第32話:精神の行き先
短いです。でもキリいいので投稿します。
第32話です。どうぞ。
「……で、どうするってんじゃ……」
セルビスの纏う空気が、変わった。
そこには、どこか抜けている老人はいない。幾多もの修羅場をくぐり抜け、近づく者全てを切り刻むような雰囲気を纏う歴戦の戦士……
『闇のセルビス』が、そこにいた。
「戦うということは相手を這いつくばらせ屈伏させること、その究極が殺すことじゃ……お互いにな」
雰囲気と共に声色までも変わる。
「相手を叩きのめすことなく終わらせようなんざ、世間知らずのガキの発想よ」
発せられる一言一言が、重い。心臓が握り潰されそうな感じさえ覚える。
ソラは、その圧迫感にぞくりと背筋を凍らせる。
それはセルビスにとって、格好の大きな隙であった。ソラの剣が覇気を失った瞬間、目に見えない速さで剣を持つソラの腕をとり、回転してソラの足を払う。
背から床に叩きつけられたソラの喉元には、自らが握る刃があった。セルビスが馬乗りになってソラの腕を制し、操っていたのだ。
「今のでお前は死んだ……」
ポツリと告げたその言葉に、ソラはある既視感を覚えた。
似ているのだ。ソラが、セレネルナに刺された時と。
「なんでもかんでも説得で物事が解決出来りゃ戦いなんざ起こりゃしねぇ。戦いが起きるってことは『共存の否定』……どちらかが捩じ伏せられにゃ治まらねぇんだ。今、こうしてお前を押さえているようにな」
ソラはまた思い出す。言い方こそ違えど、ヤマトやアルエにも同様のことを言われていた。
そうして心を奮い立たし、セレネルナと戦ったのだった。
しかし、その時ソラがとった選択は……
「さっきを思い出してみろ……ワシが来んかったらどうなってた?しかもお前達の腕なら乗り切れたはずの状況を……じゃ」
殺せなかった。
故に、死にかけた。
殺らねば殺られる戦いの世界で、甘さ、情けは命取り。つい先日、そして先刻体験したばかりだ。
「殺さず救いたいなんて甘い考えは捨てんか。お前も戦いに身を置くなら取捨選択することを覚えることじゃな」
確かに、今後の戦いで、どのような展開になるか分からない。
理想のために何かを犠牲にする精神力、それは必要であり、仕方ないのかもしれない。
だが……しかし……
「……ここでハイそうですかなんて引き下がったら……可能性を閉ざしちまったら……」
「……?」
ブツブツと呟くソラだったが、いきなり目をカッと見開き、セルビスを強く睨み付けた。その強い視線に、セルビスは一瞬たじろぐ。
「もしクレスがまたイビルになったら、俺には絶対殺せねえ!!
イビルを殺して罪のない生命を殺して、仕方ないっつって割りきるなんて出来ねえ!!
だから探してんだ!!救える手段を!!あんたにヒント貰えなくたって探してやる!!
でなきゃ、俺は一生後悔する!!!」
ソラは言い切ると、自分の腕を押さえていたセルビスの手を強引に振り払い、左手でセルビスを弾き飛ばした。
セルビスはクレス達が座っていた机に衝突。クレス達は咄嗟に立ち上がって避けたが、セルビスはかなりの力で飛ばされたらしく、机はバキバキと音を立てて壊れた。
「ハァ……ハァ……
…………!?」
ソラは肩で息をしながら壊れた机を見つめるが、そこにセルビスの姿はなかった。
そして、天井から何かを蹴った音が聞こえたかと思うと、後ろの首筋に衝撃を受けてソラは意識を失い、どっとうつ伏せに倒れた。
セルビスが瞬時に天井に飛び上がり、そこからソラの背後に回り込んで首筋に手刀を打ち込んだのだ。
クレス達は唖然として見ていたが、一連の動作を終えたセルビスが倒れたソラを見る目が、心なしか穏やかになっているのを見た。
「お前らはもう休め。こやつはワシがなんとかしておく」
目こそ穏やかだったが、未だピリピリした雰囲気は途絶えていなかったため、三人は何も言えずにすごすごと部屋を出ていった。
「見上げた心意気じゃ……あそこで折れるようでは、お前の望む境地には決してたどり着けはせん。
よかろう、力の引き出し方、稽古つけてやろう」
忙しい日々が続き長さバラバラ、不定期更新申し訳ありません。
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