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第23話:覚悟


今年の夏休みは暑かった……


これからは残暑との戦いだなと「覚悟」を固める菊一文字です。



第23話です。どうぞ。





「あぁぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!」









「アホォ!しっかりせぇソラァ!!」





「…………っ………!!はぁ……はぁ……!!」





息を荒くして泣き叫ぶソラを制するヤマト。


その姿を視界に捉えたソラは、まずここがさっきまで意識のあった場所ではないこと、その意識は夢であったことを理解した。



その後少し冷静さを取り戻したソラは、次にここが自分達がいたはずの海底都市ではないこと、自分が少し古めかしいベッドに寝かされていることを把握した。




「こ、ここは…?」


「ここはレビタの町外れ、アルエの家や。お前、海底都市で気絶してから丸三日寝てたんやで」




いつの間にか海底都市を抜け出し、それから三日経っていたらしい。


気絶したソラには海底都市からどうやって脱出したのかも疑問だったが、それを跳ね飛ばすある質問が先に浮かんだ。




「クレスは……クレスはどこだっ!?」










「……………………





……ワイやアルエより、お前が一番よう分かっとるやろ……」












ああ、そうか………








やはり…クレスはもう…








あれは現実だったのだ。クレスが変わったこと、クレスが自分に刃を向けたこと、クレスが自分達を殺すと宣言したこと………。








しばらく黙っていたソラは、突如かけられていた布団を足で蹴飛ばし起き上がろうとする。


今にもどこかへ駆け出そうとするソラを慌ててヤマトが押さえた。




「どこへ行く気や!まだ安静にせな…」


「探さねーと…!クレスを!離せヤマト!!」





ソラは、ヤマトの顔に拳の一撃を加える。




しかし、ヤマトは足を踏ん張ってこらえ、ソラに進路を与えない。




ソラも思惑通りにならず、一瞬たじろぐ。







踏ん張ったヤマトは目だけでソラを睨むと、拳にありったけの力を込めてソラの顔に叩きつけた。




その反撃を予測出来なかったソラは殴られた勢いに逆らえずに、再びベッドに倒れた。





「一体何事だ!?」




音に気付いたアルエが部屋に入って来るが、二人はそれにも気づかず対峙したままだ。





「何をしやが…!」



ソラは上体を起こし、ヤマトを強く睨み付けて叫ぶが、言葉が詰まる。


ヤマトは、ソラ以上に強い目付きをしていたのだ。




「辛いのはお前だけやない!!ワイかてクレスを助けに行きたいわ!!お前一人が悲しいなんて思うなや!!」



一瞬呆気にとられてそれを聞いていたソラだが、すぐにその顔つきを怒りのそれに変える。



「悲しいってんならなんでそんなに冷静でいられんだよ!!こうしてる間だって惜しいぜ!!早くあいつを元に戻してやらねーといけねぇだろうが!!」



「今のお前の、湯が沸いたようなアタマで何が出来るっていうんや!!そんなんで行っても単純な罠仕掛けられて殺されんのがオチやで!!」



「この戦いに身を投げたその時、命くらい懸けたはずだろうが!!今さらそんなのにびびってどうすんだよ!!」



「その考え方が殺されるオチやゆうてんねん!!頭冷やさんかい!!」



「この状況で頭なんか冷えるかよ!!今すぐ助けに行くぞ!!」



「よう考えてみいや!!クレスがそれを望んだか!?」



「!!」




ソラはついさっきまで見ていた夢を思い出す。


その夢でクレスは、犠牲になるなと…躊躇わずに自分を殺せと言った。



それは、たかが夢ではある。しかし、それを抜きに考えてもクレスは決してソラの助けを待ってはいない。むしろそのためにソラが傷つくことを良しとしない。



もしクレスが今のソラを見ていたら、決して笑うことはない。寧ろ悲哀の涙をその目に溜めることになるだろう。






そんなことは分かっている。







分かっているのだが…。








「………―――っ!!」




それでもやはり助けたい気持ちが先走る。ソラは、何かを言い返そうとするが、ヤマトが正論を語っていると理解しているため言い返せない。


怒りは矛先を失い段々と陰を潜め、強く握りしめた拳は次第にその力を緩めていった。




「……ッ…!


……くそっ……!




くっそぉ……!!






