第2話:太陽が輝いた
彼女は目を疑った。
(確か私は…林で倒れていたはず…)
なのに、彼女は一室のベッドで目覚めていた。
視界に広がるのは、木材や丸太で組まれた天井。周りを見渡すと、壁も木で出来ているので、ここが木造の小屋の中だと分かった。
窓の外が橙なのを見ると
今が夕暮れ時なのも分かった。
(なんで私はここにいるんだろう…?)
しかし、もう一つの疑問が浮かんだ。
(あれっ!?私…生きてる!?アッパースカイから落ちた者は、
とある理由で生きていくことが出来ないはず。なのになぜ……それに、あの痛みもなくなってる……)
ふと彼女は自分の左腕を見た。左腕には、マッチ箱のような機械がついている。
それを見た彼女はさらに驚いた。
ほとんど無いはずの目盛りが、三分の一ほど溜まっていた。
私……生きてる……
自分の置かれた状況はまだ理解出来ないが…自分が生きていると知ると、少し笑みがこぼれた。
でもなんで…そう思った矢先、足音が近づいてきた。そして、彼女がいる部屋の扉が開いた。
カチャリ
「おっ、起きたか。」
金髪の少年が中に入ってきた。
「大丈夫か?お前、林で倒れていたんだぜ。」
「あの…あなたがここまで…?」
「あぁ、ここ俺ん家。まぁゆっくりしといて。」
金髪の少年は笑いながら言った。その笑顔は、何か輝いていて、そしてどこか安心出来た。彼女はそんなことを感じながら
「…ありがとう…」
と返した。
「お前…この辺りに住んでる人じゃねーな…旅人か?」
「あ…えーと…」
少女は少し考えて、
「…そんなところ。」と答えた。
(あまり無関係な人を巻き込めないな…)
「どこから来たんだ?」
(えぇ…!ど、どう答えよう…)
少女がちょっと困っているのを少年は察知して
「あ、いや、いいんだ、悪かったな。ただ…
その左腕のやつ、珍しい道具だなぁと思ったから、どこの物かなって…」と言った。
「え…?」
そう、少年は少女の左腕の機械に興味を持ったのだ。
(左腕って……まさか、『ポータブルサン』のこと!?)
「林でお前、苦しそうにして倒れていたから、背負って運んでたんだけど、左腕にそれ付いてんの見つけてさ。なんだろうと思って触ったら、なんか目盛りみたいなのが少しずつ上がってさ、そしたらそれまで苦しんでたお前がちょっと落ち着いたんだよ。」
この話を聞いた少女はとても驚いた。
(ポータブルサンに触ったら…目盛りが上がった!?どうして…?
これは私達が万が一の時に命を長らえるための物…目盛りが残された時間を表す そして、私の時間はもう…終わっていた。目盛りはアッパースカイでのみ溜められるんだけど、下界で目盛りが回復するなんて事はありえない けど……この人の言った通りでなければ私はとっくに……でもなんで回復出来たんだろう……)
少女はすっかり黙りこんでしまった。
「お、おい、どうした…?…悪かったかな?」
「…あ、ううん!」
…バキキッ
急に今いる部屋の反対側の部屋の壁が割れる音が聞こえた。音は次第に大きくなりそして
ドカァァッ!
