第20話:月、陰る
小説のネタも前書きのネタもなかなか出ません…
第20話です。どうぞ。
捕まったソラ達四人を闘技場に導いた老人のイビル、メディストルは語り始める。
「ここははるか太古に沈んだという海底都市、タツノミヤであるということはそこのガキがよう知っとるはずじゃな。」
「私はガキじゃないぞ!女だぞ!」
アルエが反論するが周りのトカゲ型のイビルが口に矢を形成する。それを見たアルエは押し黙った。
反抗は死に直結する…。奴らはそれを見せつけたのだ。
メディストルはアルエが黙ったのを確認し、話を再開した。
「お前達は巨大な蛇を倒しただろう。あれが何なのか分かるかの?」
メディストルは問いかけた。その目はソラ達…というより、アルエに問いかけているようだった。彼女が海底都市の伝説を知っているからだろう。
アルエも、その問いかけが自分に向けられていることを察知し、怯むことなく答えた。
「あの蛇はワタノツチ……海底都市の守り神だろ?かつてこの海底都市には大いなる秘宝があったという。その秘宝を目当てにやって来る賊を追い払い、都市と秘宝を守った守護神、それがワタノツチだ。」
それを聞いたメディストルは、不敵にふふんと鼻で笑った。
「その通り…昔はの」
「昔はだと?どういう意味……!く……」
食い下がるアルエ。しかし、周りのイビル達が口に矢を形成しているのを思い出し、ぐっとこらえた。
正直アルエは、すぐにでも飛びかかりたかった。目の前には、自分が暮らしていた町を襲った奴らの親玉がいる。しかし、アルエを取り囲むイビル達によってあと少し、手を伸ばすだけで届くはずの目の前の敵に対して、何も出来ない歯痒さをただ噛み締めるしかなかった。それは、他の三人も同じである。
メディストルは満足そうにその様子を見ていた。
「確かにワタノツチはかつてこの海底都市の守護神…じゃがそれはあくまでかつて…ワシ達がやって来る前に存在したものの話であって、ワシ達が来てからは状況が変わったのじゃよ…」
「………?」
未だ理解出来ていない四人。
「……まだ分からんか…お前達がワタノツチを倒した時、何かおかしな点はなかったかの?」
「…………あっ!!」
声を上げたのはソラだった。
「…黒い粒子になった」
「「「!!!」」」
「フェッフェッフェ……そうじゃ!お前達が倒したワタノツチはイビルだったのじゃよ!」
「私達が信じてきたワタノツチは…イビルだったというのか…?」
これに最もショックを受けたのは、タツノミヤ伝説を知っており実際見た時目を輝かせていたアルエだった。
「……違うわ……」
アルエがワタノツチの正体に絶望していたのを、クレスが弱々しい声で否定した。
「確かに…あの時ヤマトが倒したワタノツチはイビルよ…でも、あのイビルはきっと……
作られたのよ……そいつに……!」
場の空気が変わった。ソラ、ヤマト、アルエは勿論メディストルも驚きの表情を見せていた。
クレスはメディストルを睨み付け、続ける。
「おそらく…材料はあの黒い粒子ね…!カプセルで…たくさん保管してた……
でも、イビル達が下界に来たのは…天地神明の翼が破壊されてからのはず…
つまり、海底都市は実在していたけど、今はイビルの侵攻を受けて改造され、新型のイビルの研究所になっている!」
最後は、一気に言い切った。
「おいクレス!どういうことだ!イビルの研究って…イビルって作られるものなのか!?」
ソラはクレスを問い詰めるが、クレスは答えなかった。
「フェッフェッフェッフェッ……!知っていたとは驚きじゃの!そうじゃ、あのワタノツチはワシが作ったのじゃ!
