創世神話
いつから意識が芽生えたのかも分からない。気がつくと『ここ』に存在していた。
何もない虚空。
自分の名は?
と、自らに問いかけてみる。自分の内から『ルクレーシア』と答えが帰ってきた。
ただ、ただ、虚空を見続ける時が流れ、ルクレーシアは飽いた。
両の手を打ち合わせると、明るい光の珠が産まれた。比べると少し暗い光の珠も。
自分以外の存在に、ルクレーシアは微笑む。
自らの母が喜んだことを感じてか、2つの光の珠はぶつかり合い、小さな光をばらまいた。
小さな光は星々へと変わり、虚空で光り始める。
次第に光に満ち始めた虚空。
最初の珠は、少年と少女の姿を取る。
燃えるような輝きを放つ、黄金の髪と緑の瞳の少年。
少女の黒い髪と同じ色の瞳は、静謐な輝きを放っていた。
自らを母と慕ってくれる存在が愛おしくなり、ルクレーシアは新たな光を産み出した。
水色の珠。次いで、赤い珠。
そして、同時に産み出したのは茶と緑の珠。
その頃には、最初の2人は大人の姿になっており、新たな弟妹の世話をしてくれた。
ルクレーシアは大地を作った。
子供達が走り回れるように。
海や川を作った。
子供達が泳げるように。
空を作った。
子供達が飛べるように。
子供達の笑い声が大地に響く。
地に緑が広がり、獣が駆ける。空には鳥が、水には魚が。
もうそこは虚空ではない。
ルクレーシアは世界を創造したのだ。
──お友達が欲しい
そう言った娘の願いをかなえ、自分の姿を模した生き物を作った。
知恵のあるその生き物達は、子供達の良き友となった。
だが、年老い、代を重ねると欲が生まれ、争いを始めた。
ある日ルクレーシアは子供達を集めた。
長男の太陽の神、アダルバート。
長女の月の女神、ヴァレンティナ。
次女の水の女神、エドウィナ。
次男の火の神、グスターヴァス。
双子の風の神と土の女神、アレクサイトとアレクシア。
ルクレーシアは大地に住まうのをやめ、神界に移動すると話した。
地上には関わらないと決めたのだ。
──お母様。人を、どのように導けばよいのでしょうか?
エドウィナが問うた。
あなた達に役割を与えましょう。その力を使うのも、使わないのも、人にかかわるのも、かかわらないのも。あなた達の自由です。
与えるとは言ったが、子供達の好きな役割を選ばせた。
太陽の輝きと、その輝きにできた影を司るアダルバートは『生と死』を。
静謐な美しさを纏い、邪悪を嫌うヴァレンティナは『正義と法』を。
温かな優しさをたたえ、すべての生き物を愛するエドウィナは『癒し』を。
物を生み出し、新たな技術を模索する姿勢を愛するグスターヴァスは『鍛冶』を。
奔放な風と共に、世界を巡るアレクサイトは『豊穣』を。
地から揺るがず、戦いにたけたアレクシアは『戦』を。
子供達は、それぞれが眷属を生み出し、世界を守る力とした。
新たな神々が生まれる。
だが、ルクレーシアを最高神とし、世界の主たる神は子供達6柱である。
眷属である精霊は、子供達の母を慕う気持ちを知って、神界と人界を思うがままに移動する。
新たな役目を与えられた神は、それぞれの司るものを守護した。
子供達は、神界で暮らす者もいれば人界で暮らす者もいた。
ルクレーシアは時折人界を覗くが、手は出さず優秀な子供達にすべてを任せた。
──時は過ぎる。
人界に生命があふれていた。
神界は光と緑に満ちあふれ、精霊と妖精が生き生きと遊ぶ世界になっていた。
ルクレーシアは飽いてた。
その全てが手を離れ、する事がない。
光と命が周りにあるのに、感じられない。
気持ちが、虚空にあった時の自分に戻るのを感じていた。
──変化が欲しい。
ルクレーシアは、両の手を打ち合わせた。
光の球が生まれる。
ルクレーシアの迷いを体現するかのような、くすんだ鈍色の球だった。
鈍色の髪と赤い瞳を持つ少年、エリファレットは『遊戯』を司る神となった。
神界を出て遊ぶエリファレットを見て、ルクレーシアは笑う。
子供達は、新しい弟の悪戯に眉をひそめたが、母の嬉しそうな様子に何も言えなくなり、後始末に奔走する事となった。
──飽いた。
母が言い出す事が、世界の終わりの始まりであろう。
飽きないように、この愚かしくも美しい世界が続くように。
子供達は願っている。
7柱の神を、この地に生きる者は崇めている。
アダルバート。
ヴァレンティナ。
エドウィナ。
グスターヴァス。
アレクサイト。
アレクシア。
そしてエリファレット。
神々へと、願いを叶えて欲しいと祈る。
地に降りる事のない創造神は、人々の記憶から次第に薄れて行った。
今では、神職につく者が細々とその名を伝えるばかりである。
世界の命運を握るのは、ルクレーシアだというのに。
知ったから、祈ったから、どうなるものでもないが。
──飽いた。
その時、ルクレーシアは何をするのだろうか。
恐れを抱くのは、7柱の子供達のみであった。
私が書いている異世界ものの神話です。
あちらとは時が違うので、ルクレーシアの性格が違います。
向こうは読まなくても大丈夫! 主人公も、こちらには出て来ませんし…。
もし気が向いたら覗いてみて下さい。
『羞恥心の限界に挑まされている』
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異世界転移もの、ファンタジー、乙女ゲーム要素ありのコメディです。