第18話:罠
遅くなった上短め。本当に申し訳ありません。
第18話です。どうぞ。
「いたぞぉぉぉ!!」
上からのイビルの声が螺旋階段に響いた。
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「気付かれた!?」
ここは螺旋階段。上からの声、下にはカプセルを持ち出したイビル二匹。
逃げ場が無い。
「こうなったら……!」
クレスは階段を駆け降り始めた。当然、下にいたイビル二匹に気付かれる。
「な、なんだおま…ウオッ!」
クレスはイビル二匹に体当たりし、壁に叩きつけて気絶させ、更に下へと向かった。
クレスの考えはこうだ。
上のイビルの軍勢を相手にするより下へ向かった方が隠れ場所もあるだろうし、助かる可能性がある。そして、メディストルというマスターイビルに近づくためだ。隠れてイビルの追跡をやり過ごした後、メディストルに近づきその力を見極める。海底都市の謎も解けるかもしれない。
この判断が甘かったと理解するのは、螺旋階段を降りきったところにあった部屋に入った瞬間、イビルに取り囲まれた時だった。
「いたぞぉぉぉ!!」
「どけテメエらああアアア!!」
「ギャアアアアア!」
クレスが消えた遺跡の中、追って来るイビルを蹴散らして進んでいる金髪の人物は、ソラである。
あれからソラは、近くにあった細めの柱を何度も剣で切りつけて倒すという強引な手段で遺跡に突入した。
その作業に時間をかけてしまった上、ボロボロになった剣を研ぎ直していたため、ソラの焦りはピークに達している。鬼神の如き勢いでイビルをなぎ倒し、必死にクレスを探していた。
「くそ…!次から次へと出てきやがって!」
既に十数匹は倒しているにも関わらず、どんどん現れるイビル。さすがに多い。
それでもソラは必死に切り伏せていった。
更に数匹を斬り倒し、粒子となって消えたところに螺旋階段を発見した。クレスが降りていった階段だ。
「クレスはこの下か!」
ソラは階段を降り始めた。
階段の途中、気絶したイビル二匹を見かけたが、他には遭遇しなかったため、階段を降りきった部屋まで難無く辿り着いた。そのため、ソラは簡単に突破出来たことに疑問を抱いてクールダウンし、冷静に頭を働かせた。
「ひょっとして…何かの罠か?」
その様子は、天井に埋め込まれたカメラによって撮影されていた。
「ほう…このソラという少年は意外に冷静のようじゃな…」
薄暗い部屋の中、白衣を纏い、白髪の老いた背の低い男が、モニターに映し出されたソラの様子を見ていた。
その男、肌は黒い。
「フェッフェッフェッフェ…お前さんを助けにここまで来たみたいだのう…」
そう言って後ろを振り向く老人。その目線の先には、二匹のイビルに後ろ手を取られたクレスがいた。
既に疲労困憊で肌にはいくつもの傷がつけられ、時々血も出ている。ポータブルサンも残りわずか。満身創痍だ。
それでも、目だけはしっかりモニターに映るソラを見ている。
ソラはまだ、扉の前にいた。罠を恐れず飛び込むか否か。
先にヤマトとアルエを探して三人で行けばたとえ罠でも乗り切る確率は上がる。しかし、もしこの先にクレスがいるとしたら、彼女は捕まっているかもしれないし、一刻も早く助けたい。イビル二匹が気絶していたのも怪しいし、誰かがこの先にいる可能性は高い。
葛藤しているようだ。
その様子を見ていたクレスは、何かを言いたげに口を動かそうとするが、声が出ない。
「さて…ヤツの様子は……」
老人がモニターを見ると、ソラが扉から離れて階段に足をかけているところだった。
「フェッフェッフェッ……!お前さんを見捨てたようだのう……!賢明といえば賢明か。ヤツがこの部屋に入って来ても何も出来んわ!」
その嘲笑を聞いてクレスが少し俯いた。その表情は悲しそうであったが、どこか安堵したようにも見えた。
そう……来ちゃダメ……これは…………
ふと、クレスの表情が驚きを含むものに変わった。モニターに何かが映るのが目に入ったのだ。
モニターには、勢いをつけて階段をかけ降り扉に向かうソラが映っていた。
「オラアァァァ!!」
叫び声と共に金髪の少年が扉を破り、部屋に飛び込んできた。
扉を破り部屋に突入した金髪の少年、ソラは、その勢いで二、三回転した後すぐ立ち上がって剣を構えた。
そして辺りを見渡し、自分のいる部屋の状況を確認する。
モニターがあって、老人がいて、イビル二匹とクレス……
「クレス!?おい、クレス!!大丈夫か!?」
イビル二匹からクレスを解放せんと駆け寄るソラ。
しかし、上からヒョウという風切り音を聞き取り思わず足を止める。気づけば足を踏み出そうとしていた地面に、黒い棒状のものが矢のように刺さっていた。
はっと上を見ると、天井に体長一メートルほどの黒いトカゲのようなものが何匹か、張り付いていた。
全て頭はこちらを向いて顔の半分はあろう大きさの目は見開いてソラを睨み、大きく開けた口の中には、先の尖った黒い棒状のものが形成されている。
先ほど発射されたものはこれだとすぐに理解した。
そして、自分が罠にかかったことも……
「フェッフェッフェッ…理解したようだのう……大人しくしてもらおうか……」
老人がにやけながら言った。