しかし、お前達は知らなかったんじゃな…イビルは作られたものであることと、その製造法を……」
メディストルの言葉に、クレスがびくっ、と反応した。ソラは彼女の異変に気づき、問い詰めるのをやめてメディストルの言葉に耳を傾ける。
「ワシはイビル研究の第一人者じゃが…イビルを無から作ることは出来ん。確かにイビルは、この黒い粒子から作られる。しかし、これはあくまでイビルへの『変化』を促すものにすぎん」
「…変化…だと?」
「…やめて…」
クレスが震え出す。何かを恐れているようだ。それはメディストルやイビルに向けられたものではなく、その製法に対して震えているらしい。
あるいは、それを聞くことでもたらされる影響への恐れか……。
「イビルを作るのに必要なものは……」
「やめて……!」
「黒い粒子と」
「やめてっ!!!」
「……媒体……つまり、生命体じゃよ……」
「黒い粒子と…生命体が必要……?」
ソラ達は唖然とした。イビル製造の過程は理解したが、それが『何を意味するのか』については、まだ完全に理解しているわけではない。
ただ一人、顔を俯かせて震えるクレスを除いて…
「媒体となる生命体に黒い粒子を注ぎ込むことでイビルは完成する…
媒体の種族や生態、黒い粒子の質や量などの要素によって、多種のイビルが作られる。ワシはその研究をしているというわけじゃ」
ここでふとメディストルは一息つき、今まで以上に怪しげな笑みを浮かべながら、ソラ達に問いかけた。
「……ところでお前達は、今まで何体のイビルを殺してきた?
即ち……
何体の生命体を殺したのかのう……?」
「「「!!!!」」」
それは、彼らにとって残酷な事実であった。
今まで、イビルを倒し消滅させることこそ正義と考え、実行してきた。
しかしそれは、同時に望んでイビルになった訳ではない、罪の無い者達を殺してきたということだったのだ。
彼らの正義の数と、殺戮の数はイコールで結ばれている。
勿論イビルを倒すことなく放っておけば、更に多くの犠牲が出るだろう。ならばイビルを倒すことで被害を最小に抑えられると割り切れば、彼らがここまで傷つくこともなかったかもしれない。
しかし、割り切った思考が出来るには、彼らはまだ若く、優しかった。
アルエは始末屋として既に何人もの生命を奪いはしたが、その標的は完全な悪人、それも、町の警備隊の手に余る極悪人であり、それ以外の者の命を奪うことはなかった。
ヤマトもタイタンの軍の下で戦闘と殺生をしてきたが、相手はアルエと同様の悪人であった。
そしてソラは、タイタン軍でヤマトと同様に戦った後に鍛冶師となり、クレスと出会ってからイビルと戦い、最も殺してきた。
「……―――ッ!」
クレスの震えは、更に増した。
彼女は分かっていたのだ。もしこの事を知れば『こうなる』ことを。だから今まで、言いはしなかった。
クレスはソラの優しさを知ったから。自分に味方してくれた仲間達の優しさも。
『海底…イビル達が太古の海底都市に…そこに……イビルの研究を進める施設が……隠されている……』
あの時レビタの町で見た夢で語られたこと。その時から危惧していた。『こうなる』ことを。
「フェッフェッフェッフェッフェッ……!!」
それぞれの胸中に各々の思い。しかし、共有している空間に響くものは同じ、メディストルの高笑い。
「……そろそろかのう……」
「うっ……あぁ!!」
突如、クレスが悶え始めた。これに気付きソラ、ヤマト、アルエの三人も一旦思考を停止させ、クレスの身を案じる。
しかし、
「な、なんだ!何しやがる!」
猿型イビル二体によって、ソラは他の三人と引き離されてしまった。
「くそ、離せ………
…………!!!」
引き離される瞬間ソラは、敵が自分をクレスから遠ざける真意を察した。
ポータブルサンが残りわずかなのだ。
ソラがポータブルサンに触れることで、ポータブルサンに太陽の力を供給しクレスはその命を長らえることが出来る。
「うおおああぁ!!!」
なんとかクレスに近づこうと抵抗するソラ。
しかし、イビルは二体がかりでがっちりとソラを捕まえて離さない。