壁が破壊された音が聞こえた。
「なんだ!?」
少女は立ち上がってこの部屋の扉を開け、音のした方を見た。
そして、青ざめた。
「何か見えたのか!?」
と聞く少年に、少女は振り向き言った。
「ここにいて。絶対ここから出ないで。見つかっちゃうから。」
「ちょっ…どういうことだよ!?」
「お願い……っ!!」
少女の力強い言葉に、少年は何も言えなかった。
「……助けてくれて……ありがとう……」
少女はにっこり笑って言ったが、その表情は少し悲しそうだった。
そして少女は部屋を飛び出し、音の主にわざと見えるように外へ飛び出して逃げて行った。それを音の主は見つけ、ニヤリと笑って
「エンゼルだ……」
とつぶやくと、少女を追って行った。
外へ出たその音の主を、少年は窓から見えた。
音の主は、人間くらいの大きさでの耳が長い猿みたいな形の……
黒い化け物だった。
少女は森の中を走った。
背後から迫る黒い驚異から逃げた。が、黒い化け物は木々を難なくかわしながら追って来る。今にも追いつかれそうだ。
「諦めなぁ!」
黒い化け物はそう叫ぶ。
少女はいきなり化け物の方へ振り返ると、左手の機械を前に突き出して、機械の側面の小さなスイッチを押した。
すると機械から電球のような物が飛び出して、白い閃光が放たれた。
「ぐわっ!」
化け物がその閃光を浴びて怯んだ隙に少女は再び走り出した。
「けっ!ポータブルサンの放射か!小癪な!」
再び化け物は少女を追いかける。
「なんだあの光!?」
少年は少女が放った閃光に気付いた。
そしてその方向に向けて走り出した。
あの後少年は、少女の事を放っておけなくて自らが作った一番出来の良い剣を持って後を追いかけて行ったのだ。
逃げる少女、
それを追う化け物、
さらにそれを追う少年。
この状況は数分後に変わった。
少女が止まってしまった。
そしてその場にうずくまった。
「う、うぁ……!」
体中が、痛みだした。
そう、先刻のあの痛みが突然彼女を襲ったのだ。
黒い化け物が迫る。
「へっ、エンゼルは下界じゃポータブルサンの『日光』無しには生きられない…もっとも、今この場じゃ俺が殺してやるがなぁ!」
化け物はそう言うと爪で少女を引き裂こうと右手を上げた。
少女は必死に逃げようとするが、もう動けない。
「さてエンゼルちゃん、天地神明の翼の四枚の羽根はどこかな?」
それを聞いた少女は驚き尋ね返す。
「て、天地神明の…翼が……この下界に……?」
「なんだ知らんのか?俺達が破壊したら四枚の羽根になって下界に降りたらしいぜ。」
「………!」
「本当に知らんようだな。ではお前は用無しだ。」
「く……!」
「死ーね!」
無情にも化け物の腕が振り下ろされようとしたその時、何かが飛んで来て化け物の頭に当たった。
「痛!?…石か…誰だぁ!?」
化け物が後ろを見ると、そこには金髪の少年が立っていた。
化け物が叫ぶ。
「何者だ!」
金髪の少年は歩きながら口を開く。
「俺は……
この小説の主人公の者だ!」
少女が少年に気付いて痛みをこらえながら言った。
「な…んで来た…の?…逃げて…殺さ…れる!」
「何言ってんだ、こいつをなんとかしないとお前が死ぬだろ?女の子が犠牲になるのを黙って見てるなんて男が廃るんだよ。」
化け物が割って入る。
「ふざけるなよ…ただの人間が俺をなんとか出来ると思ってんのか!あぁ!?」
「あぁ。お前を倒す。」
「ッ…テメェ!」
辺りはもう暗くなり始めている頃…
黒い化け物と金髪の少年は対峙していた。
化け物は間合いを計り、先制出来るよう体勢を整える。
一方少年は剣を抜き両手でしっかり持ち、正眼に構える。
少女は痛む体をかばいながらも、少年を不安そうな表情で見守る……
先に膠着を破ったのは
化け物の方だった。
「死ねぇ!」
化け物は一足跳びで少年に襲いかかり、右手の爪を振り下ろす。
しかし、
ガキィィッ!
