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崩壊世界の最後の希望  作者: 榊原
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004【育真と心】

 白いワンピースを閃かせ何が嬉しいのか心はニコニコと楽しそうな笑みを浮かべて街の中を歩いていく。その後ろで育真は白いカッターシャツに多少ダメージを負ったジーンズを履きながら面倒臭いという表情を浮かべたままについていく。

 空は憎々しいまでに青く、風は清々しい程に気持ちよさをもたらしながら流れて行った。心はそのポニーテールを風に揺らし元気に歩く。



「そういやこっちの迷宮は広いのか? 地図を作製し終わったって言ってたけどどの程度だ?」



 育真がふと思い出したように前を歩く心へと声をかける。それにくるりと振り返り心はん~と少し考えながら言葉を返す。



「そうだね、広さだけ言うならかなり広いよ、前の所よりも広いかな? でも正直かなり楽だよ、罠も簡単な物しかないしモンスターも弱いからね~」

「そうか、そんなのだったら楽で良いな、ずっとそうだと良いんだけどな」

「まっ、前の所と比べると楽なのは間違いないよ、実際話しを聞いた所五階位までは似たようなもんみたいだからね、今度私達は気合を入れて潜ってある程度進めてみる予定だし」



 二人が話す前の所というのは夢幻想迷宮世界レヴリーの事だ。それと比べて此処の迷宮はと比較して話をしている。ゆったりと二人で歩きながら会話は続く、最初育真は走っていくのかと思っていたが心が急いでる訳でもないからゆっくりいこー! と言いだしこうして二人連れ立って歩いているのだ。

 迷宮の事に関する会話、何気ない日常の会話、それを嬉しそうに心は話す。くるりくるりと元気に動き回りながらゆっくりと進む。

 夢幻想迷宮世界レヴリーからこの世界に帰ってきたのは十人だけだった。心と育真もその家の一人で心はその中でもレヴリーを攻略した人間の一人である。そして彼女のPTメンバーの三人、その三人もまた同じく攻略した者達だ。残りの五人は二人はバックパッカーとして心達のPTについていき、三人はそれぞれ鍛冶、錬金、料理とそっちの方面で支えている。



「迷宮の事と言えば、いっくんも私達のPTにそろそろはいら――――」

「入らないよ、俺は一人が性に合っているからな」



 タイミングを見計らい心が話を斬り込むが、バッサリと言い切る前に育真は切って捨てる。レヴリーにいた頃から育真は誰かとPTを組むという事を殆どしてこなかった。一人で迷宮に挑みそして生き延びていた。

 その答えにしょぼんと少しだけ肩を落としながら心はやっぱりかという様子でそか~とそれ以上その会話を続けはしなかった。

 ちなみに育真はその心のPTメンバーとは全員顔見知りである。バックパッカーの二人とは顔も見合わせた事も無ければ会話もした事がないが、それ以外の三人とは非常に仲が良い。協力し合った関係でもあり互いに多少の無茶を言い合えるような間柄だ。



「それに仮にだ、仮に俺が心達のPTに入るって言った所でPTメンバーが納得しないだろうさ」



 そしてその落ち込んだような心の表情を見た育真が続けてそんな言葉を投げかける。育真なりのフォローのつもりなのだろう、その答えを聞いて心は苦笑を浮かべながら内心で首を振る。



「(いっくんはどうしてこうも自己評価が低いのかなぁ? リーダーは喜ぶし、かなちゃんは怒りながらふて腐るふりして尻尾をブンブン振るよね? あの子はまだいっくんと合ったばかりで実際どうか知らないから嫌な顔をするだろうけど、実際に動いているのを見れば素直な子だもの、すぐに瞳を輝かせると思うんだけどなぁ)」



 心のPTメンバー達は育真の事をこう言っている。


 【足手纏い】攻略が進んだ後に育真と出会った者はそう言った。

 【器用万能】PTメンバーのリーダーは残念そうにそう溜息を付く。

 【大馬鹿】怒ったようにふてくされた様に、育真を見かけると突っかかりながらそう叫ぶ。


 心のPTメンバーの三人はそれぞれ育真を嫌っている訳では決してない、足手纏いと呟く者は元より興味がなく、器用万能と溜息を吐くリーダーはまだこちらに戻ってから真面に会話を交えていないが、向こうにいた頃から仲良く食事をしたり何だりをしていた関係だ。大馬鹿と突っかかってくる少女は良く育真と遭遇し嫌なような怒ったような表情で知らないんだからっ! と殴りかかってくる。この少女、心よりも遭遇する頻度が高く育真は余程嫌われていると思っていた。

 取りあえずと、心はそんな育真へ迷宮の誘いをそれ以上かけずに日常の会話へと戻っていった。街のあのレストランは美味しかった、あそこは駄目だった、あのアイスクリームは絶品だったからお勧めだよっ! 等という他愛のない会話だ。ゆったりとした足取りで進むそんな二人の進む速さは、迷宮の入り口に辿り着く頃には日が暮れそうな速度で合った。



「それでどれくらい潜る予定なんだ?」

「そだね、一応地図の確認だから一通り回るとして余裕を見て五日位かな? 実際は何も問題が起きなければ四日目で終わるとは思うけどね」

「了解、一応余裕をもって準備だけはしとくか」



 急いでいる訳ではない、心はそう言った。そして迷宮探索は基本日帰りで終わる様な物ではない。日帰りで終わる様な迷宮探索はお試しで潜る程度であり、それ以外は基本的に数日掛が当たり前、しっかりと気合を入れて潜る場合は数ヶ月は潜った儘になる。だからこそそういう事をやるPTにはバックパッカーとして色々荷物を持つ者が必要になるのだ。

 だからと言って本来こんなにゆっくりとしている訳でもない、ただ育真と心がこうしてゆっくり歩いているのは心の我儘みたいな物と育真のやる気の無さが故だった。少しでも一緒に育真といたい、それは恋心とは別の憧れから、心は育真の背中に今も尚憧れ夢見ているからだ。

 心と育真の出会いは心がレヴリーの迷宮で死にそうになっていた所を助けられた所から始まった。その時に見た背中に憧れ、心はいつか隣に立ちたいと追いかけた、そして気づけば追いつき、追い抜き前をひた走っていたのだ。だからと言ってその憧れが消えたわけでは決してない、寧ろだからこそ前へ先へと進んだからこそより一層その想いを強くする。

 だからこうして憧れのその人と一緒に過ごせる時間が幸せだった、思わず笑みがこぼれるのは仕方がないのだろう。心の中で怪我をして暇をしている妹にチラリと謝りながらも今はこのひと時を楽しんでいた。

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