第34話:光の意志
明けましておめでとうございます。
この小説、なんと4周年目です。こんなペースでいつ完結するか……(汗)
なんとか頑張っていきますので、今年もよろしくお願いします。
「違うわい!集中せい集中!」
「やってるよジジイ!」
「口答えする余力を集中に使わんか馬鹿者!」
ソラはセルビスの下で、太陽の力を引き出すための修行を始めていた。しかし、なかなか思うようにいかず周囲に怒号が響き渡る。
ソラは真っ直ぐ立って両手で剣を握り、刃に意識を集中していた。その横でセルビスとクレスが見ているという構図だ。
ヤマトとアルエは、「自分達もじっとしてはいられない」ということで三人と別れ、それぞれ独自の修行を行っている。
「もう一度説明するぞソラ?最も周囲からの干渉を避ける自然の位で立ち、自分の心にある力と向き合うように集中する。そうして自分の力を感覚として捉えたらそれを剣の刃に伝うように意識するのじゃ」
「わかりづれーよ!」
「そりゃそうじゃろ、理を覆す力なんじゃから」
早い話が、『自分の中にあるはずの力を見つけて刃に乗せろ』ということである。途方もないことのように思えるが、ソラは一度体験しているため、その力は確かに『自分の中にあるはず』なのだ。
「とはいえ、口で説明して出来るものではない。ガンガンやってみるしかないじゃろ」
「く……だよな……」
ソラは深呼吸して息を整えると、再び集中し始めた。
「これで本当に力を出せるんですか……?」
「これで出せねば、所詮操れる力ではないということじゃ」
「…………」
「そろそろ昼時じゃな。ワシはヤマトとアルエを探して来るわい」
「……くそっ……駄目だわからねぇ……!」
「ソラ………」
―――――――――――
修行を開始してから2日……
全く進展がないままのソラは、木の棒を持ってヤマトと対峙していた。ヤマトも同様に木の棒を、二本持っている。
それを確認してセルビスはソラに告げる。
「よいかソラ、心の力は体の持つ基本的な力を越えて現れる。ただ集中するだけでは掴めぬならば、体の力を限界近くまで抜いて死中に活を見いだしてみるのもよいかもしれん!」
「だ、大丈夫なんか?」
「構わん、思いきりやれぃ。でなくば修行にゃならん」
「いやだって、よいかもしれんて言うたやん!不確定要素残っとるやんか!それでソラを限界まで追い詰めるて……」
「ヤマトォ!いいから思いきりやってくれ!」
「!?」
今度はソラから声がかかった。荒行を受け入れているソラに、ヤマトは流石に次の言葉が出ない。
「俺が求めているものは不確定要素に飛び込むことを恐れちゃ絶対に得られねぇ……増してや、追い詰められた時に出せなきゃただ殺されるだけだ!この荒行、いいと思うぜ!窮鼠猫を噛むって言うしな」
「……分かった、ほんなら、お互いに手加減なしや!!」
ソラの心意気を受け取ったヤマトは、それ以上は何も言わずに飛びかかった。
そして、二人は全力で打ち合う。殺気こそないが、どちらか、或いは両方とも大怪我を負うやもしれない荒行に、クレスは不安でビクビクする。
「い、いくらなんでもやり過ぎじゃ……!」
「楽な修行などありはせんよ」
「それはそうかもしれないですけど……!自分で自分を追い詰めるなんて……!」
ゴッ!!
「!!?」
クレスは木の棒同士がぶつかり合うのとは違う音に反応し、ソラとヤマトの方を向いた。相変わらず打ち合う二人だったが、ソラのこめかち辺りから、つうっと赤い筋が流れている。
ヤマトの振るった棒がソラの頭に当たったのだ。
ガン!! ドス!!
今度はソラの棒がヤマトの肩に、ヤマトの棒がソラの脇腹に当たり、次々とお互いの棒がお互いの体を傷つける。
「あぁっ、ソラ……ヤマト……!」
「ぐはっ……もうアカンわ……」
激しい打ち合いの末先にダウンしたのはヤマトだった。あちこちから血が滲み出て、痣も作ったヤマトは、力が抜けるようにどっと仰向けに倒れた。
まだ立っているソラも、ヤマトに負けぬほどの傷を負い、息も上がっている。
「もうダウンかソラよ?」
「ハア……ハア……ま、まだまだ……!」
「よう言うた。アルエ、次はお前がゆけぃ」
アルエが短い棒を握って立ち上がるのを見たクレスは、驚愕の表情で目を見開いた。どう見てもソラは満身創痍だ。この上アルエと同様の打ち合いをさせるというのか。
「もうやめて下さい!!これ以上やったらソラが壊れちゃう!!」
クレスはセルビスの肩を掴んで叫ぶ。ソラが痛々しい姿に変わっていくのを見たくなかったのだ。
「やめぬよ。これが最もよい方法じゃよ」
それから十分と立たず、さらにボロボロの姿になって、ソラは倒れた。ソラとアルエの打ち合いは、アルエの圧勝だった。ヤマトとの打ち合いで消耗したソラにとって、アルエの動きに反応することは至難の業であったのだ。
「ソラ!!」
思わず駆け寄ろうとするクレスであったが、セルビスに腕を掴まれ、止められた。
「放して!もうソラは限界よ!」
「……だからこそじゃよ」
静かにそう言ったセルビスは、ぐっとクレスを引き寄せ後頭部に手刀をぶつけた。手刀を受けたクレスは前のめりのままうつ伏せに倒れる。