少年は剣で難なく防いぎ同時に化け物に左足で回し蹴りを見舞った。
化け物は完全に防御が間に合わなく、蹴りが横っ腹にクリーンヒットした。
「うごッ!」
蹴りを喰らった化け物はドッと倒れた。
「な……えっ…?」
化け物は驚いたが、
「嘘……!」
見守っていた少女はもっと驚いていた。
自分のせいでこの人を巻き込んでしまい、傷つけ、殺してしまうと思っていたのに、それとは裏腹に少年は強かった。
相手は一般人では勝てない化け物。なのにその攻撃を難なくかわし、反撃した。
「……ぐっ……!」
しかし、少女には余裕は無い。痛みは少しずつ
強くなっていく。
そうこうしている間に
化け物は立ち上がっていた。
「お前……何者だ!?」
「近所の鍛治職人だよ」
少年はそう言って化け物に剣をまっすぐ向けた。
「お前、大したことないみたいだからもう終わらせてやるよ。
……やらなきゃならないことがあるからな…。」
少年がそう言った瞬間、化け物は跳び上がった。
「ぅおんのれぇェェ!」
今度は両手の爪を振り上げた。
しかしその瞬間、少年がなんと化け物に跳びかかり、化け物の腕が振り下ろされる前に、化け物の体を横に一刀両断した。
「あ……がぁ……!」
シュウオオオ……
真っ二つになった化け物の体は、黒い粒子状になって、空に登っていき、消えた。
………死ぬ……
私は……死ぬ……
あいつは……
天地神明の翼を破壊した
そう言った……
羽根が……
下界に落ちたとも……
エンゼルは………
下界には行けない……
でもこのままじゃ……
何もかもイビル達の……
思いのまま………
なんとかしないと……
私が………
事故で落ちた私が……
なんとか……………
でもだめだ………
私は…………
死ぬ……
………あれ?
なんだろう………
少しずつ………
楽になって………
「………い!」
……………?
声が聞こえる………
「おい!大丈夫か!?」
少女が目を開けると、
少年が自分の左腕の機械を握っている。
「よかった。やっぱりこの機械触ったらお前の具合がよくなるらしいな。なぜかは全然分かんないけど。」
機械の目盛りは既に半分まで溜まり、しかもまだ上昇している。
少女は確信した。
(この人には『太陽』の力が宿っている……
闇を晴らす光が……
イビルを倒す力が!
そして、この人の力を
借りれば……
私も生きて、『羽根』を集めに行ける!
あぁ……でも……
あくまでこの人はアッパースカイと関係無い人…
危険なことには……)
「なぁ、お前。」
「……え?」
「聞かせてくれ。あいつは一体何なのか、お前は何者なのか、
…何を背負ってんのか」
「……背負って…?」
「話してくれ。俺も何か力になれるかもしれないからさ。」
少女は考えた末、
「……わかりました。」
ついに話すことにした。
既に辺りは真っ暗だった。
「まず、私はこの世の人間じゃない。」
「……へ?」
(…当然の反応ね…)
少女は全てを話すことにした。しかし突然こんなことを言われれば誰もが一瞬、間を作るだろう。
「この世の人間じゃない…?」
「ええ、私は雲の上にある世界『アッパースカイ』の住人。簡単に言うとあの世にいる種族かな。」
「じゃお前…天使か?」
「そんなところかな。」
少年は少し驚いたが、すぐに落ち着いた。
そのおかげで少女も少し
話しやすかった。
少女は話を続ける。
「アッパースカイには、二つの種族があるの。私は、『エンゼル』という種族。アッパースカイにおいて、死者の魂を選別し洗うのが仕事。」
「じゃなんでこの世に?」
「それは……」
少女が深刻な顔になる。
「『イビル』に、『天地神明の翼』を破壊されたのが始まり。」
「質問。イビルってのはなんだ?天地神明の翼ってなんだ?」
少年は手を上げて聞いてきた。なんかそれが少女の肩の力を抜き、楽にしてくれた。
つい、そのノリに合わせて返事した。
「返答その1。イビルはさっき言った二つの種族の内、もう一つの種族。…さっきの黒い化け物のこと。」
「あ、あんなのがアッパースカイには一杯……」