くっっそぉぉぉぉ!!」






…その代わりにやって来たのは、悔しさと歯痒さ。




ソラはそれを払うかのように、吐き出しきるかのように、何度も何度も二文字の単語を言い続けた。





誰にも届くことのない、行き場のない、二文字の単語を。








ヤマトとアルエは、ただそれを見守るしかなかった。







本当なら同じ単語を叫びたいのだろうが……







それはソラが気を失っている間に、既に通った道。






自分達が再び立ち止まる訳には、いかない。






「……それでも……それでもやっぱり俺は!!」




「分かっとる……分かっとるよソラ……


…けどな…なんの手がかりも無いし、今のあいつはイビル…セレネルナや…まずそれを受け止めて…どうするか…やろ」




その言葉に引っ掛かるものがあったのか、ソラの体がピクリと揺れた。


その目は、驚きに満ちている。




「………そうだな」




アルエがヤマトの隣に歩み寄り、会話に加わった。そして、アルエはヤマトの言葉の意味を理解したらしい。





「……どうするか……?どうするかってどういうことだよ?」







ただ一人、ソラは未だに理解していないよう……








………いや、理解したくないようだ。






次に口を開いたのは、アルエだった。






「…分かっているのだろう、ソラ。クレスは…」



「……やめろ」



「…クレスは…今やイビルとなった…」



「……やめろ……!」



「…イビルとなったからには…」



「やめろっ…!」



「…彼女を「やめろっつってんだよアルエェェッ!!」




再び怒りが込み上げて来たソラは、ベッドから飛び降りてヤマトの腰に手を伸ばし、彼が帯びている刀を抜き取り切っ先をアルエの喉に向けた。




「それ以上言ってみろ!!殺してやらァ!!」




「なっ…!やめぇやソラ「手を出すなヤマト!」





一瞬たじろぐヤマトだったが、すぐに状況を理解しソラを止めに入ろうとする。しかし、アルエはそれを制した。




ヤマトは何がなんだかわからなかったが、アルエの纏う気もただならぬものと理解し、大人しく引き下がる。



それを確認したアルエは、未だ突き付けられる刀に恐れもせず、ソラに言い放った。






「彼女を、殺す覚悟を決めろ!!」








ソラの中で、何かが切れた気がした。







そして、考えることを放棄した。












「ッオオオアアア!!」




ソラはヤマトから奪った刀を片手で思いきり振りかぶる。


対してアルエは振りかぶる瞬間にスッと腰を落とし身構え、少しだけ右に移動した。




「ウアァァッッ!!」




非常に荒々しく振るった刀は空を切り床に叩きつけられ、床の破片を散らす。


続けてソラは柄を両手で握り、先ほどの剣閃より左に移動した相手を捉えんと、手首を返して左斜めに切り上げる。


アルエはソラが切り上げきる前に左に跳び、ソラの右脇の死角に着地した。



死角に入り込まれたソラは、これまた荒く時計回りに半回転。柄を握った左手を放し、遠心力で横に薙ぐ。


アルエは地に伏せてこれをかわし、刃は壁に一筋の傷を付けた。








その一筋の傷は切り傷というより強引に抉られたようで、まるで今のソラの心を表しているようだった。







理性を無くした獣のような、禍々しくそして荒々しい心を。






その心は、周りの物が破壊されることをも気にかけず、ただ目の前の標的に対して牙を剥く。



刃が舞う度幼子が飛び、幼子が飛ぶ度刃が舞う。



とっくに傷だらけになった部屋で、その戦いは繰り広げられる。





が、一向に当たらない全力の剣。当然攻め気が強いソラの方が消耗も早い。段々息があがり剣も鈍くなってきている。



これを機としたか、とうとうアルエが苦無を抜いた。


そして、一気にソラの懐へ飛び込み、苦無で彼の持つ刀を弾き飛ばす。刀は壁にソラの後ろの壁に突き刺さった。


そのままの勢いでアルエはソラに体当たりし、仰向けに倒れたソラの上に乗り逆手に持ち変えた苦無をソラの喉に突き付けた。



ソラは動けなくなり、戦意も消えていった。目を見開き、自らの喉に突き付けられた苦無の刃と、アルエの顔を見つめる。






「分かっただろう……!そんなことでは…!


この私にすら勝てないぞ!!」






そう叫ぶアルエの目には、涙が溜まっていた。ソラはそれを見て、アルエも、ヤマトも同じ気持ちなのだと、察した。







出来ることならクレスを殺すなどと…言いたくもないし、ましてや殺したくもないのだ……と。







「私達も全力を尽くす!!クレスを救いたい!!


だが、万が一のことがあった時、判断を曇らせてはならない!!



怒りのまま猪突猛進する隙に、クレスを殺したくないと迷う間に、セレネルナに殺されることが最悪だ!!私達にとっても、クレスにとってもな!!


だからっ……だから万が一の時は……クレスを…殺す覚悟を決めろっ…!!」




ソラの戦意は既にほとんど無いが、アルエは更にたたみかけた。


声を震わせ、ぽろぽろと涙を落としながら言葉を発する姿は、まるで自分に言い聞かせてるようにも見えた。








「う……うわああああぁぁぁぁぁっっ!!!!」








全てを言い切ると、アルエはまるでソラに抱きつくように泣き崩れた。



今でこそソラに説教という立場をとってはいるが、アルエはまだ十歳弱。



そんな小さな子が背負うには、余りに重い決意だった。








今度はヤマトが、泣き崩れたアルエを引き継ぐかのように喋り始めた。




「お前も言ったように、ワイらはイビルとの戦いに身を投げた。せやったら、立ち止まれへんのや……生き残ったワイらは前に進んで、 戦うしかない……かつてエンテロットと戦った時に学んだんや……隊長達からな…」






イシスの森の戦い……







あの時も、イビルとの戦いを受け入れたがために、命を落とした者達がいた。



彼らは残された者達……ソラ達に希望を託した。





ならばクレスもそうなのか……?






「無駄に死ぬことがクレスをどんなに傷つけるか……森の戦いを経たお前かて分かっとるやろ。





クレスを諦めろとは言わん。ワイらもまだ諦めた訳やない。



せやけど……今はクレスを戻す手がかりが何も無い。最悪の事態も、そうなった時全て背負うことも、覚悟しておき。










それが……戦うってことやぞ……」










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