その様子は、ソラもしっかりと見ていた。
「ジ、ジジイテメェ……!!」
ソラは立ち上がろうとするが、体の痛みがそれを許さず、動けない。倒れたままセルビスを睨むが、セルビスは全く動じた様子を見せない。
「だ、大丈夫かソラ…」
「手を貸すなアルエ!!!」
「!!?」
周りの様子が一変し、戸惑うアルエはソラに手を差しのべようとするが、セルビスの一喝により動けなくなった。
そしてセルビスは、ソラを冷たい目で見下ろし、言い放つ。
「……お前がそこまで情けないとはな、失望じゃわい」
ソラの体が一瞬びくりと動き、その眼光が強くなる。セルビスの言葉に怒りを覚えたようだ。
そこに、セルビスのとどめの一言が叩きつけられる。
「お前がもっと逞しければ、クレスは死にかけずに済んだものを……」
「この……クソジジイがあぁぁぁっ!!!」
叫びと共に、ソラは先程の満身創痍の様子が嘘のように、鮮やかに立ち上がった。
握った木の棒に力を籠め、セルビスに叩き込まんと駆け出す。
「あっ……」
この瞬間、様子を見ていたアルエが声を漏らした。
「うらぁ!!」
上段から思いきり振った木の棒は、セルビスに掴まれることで止められた。
掴まれたためそれ以上棒を動かすことは出来ず、ソラは悔しげにセルビスを睨み付ける。
そんなソラに、セルビスは先程の冷たい目とは打って変わった穏やかな目線で、告げた。
「ホレ、覆したじゃろ」
その言葉に殺気を失ったソラが自ら握った木の棒を見ると、
木の棒がクレスを救った時と同じ、金色の光を放っていた。
その光はソラが視認してすぐに、すっと消えてしまったが……確かに、放っていたのだ。
「肉体の力を限界にまで消耗した時、支えとなるのは心の力。それが真っ直ぐ一本、堅固なものになれば、肉体の限界をも覆す。
そして今の光は、お前が持つ心の力の形じゃよ。今の感覚、決して忘れるでないぞ」
そう言うと、セルビスは棒を放し、小屋の方へと歩いていく。そして捨て台詞のように、
「今日はこれまでじゃ。明日からは自在に引き出す修行をするぞ。体休めとけよー」
と明るく言って小屋に入っていった。
―――――――――――
夜も更けた頃。セルビスの小屋からは明かりが消え、皆既に寝静まっていた。
そのため周りは夜の森そのものの暗闇。草陰から見てはならない何かが現れそうな、うっそうとした雰囲気だが、細やかな風が葉を僅かに揺らす音と、眩く散りばめられた月と星の光がそれを和らげ、神秘的な空間を演出する。
そんな夜中に、ソラは一人小屋の前に佇み、星を見上げていた。昼の修行でついた体中の傷が生々しく映るが、その眼は穏やかで、何処と無く晴れやかで、ほんの少しだけ哀しげだった。
「寝なくていいの?」
風の音を塗り潰す、優しく澄んだ声が耳に心地よく響き渡る。振り返ると、その声の主、クレスが僅かに笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「お前こそ、どうした?」
「ん、なんとなく……」
そう言ってクレスはソラの隣に来て、星を見上げる。
「首……大丈夫か?」
「ソラの傷に比べたら、何でもないよ」
そりゃそうだ、と軽く笑い、ソラも再び星を見上げる。
それからしばらく二人は無言だった。この時間を愛で、慈しむように……。
「本当なら、ずっとこうしていたいけど」
夜の静寂の中、クレスの声は本当によく響く。ぼそりと呟いたその一言は、ソラの耳に強く染み付いた。
「修行が終わったら、また戦いに行くんだよね……」
不意に悲しみを含む表情になるクレス。自分がソラ達を巻き込んだのにこんなこと言い出すなんて、卑怯だなと自嘲する。
「まぁ……そうだな」
一方ソラは、やけに落ち着いた返事だった。何かが吹っ切れたのだろうか。
「……大丈夫なのソラ……?」
クレスが口にしたのはただ一言だったが、悲しみの中に驚きを含んだ表情で、ソラは彼女の意図を察し、微笑みながら応じる。
「今度は殺すんじゃない。救うんだ」
言いながらソラは剣を抜く。そして目を閉じ、刃に意識を集中し始めた。
「クレスも、エンゼルも、アッパースカイも、下界も救うんだ。そのためなら、俺は戦うことに迷いはない」
言霊はソラの胸中の意志を確固たるものにし、救うための力を固めていく。
固まった意志の力は、刃から発する黄金の輝きとなって、夜の闇を明るく照らした。
ほんの三秒ほどで消えたが、その三秒はまるで小さな太陽のようだった。
「……つっても、まだまだかな。早くモノにしねーと」
あはは、と笑いながら言うも、ソラの眼は強い。それはクレスにとっての希望の太陽の光。
彼なら、きっと……
「出来るよ……ソラなら必ず!」
彼女の信じる思いもまた、言霊となってソラに響く。ソラは、確かにそれを受け取ったらしく、少しばかり驚いたがすぐに柔らかく笑い、「ありがとう」と呟いた。
星空の下の、二つの影の中にある光は、穏やかで、暖かく強い。
一方はそれを剣に表し、それを見たもう一方もまた、新たな決意の光を灯したのだった……。
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