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崩壊世界の最後の希望  作者: 榊原
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029【スライム】

 それは半透明の水色の水たまり。うぞうぞと蠢くそれは地面の草を溶かし、枯れ地としながら進み続ける。大きさは二メートル大、盛り上がる水たまりの一部から触手の様な物が伸びオークを捕食し、悲鳴を上げながら溶かされ囚われ逃げられない様子をまじまじをと二人は見せつけられる。



「きゃぁぁぁっ!?」



 そしてそれに集中していたヘレは、頭上から落ちて来るそれに気づく事が出来ずに思わず悲鳴が漏れる。育真はしまったという様子でヘレを抱えその場から離れると、スライムの職種は数十メートル離れているというのにその二人がいた場所まで伸び、その地面を溶かしていった。



「す、すいません!」

「気にするな、それより逃げるのは無理だ、倒すぞ」



 ヘレの頭上に落ちてきたのは鳥の頭。それに驚き咄嗟に声を上げてしまったのだった。育真はスライムと距離を取りながら武器を構えじりじりと後退し始める。

 ヘレはその育真の背後で同じようにスライムを警戒しながら後ずさる。

 スライムの移動は意外と素早い、うぞうぞと蠢くその様から予想が出来ない程の速度でそれは動き、股履きの間に数十メートルの距離が詰められる。育真はヘレを突き飛ばし、自身も逆側へと転がりながら魔法を使う。



「集え集え真なる火の粉、集いて纏まり彼の物すべからず焼き尽くさん」



 転がりながら育真の手のひらから炎の弾が焚火の火の粉が舞う様に幾つも現れスライムへと襲い掛かる。それは数発交わされながらもいくつかがその身体に突き刺さる。じゅうじゅうと匂いを上げる事はないが音を立て、紫色の煙を上げながらその身体を焦がしていった。

 だがその焦げた部分は直ぐに周囲の粘液が覆いつくし塞いでいく。少しばかり大きさが小さくなっただけの結果だけが残った。



「これだからスライムは、かなりでかくなってやがるし面倒なんだ!」



 そう叫びながら育真はスライムが伸ばしてくる触手を躱しながら火を放ち続ける。徐々に額と背が背にぬれ、全身が重くなっていく。魔法と呼ばれるこれは使えば使う程非常に浸かれる代物なのだ。数十、それだけの数を使っている育真は既にかなりの疲労の中、視界が多少ぼやけ初めてさえいた。

 だがそのかいあってスライム自体もまたその大きさを数センチ程度まで縮め後一回、二回でも火の玉を当たれば終わりだろうという所までいっていた。

 ヘレはただそれをその戦いを静かに息をひそめながら見守っていた。これを上げれば反応すれば、音を立てればスライムの反応を引いてしまう。それを知らされていたが故に。そしてそれに集中していたが故に気づけはしなかった、ヘレの背後から近づくその存在に。



「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ!」



 育真が肩で息をし、ふらつく身体でようやく目の前のスライムを倒し終えた時、そんな喉が避けんばかりのヘレの悲鳴が響き渡る。意識が飛びそうだ、そんな事を放り投げその悲鳴を上げたヘレに視線を向ける。

 そこには片足が溶かされ、それでも咄嗟に逃げる為に残った足で飛びずさり転がり回るヘレの姿が育真の瞳に移る。そしてその足を溶かしたであろうもう一体のスライムの姿も。



「くそ、がっ! 一匹じゃなかったのかっ! 集えつどっ!? えっ! 真なる火の粉っ、集いて纏まり彼の物っぐぅ、すべからずやき、つくさんっ!」



 育真はヘレに近づこうとするスライムに火の弾を投げようとし、詠唱途中で思わず言葉が詰まり膝をつく、意識が遠くなる感覚を味わい腕が足が自分の物ではないような感覚も味わいながらも強引にその言葉を完成させる。

 そして火の玉はヘレとスライムの間に着弾し小さな爆発を引き起こす。



「ヘレ! ポーションは、ある、だろう! つかって、にげ、ろ!」



 途切れそうな意識を無理やりとどめ、育真自身も腰に付けている小袋からポーションを取り出し煽っていく。ただこれで回復できるのは多少の体力程度、失った精神力までは回復しきれない。意識だけは辛うじて戻ってきたものの、真面に動けるだけの体力も精神力も全くなくなっていた。

 それでも育真は立ち上がる、そしてその爆発と声によってスライムは育真に気付き、そちらへ向かって襲い掛かってきていた。



「づぅっ! がはっ! ……いく、育真、さんっ!」



 ヘレは育真に言われるが儘にポーションを必死に取り出し呑み込んでいく。上級のポーション、部位の破損すら回復する事が出来る非常に高価なポーションだ。それを呑み込み、溶けて失った足がそこから徐々に生えて戻っていく感覚に嫌悪感を、そして新たな皮膚が出来る前の素肌の神経に風が空気が当たる感覚に激痛を感じながら数秒でその傷はいえて行く。