ヤマトとアルエも抵抗を試みるが、四体のトカゲ型イビルが包囲する中迂闊に動けない。
「う……あ……」
残った猿型イビル二体が、苦しむクレスをヤマト、アルエの元から引き離した。
二人は追おうとするが、トカゲ型イビルに止められる。
クレスはそのまま、メディストルの元まで連行された。
「さて、素晴らしいショーの幕開けといこうかのう……」
連行されたクレスをそこに置いたまま、メディストルは壁まで移動する。
壁には、何かを操作するであろうパネルが埋め込まれていた。
そのパネルに並べられたスイッチを、カチカチと押す。
すると、地面から透明な丸い蓋のようなものが現れ、クレスを覆うように閉じた。ちょうど、人が一人立って入れる大きさのドーム状になっている。
「何をする気だ!!」
「黙って見ておれ」
メディストルは更にスイッチを押した。
メディストルがスイッチを押すと、ドームの中の地面に無数の極小の穴が開き、そこから何かが噴射された。
噴射された『それ』は次第にドーム内に充満していく。
ソラ達の体は抵抗を忘れ、意識のほとんどをドームに向けていた。
次第に、ソラの顔から血の気が引いた。もし、今ソラの頭をよぎった仮説が正しければ、彼にとって最悪のシナリオが想定される。
「あ、あれは……まさか!!」
外れてほしいと願いながら、メディストルに確認するように言った。
現実は残酷だった。
「察したな……お前達にとって最悪のシナリオを……
…黒い粒子の霧じゃよ」
「ふざけんなあああぁ!!!」
ソラは再び暴れ始めた。今度はかなりの力を籠めて。
おそらく普段なら出せないくらいの凄まじい力でイビルの手を振り払い、自由になったソラはメディストルの元へ駆けていく。
「!!!」
しかし、メディストルに殴りかかろうとした瞬間左肩に激痛を感じ、バランスを崩して倒れてしまった。
倒れたソラの左肩に、黒い棒状の矢が刺さっていた。
ヤマトとアルエを捕まえていたトカゲ型のイビルが、口から発射したのだ。
そうこうしている間に、ドーム内は黒い霧で何も見えなくなっていた。それほどの黒い粒子が注ぎ込まれているのだ。
暗い………
何が……どうなっているの……
痛い………身体中が痛いよ………
…………助けて………
誰か………
ソラ………!
お願いソラ………
助けて………!
ソラ………?
どこ………?
あれ……?
私はここだよ……?
ねぇ…ソラ…………!
……ああ……そっか……
……消えていってるんだ……
私が………
だから……届かないの……?
何も見えない
何も言えない
何も聞こえない
何も……分かんなくなってく……
意識が…遠退いてく……
溶けて…く………
闇……に…………私が………溶けて……
……や…だよ……
助………けて……!
………ソ…………ラ………!
……………………………
ドームが破壊された。
中に充満していた黒い霧が、辺りに広がる。
ソラ達は顔を青ざめて、まるで魂を抜かれたようにただ、ドームがあった場所のみを見つめていた。
しばらくして黒い霧が晴れた。
しかし、そこにクレスはいなかった。
そこにいたのは紺色の長い髪をツインテールにまとめ、濃い紫の羽衣を纏い黒い六枚の翼を持つ肌の薄黒い、正に堕天使といったような女性。
その顔立ちにはわずかにクレスの面影があるが、目付きはまるで別人のように鋭かった。
「……フェッフェッフェッ……これはいい……!このピリピリとした威圧感!あのエンゼルの小娘、なんとマスターイビルクラスのイビルになりおったわ!フェッフェッフェッ!」
メディストルが一足飛びで闘技場の客席まで跳んだ。そして、今度はリモコンを取り出してスイッチを押す。
すると、ドームの入り口が閉じ、ソラ達の逃げ場を封じた。
その後、メディストルは客席にあった何かをソラ達の元へ投げる。
その束はソラの足元にガシャン、と音を立てて落ちて来た。
ソラは反射的にそれを見て、なんとか正気を取り戻した。
ソラ達の武器だ。
「さぁ、かつての仲間通し存分に殺し合うがいい!!」
前書きのネタがなければ、後書きもネタがないわけで……
ああ…文章力と発想力が欲しい……