028【九階層】
ヘレは走る、一定の呼吸を維持しながら後ろにチラリと視線を向ければそこには追いかけて来るオークの群れが見える。数は七、一人で真正面から相手をするのであれば絶望的な数の相手であった。
「(真正面から相手何てする必要もないですね)」
そんな事を考えながら必死に逃げる姿を装いヘレはオークからつかず離れずで逃げ続ける。そして目当ての場所が見えて来た。ヘレはそこに辿り着くとわざと転がるようにこけ、小さな悲鳴を上げていく。オーク共はそれを嬉しそうに見ながらその転んだヘレに近づこうとし、そして転びながら転んだ先の穴へと落ちていく。
『GUROOO!?』
最初の一匹が転び、勢い着いたオーク達は止まる事が出来ずに続いていたオーク達もそれに習い転びながらその穴の中へと落ちていく。落ちた先には鋭い鉄の棘が幾つも用意されておりそれに貫かれオーク達は苦しみもがきながら傷を深めていく。
「残ったのは二匹、なら大丈夫です!」
誰かに伝えるようにヘレはそう叫ぶと穴に落ちる前に留まれたオークに近づいていく。驚き戸惑っているオークに飛び上がるように足に力を入れて空を駆けると、オークの首元にショートソード程の長さの細い串の様な物を突き刺していく。
それは首を貫通し、開けた口の中へとナイフを投げ入れ喉の奥へとそれを突き刺していった。オークは濁った濁音の叫び声を上げながら暴れもがきそして力尽きて行く。残った一匹は慌てて逃げようとし始めるが、その背中にヘレは素早く近づき足の腱をを切ってそれを阻止した。その後倒れたオークの首の後ろを鈍器で思いっきり殴りつけて行く。
全体重を乗せた一撃はオークの首の骨を折り呼吸すら真面にで射ない様にしてからナイフで切り付け大量の出血を促していく。そのオークもやがて動きは鈍くなり直ぐに動かなくなっていった。
「穴の方も、死んでいますね、育真さん終わりました」
「おう、随分と手慣れて来たな」
ヘレは穴の中のオークを確認して絶命しているのを確認してからそう声を上げると、近くの木の上からタンと音を立てながら育真が飛び降りて姿を現す。育真はそんなヘレを見ながら笑みを浮かべてよくやったと褒めて行く。
「階が上がる毎に数が増えていますね」
「そうだなぁ、これが本来通りなのか多くなっているのかが解らないのがネックだな。取りあえず戻ったら情報を集めてみるか」
「はい、森中さんが言った規模の群れはまだ見てませんし、案外これ位が本当に当たり前なのかもしれないですね」
「だなぁ」
そんなやり取りをしながらもオーク達の剥ぎ取りを二人は済ませて行く。周囲は深い森の中、木々の隙間から漏れる陽の光が僅かに森の中を照らす以外、明かりは何一つ存在していない。
ヘレはこの二ヶ月ほど森の中で過ごし暗い場所での視界の確保が出来るようになっていた。完全とは言えないまでも暗闇に目を慣らしある程度ならば問題がない程度にまでなっている。
「終わりました」
「こっちもだ、んじゃ九階での狩りも後一戦位で終わりにするか。十階の階段も見つけた事だしな」
「解りました、ではモンスターを探してきますね」
「気を付けろよ」
「はい!」
そしてヘレはその場から離れ駆けていく。モンスターを探す為に。
育真はそれを見送り、そしてヘレの姿が見えなくなるとその場からヘレを追いかけて駆けていく。ばれない様に距離を開けながらヘレの様子をうかがう為に。
「(過保護だってのは解ってんだけどなぁ、どうにもこう、放っておけないんだよな)」
育真は自分の中で言い訳をしながらヘレの動きを見続ける。それを見ながらこの短い期間で良く動けるようになっているなと感心した。
「(レベルってのはやっぱり反則だよな)」
それというのもオークを倒し続けていた事でレベルが大きく上昇したおかげだからだ。それを知っているからこそ育真はそんな事を思う。育真とてレベルは上がりその恩栄を受けている為にどうとも言い難い状態ではあるのだが、それでもと育真は心の中で溜息を付く。
「(これがなけりゃ深く潜れば潜る程モンスターとは戦いにすらならなくなるからなぁ。まだオーガ程度までならレベル何て無くても何とかなるんだろうが、まぁ死にづらく生き残りやすくなるなら良いと思っておくか)」
育真はそんな事を考えながらもヘレの姿をしっかりととらえたまま周囲を警戒もしている。チラチラと見え隠れするこちらの様子をうかがっている動物達に気付きながら、こちらに危害を加えてくる様子を見せないので放置し、ヘレが気づいているのか気づいていないのか通り過ぎていく罠の場所も記憶していった。
ヘレは上手い具合にその罠の場所を通らずに何もない通路を走り抜けていく。
「(あそこにも罠がある、あそこは避けて無駄な危険を負わない様にして……見つけたっ!)」
そしてヘレはモンスターが固まって周囲を警戒しながらも進んでいる一団を発見する。
