第9話:人間の力
久々、そして今年最後の投稿です。
第9話、どうぞ。
「小娘を殺れ」
エンテロットがそう言い放ち、鞭で地面をピシッと叩いた。
ライオンがグルルと喉を鳴らしてジリジリとクレスとの距離を縮める。
「ク、クレス……うう……!」
全身にダメージを受けていたソラは、最早動けなかった。
「ハァ……ハァ……」
一方クレスは、全身に襲いかかる激痛で動けない。
「ハァーーーッハハハハハァァ!!」
呻く二人の耳には、歓喜にうち震えるエンテロットの悪魔の笑い声が突き刺さる。
「では、エンゼルの小娘から………
あばよォォ!!」
鞭の音が鳴ったと同時に
肉が引き裂かれる音が響いた。
ライオンの頭がゴトンという鈍い音をたてて落ちた。
「なに!?馬鹿な!地の文が間違っている!
この場面で落ちた頭は小娘のもののハズだ!
――――――……………
くそ!何度読み返しても同じか!一体どういうことだ!」
苛立ちながらエンテロットはクレスを見る。
しかし、その視界には
二振りの刀を持つ男がそこに立っていた。
ヤマトである。
「ヤマト、お…お前…大丈夫なのか……?」
ソラが伏せたまま言う。
「ああ、あれだけ時間がありゃ動けるまでにはなるっちゅーねん
…人間をなめんなや
エンテロットはんよ…」
「く……貴様ら……!
私が直接殺してやる!」
エンテロットから余裕が消えた。
鞭を構える。
ヤマトは歩み寄り、エンテロットの前に、間合いの一歩外で構えた。
両者、微動せず、にらみ合い、膠着―――
「ハアアアアアーッ!」
エンテロットは確かにその叫び声を聞いた。
しかし、ヤマトのいる方向とは逆―――
「後ろ!!」
エンテロットは素早く振り向き、鞭を振るった。
バシィッ!!
「ぐあっ!!」
後ろから飛びかかっていた兵士の右手から、剣が飛んだ。
エンテロットは体勢を崩した兵士をすかさず右足で蹴り飛ばす。
「うわ「だあああ!」」
「なに!?」
その瞬間、左後ろから二人目の兵士が迫っていた。エンテロットは右足を繰り出していて、すぐに後ろに対応出来ない体勢。
ザクゥッ!!
兵士の振るった剣はエンテロットの左腕に刺さったが、斬るには至らなかった。
「この野郎ォォォ!!」
エンテロットは怒り狂い、刺さった剣をはねのけて左足で兵士の足を払い、鞭で滅多撃ちする。
「がっ!うっ!ぐわ!!……ぅぅ……」
「貴様!」
先程蹴り飛ばされた兵士が体勢を立て直し、エンテロットに飛びかかる。
「クソがぁぁ!」
エンテロットは、半ば暴走状態で鞭を振るい、兵士を弾き飛ばす。
「クソ人間共がぁぁ!!この俺様に逆らいやがってぇぇぇ!!絶対に生かさんぞぉぉぉ!!!」
彼は冷静さを完全に失い本性を露にし始めた。
「うおああぁぁぁぁ!!
がああぁぁぁぁ!!」
完全に我を忘れたエンテロットは、叫びながら鞭を振り回す。
「ひえ……!」
「うう……」
弾かれた兵士は近づこうとはしなかった。
滅多撃ちにされていた兵士はエンテロットの足元から動けなかった。
「…………うう……
……ソ…ソラ……?」
「クレス……気がついたか……」
ソラはなんとかクレスにたどり着き、左腕に手を当てていた。
「あ…ソ、ソラ…!」
「大丈夫だ……」
ソラは傷だらけだった。
更にクレスは、エンテロットに撃ちのめされている兵士達に気付いた。
「あっ…!」
満身創痍の体を動かそうとするクレスを、ソラが制した。
「今は、ヤマト達に任せようぜ…どのみち加勢できねーし
あいつらなら大丈夫だから……な」
「…………」
クレスはとどまったが、その表情は心配そのものだった。
「うがああぁァァッ!!
……フーッ、フーッ」
エンテロットが息を切らし始める。暴走した結果、体力が尽きてきたようだ。鞭の動きも鈍ってきている。
「おりゃあぁぁぁ!」
突如、叫び声が響いた。
突如、叫び声が響いた。
ヤマトである。
「くっ!」
焦った状態のままエンテロットはヤマトの方を振り向く。
しかし、エンテロットの視界には刀が。
ヤマトは叫びながら刀をエンテロットに投げていたのだ。
「なめるなぁー!」
今度はエンテロットが叫びながら鞭を振るう。
鞭は刀を捕らえて刃を巻き取り、エンテロットは得意気な笑みを浮かべた。
しかし、ヤマトも笑みを浮かべた。
スパパパパ……
「な、なんだと!?」
投げられた刀は切れ味を失わず、巻いた鞭が次々切れていく。
そして散らばった鞭の中に紛れて、もう一本の刀を構えるヤマトの姿が。
しかし、エンテロットにもう抵抗手段は無い。
ズバァァッ!!
ヤマトの刀の一閃は、見事エンテロットの胴を切り裂いた。
「に……人間ごときに…………!!」
「……人間なめんな言うたやろ……」
真っ二つに斬られたエンテロットの体は例のごとく黒い粒子状になって天に昇った。
来年こそ今の投稿ペースを覆せるようにしなければ。
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