 そして涙と痛みで涎と鼻水が零れた表情を育真へとヘレは向け、襲われながら必死に躱している育真をみて思わず悲鳴を上げる。

 真面に動けない程の疲労を伴った育真は、スライムの攻撃を躱しきる事等出来ずに腕を足を身体をかなりの部分を溶かされながら致命傷だけを避けて必死に攻撃を躱し続けていた。それでも魔法を使う余裕など既に一切なくただただヘレが逃げるだけの時間を稼ぐためだけの行動であった。

 育真はその悲鳴を上げたヘレに視線を少し向け、声を出すことなく早く逃げろと強く願う。そしてヘレは迷う、逃げて良いのかと、でも逃げないからと言って私には何が出来るのかと。



「(怖い、痛い、怖い、痛い、足が溶かされる、あの怖さはもう嫌だ、でも、それでも! 今ここで本当に逃げて良いの? 育真さんなら、育真さんならきっとどうにかできる、出来る……本当?)」



 ヘレは考える。今の育真の様子を見て育真であればどうにか出来ると本当に言えるのかと。ヘレが見て来た今までの育真は圧倒的な強者であった。自身が圧倒されるオークの大群すら余裕をもって倒してしまい、汗すら書く事がない程の底が見えない強者。

 それが今はそうではない。血を汗を流し、肉は焦げ今片腕が溶けてぽとりと落ちた。



「(育真さんが勝てないような相手に私が勝てる? 無理、無理だよ、逃げないと、育真さんが逃げろって言ったんだから早く逃げないと、逃げ……ない、と……。……逃げて、また私は一人に、なる? 一人になるのは嫌だ、怖い、それならもう死んだ方がましだ、それに、それに何より、私はあの人の育真さんの隣に立てるようになりたいって思った筈だっ!)」



 ヘレは震える、ただ逃げる事も出来ずに、どうして良いか迷いながら。

 育真は耐える、腕は落ち、足は重点的に守り続けたおかげでまだ無事だがその胴体は腸が零れかけている。



「(そうだ、私は、あの人の傍にいたいんだ、横に並べるようになりたいって思ったんだ! なのに、なのに逃げる何て、そんな事出来ないっ! 私に、何か私に出来る事……っ!)」



 ヘレは考える、育真は倒れる。

 限界は近い、育真は必死にヘレに逃げるんだと声を出そうとし声にならず口から血だけがこぼれ出る。

 ヘレは立ち上がった、震える足で、それでもその瞳に強い意志を込め。



「お願い、お願い、お願いします、私に力を貸してください、私に願いを叶える力を与えてください。この世に満ちる数多の力、神様でもなんでもよいんです、お願いします! 願います認めます、此処には確かに水がある、水がありて氷と化してゼロとなす、此処に此処にそれをなしてぇっっっ!?」



 ヘレは震える足でしっかりと立ち上がり、零れる涙で震える視界を裾で振り払い、世界にただ働きかける。そしてその掌からは溢れんばかりの水がスライムへと注ぎ込まれると同時に凍りつく。凍りついて凍りついてどこまでも凍りつくしてやがて罅が入る。それは大きく広がり割れ砕け、やがてその派遣は虹色の如き輝きを輝かせながら消えていく。

 そしてそこに残る物は何もなくなった。

 はぁはぁはぁはぁと肩で息をするヘレは、自分がそれをなせた事に驚く事よりも何よりもまず育真へと駆けよっていく。

 そして袋の中から上級ポーションをあるだけ取り出し傷口に掛け、そして呑み込ませていく。



「育真さんっ! 育真さんっ! 大丈夫ですか、大丈夫ですよね!?」

「ごぼっ! ぐっ! だ、いじょ、ぶだ」

「育真さんっ! よか、良かった……良かったよぉぉ」



 そして治っていく傷口の激痛にさいなまれながら、同時にヘレに抱き付かれるというその痛みを倍増される行為を受けながら育真は呻く。だが意地かなんなのかそれに悲鳴を上げる事はせずにただ耐えた。



「づぅ、よ、く、やった、な。すごか、たぞ」



 そして傷が塞がる激痛の中で涙を流し抱き付くヘレに育真はヘレが行った魔法の力を見てそう言葉を投げる。それは心からの言葉、育真自身あれほどの魔法が使える存在等片手で知っている存在程度、だからこそヘレにそれ程の才能が有り、それを初めてで仕えた事に驚いていた。



「がん、ばりました。いくま、さんがあぶないって、だめかもって、おもって」

「ああ、たすかった、ほんとうにこんかいばかりはたすかった。ありがとうな」



 数分かけて傷は塞がり、幻肢痛の様な痛みが僅かにまだ全身を覆っているような感覚を味わいながら育真は少しぼんやりとした言葉でヘレに礼を言う。



「そんな、何時もは、もっともっと私を助けてくれているんです、でも、ふふふ、良かった。育真さんを、助けられたんなら本当に良かったです」



 そしてそれにヘレは顔を上げ、涙の跡を頬に残しながらも微笑んだ。

 二人は暫く互いの傷をしっかりとその場で癒し、それからスライムが何かを残していないかを調べて帰途へとついたのだった。

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