ二人共!!」
二人はセルビスの合図で止まると、すっかり荒くなった呼吸を整えんと肩を揺らす。
「ぜぇ、ぜぇ、ど、どないしてん?ぜぇ、ぜぇ……」
「息を潜めろ……どうもマズイことになっとるようじゃな」
「ハァ、ハァ……どういう……こと、じいちゃん……?」
「ここで地に伏せて待っとれ。音を立てるんじゃないぞ」
セルビスは二人にそう言うと、一人、視界の先にある出口に向かって駆け出した。残された二人は訳も分からず顔を見合わせるが、何かあるのだろうと判断しセルビスの言う通り地面に伏せた。
二人を置いて駆けていったセルビスは、何かに気付くと出口付近の竹が密集している場所に回り込み、出口を睨み付ける。その視線の先には、ズラリと横に並ぶ、黒いトカゲ頭の異形。海底都市にいた、口から矢を放つタイプのものだ。
「イビルの群れ……竹林を取り囲んでおるようじゃな。ワシらが中におることは知られとったか……
……ん?アイツはなんじゃ?」
ざっとイビルを見渡したセルビスは、その中に見覚えのない者がいることに気付いた。
「フェッフェッフェ……ヤツラはもはや袋の鼠じゃよ……」
竹林を取り囲むイビルの輪の中に、一人の老人がいた。
「腕が……」
老人はボソリと呟くと、浮かべていた笑顔を歪ませ、腕のなくなった肩を押さえる。
「この腕が……クソガキに落とされたこの腕が!!ヤツラをなぶれと!殺せと疼いておるわァ!!あぁ……待ち遠しいッ!!ヤツラが苦痛に顔を歪ませるのが!!ヤツラが血に濡れる様が!!ヤツラが悲鳴を上げるのが!!ヤツラがズタズタに引き裂かれ肉片になる瞬間が!!フェッフェッフェッフェッフェッフェッフェッフェッフェ……!!!」
欲しいオモチャを我慢するかのように、白髪を揺らしめ笑うこの老人は、かつて海底都市のタツノミヤでソラ達と戦い、クレスをイビルへと変えたマスターイビル……
『メディストル』であった。
片腕を切り落とされたマッドサイエンティストは、更なる狂気を白衣と共に纏い、今ここに、復讐を果たさんとやって来たのだ。
(コイツはヤバイ……ドス黒い執念を感じるわい。手段を選ばぬという感じじゃ……何か考えねばな)
(じゃが待ち伏せしていることを考えると、大部隊を送って来ることはあるまい。そこは安心じゃが……)
(やり過ごすことは期待出来んな……ワシらが中に居ると分かれば、ワシらが現れるまでいつまでも待つじゃろう……あの狂気と執念を見りゃすぐ分かるワイ)
セルビスは状況を認識すると、ひとまず気取られないようヤマトとアルエの元に戻っていった。
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