「返答その2。天地神明の翼は、アッパースカイにある大きな翼で、アッパースカイと下界の体裁を保つための大事なものなの。」
「体裁を保つ…?」
「うん、死者の魂がアッパースカイに行き、洗われ、生まれ変わるという一定の法則を保つってこと。それが…イビルによって崩された。」
言ってまた、少女は暗くなった。
「それで、なんでお前がこの世に…?」
「翼が破壊されたことでアッパースカイと下界の間に大きな穴が出来て、……そこから落ちたのよ…。」
「…イビルは…同じような穴を使って下界へ来た…?」
少女は首を縦に振った。
「イビルの狙いは下界に落ちた天地神明の翼を回収すること。さっきの奴がそう言ってた。」
「それが奴らに渡ったらどうなる…?」
「イビルのことだから、きっと翼を復興させない気でいるのよ。つまり、イビルがアッパースカイと下界で好き勝手に……。」
「じゃやっぱりエンゼルも他に何人か下界に降りているのか?」
「いいえ……誰も降りはしない。」
「なんでだ!?」
少女はさらに暗くなってしまった。
「エンゼルは常にアッパースカイで、『純粋な日の光』を浴びていなければ、激しい苦痛に蝕まれた後死んでしまう。下界には、エンゼルが命を保てるほどの日光は届かないの。」
「………ハッ」
少年は少女を助けた時、少女が強い苦痛を受けていた事を思い出した。
そんな少年に、少女が左腕のあの機械を見せる。
「これは『ポータブルサン』と言って、万が一日光の届かない時があった時の為に、日光を集めて保存する為の物。下界では、これにあらかじめ溜めていた分しか時間がない。
…私が苦しんでいたのを覚えてるでしょ?本当なら、私は既に死んでいた。
そうならなかったのは…
あなたが……
『太陽』の力を持っているから……」
そう言った少女は、意志の強い顔になっていた。
そして、強い目でしっかりと少年を見ると、深く頭を下げた。
「私を……手伝って下さい!貴方は私にとっての、いや、アッパースカイの…世界の希望です!」
少年は戸惑っていた。
自分に『太陽の力』がある?少女を救ったのはその力?
俺が………
世界の希望……?
「…事情を聞いて分かると思う。私は、イビルに狙われ、辛い事に貴方を巻き込もうとしている。
……でも、今頼れるのは貴方だけなの!
だから………
お願い………!」
少女はそれ以上は何も言わずにただただ頭を下げた。
少年はしばらく考えた。
少女への返事ではなく、自分の事を……
なぜ自分が世界の希望であるのかを。
……しかし、考えるのを止めた。
そして、言った。
「まずは、羽根を探すんだな?」
少女は驚いて顔を上げた。
もう日が登り始める時刻になり、辺りは明るくなり始める。
それに照らされるように彼の顔はそこにあった。
それはまるで自分が追い求めていた希望のように思えた。
とても眩しく、輝いていた。
「……ありがとう…!」
そう言って少女はまた頭を下げた。
彼女にとって、今の少年は眩し過ぎた。
正に太陽のように。
「あ、そうそう。俺達、互いに名前言ってなかったな。
…俺はソラ。
お前は?」
少女はゆっくり顔を上げた。
その顔にはもう絶望の色は無い。
希望の光を得て、輝いていた。
「……クレスよ。」
「「よろしく!」」
二人は顔を見合わせ、同時に言った。
俺になんでこんな力があるのか分かんないし、世界の希望っていうのも、ピンと来ない。
けど……そんなことどうでもいいや。
世界がどーのこーのなんて分かんないけど、
今……少なくとも目の前のこの人…
…クレスには、俺は希望なんだってのは分かったから。
今は、それでいい。
これから私達を待ち受けるだろう想像を絶する辛く、危険な道のり。
でも、きっと大丈夫。
この人が…ソラがいてくれると、なんでかな…
そんな気がする!
月は太陽の光を得て
輝きを取り戻し、
暗く冷たい闇の中、
日を導くべく
夜道を照らす。
正直ここまでがプロローグですかね。三部使っちゃったけど…
何かアドバイスや改善点等ありましたら感想でお願いします。