「(数は、四? 四体だけなら頑張れば何とかなるけど、罠を仕掛けてそっちに誘導した方が安全? そうだよね、無理して危険な事をする必要なんてないんだから罠を仕掛けよう)」
少し悩んだ後、ヘレはその場から少し離れ、オーク達の動きを把握できるようにしながら近くで罠を作り上げていく。足をかけて転ばせるわな、転んだ先には草等で隠した毒を付けた剣山の様な串の山を用意しておく。
それ以外にも地面に仕掛けたロープを踏みつけると周囲の木から鋭い毒が塗られた矢が飛び出す仕掛けや、木々が倒れ込むような仕掛けを用意し、オーク達が余り動いていないのを改めて確認していく。
「(準備は良い、よね? よし、なら頑張ろう)」
育真に倒して、一人でもちゃんとこれ位は出来るようになったのだと言えるように気合をいれ、ヘレはオーク達の前へと飛び出す。そしてオーク達を見て驚いたような悲鳴を上げながら逃げ始めた。
オーク達は突然現れたヘレを見て馬鹿を見つけた! とでも言わんばかりに笑みを浮かべながら逃げていくヘレを雄叫びを上げながら追いかけていく。
「(オークは本当に頭が悪いよね、いっつも同じ形の罠にかかるもの)」
ヘレはそんな事を考えながら罠を張った一帯へとオークを誘い出す事に成功し、そしてその罠にはめてその四体のオークを倒しきる。
「ふぅ、出来た。私も育真さんの手助けが無くても倒す事が出来た。これで少しは足を引っ張らないで並べるようになるかな」
少し緊張と倒した固体の数が多かったことで息を乱したそれを整え、ヘレは満足そうに頷いていく。オークの剥ぎ取りをしながらそれを終えると、育真へと報告すべく育真がいた場所へと戻り始める。場所自体はしっかりと覚えており、道に迷うことなくその帰路をとれる。
そして帰った場所では育真は枯れ木を集めて野営の準備を始めている所であった。
「お、お疲れさん、どうだった?」
「はい、オークが四匹程いたんですけど、私だけでどうにか出来そうだったので倒してきました」
「そうか、ヘレも一人でそれ位出来るようになったんだな、成長が早いもんだ、よくやったな」
「は、はい! 私も何時までも足手纏いの儘じゃありませんから! これからは少しくらい育真さんの役に立ったりも出来ますよ」
「頼りにしてるさ、取りあえず今日は陽がそろそろくれる、野営して明日帰る事にするか」
「……はい、そうですね」
育真の返事が少し軽い事に不満を覚えながらも、ヘレは素直に育真の言葉に従いながら野営の準備を進めていく。近くに川があるのを見つけていたのでそこから水を汲んできて枯れ木に火をつけ焚火の準備が出来たそこに鍋を上げ、水を入れながら沸騰させていく。
今日の料理はスープにしますねと、ヘレは少しぎこちなくもある程度慣れた手つきでマジックリングの中から材料を取り出しながらスープを作り上げていく。育真は返事を返しながら干し肉を取り出し、軽く水で洗い流しながら味を薄め、ナイフで切り分けて行った。
二人は食事を始め、食べ終える頃にはオレンジ色から黒色へと空の色が変わり始めるころだった。
そして、そんな時間帯に育真は表情を引き締めバッと立ち上がり武器を構え周囲を確認し始める。突然の出来事にヘレは驚きながらも同じく武器を構え、どうしたのかと尋ねて行く。
「今何か、叫び声が聞こえた、いや、叫び声だけじゃねぇ、地鳴りも響いてるな」
ヘレにはまだ何も感じられずに聞こえもしない、それでも育真が言うのであればそうなのだろうと咄嗟に焚火の明かりを消し、次はどうしたらと育真に尋ねて行く。
「咆哮までは、流石に解らんな。取りあえず入り口の方へ向かって移動していくぞ」
「はい」
そして二人は夜の視界が更に悪くなった、危険な森の中をゆっくりと進んでいく。一時間、二時間と進んだ頃だった。
「っ!?」
育真がそれに気づく、何かから逃げ出すように悲鳴を上げる何かの声に。
「ヘレ聞こえたな?」
「はい、これは、人の声じゃないですよね? 多分オークでしょうか?」
「だな、だが何だこれ、叫び声だが悲鳴に近いぞ? 地鳴りの感覚からも何かから逃げている?」
育真は不思議そうにそんな事を呟き、足を進めていく。先程よりも少しだけ早めた足取りで入り口に向かうが、残念なことに二人はそれに遭遇してしまう事となった。
見えたのは無数のオーク、全身に汗を張りつかせながら必死に逃げていくオークの群れだ。数は数十、下手すれば三桁に届くのではないかという程の数。
ヘレは顔を青ざめ、必死に息を殺しそれをやり過ごそうとする。育真もまた流石にヘレを守りながらあの数は無理だと、一人でも下手すれば大怪我を負いかねないと思い同じく息をひそめる。
そしてそれを無事にやり過ごした所で何故オーク達が逃げていたのかという原因と遭遇してしまうのであった。




