表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
崩壊世界の最後の希望  作者: 榊原
23/31

022【拠り所】

 ヘレの身体をオークの手が包む混む様に握りしめるように掴まえ、閉じられようとし――――。



『GUAO?』



 その掴もうとしていた腕がボトリと落ちた。そして一瞬遅れそこから血が噴き出し始める。それはヘレを汚し、その痛みにオークはのたうちながら転がった。



「まに、あった! 間に合った! ヘレ!」

「いく、いくまさ、育真さんっっ! 育真さん育真さん育真さんっ!」



 血を浴びながら何が起こったのかと一瞬解らなかったヘレは、その声を聴いて声の方向に顔を向ける。そしてそこに臨んでいた存在が経ちながらヘレに向かってきたことが解り、泣きながら叫び、近づいて来た育真に抱き付いていく。

 その足に縋りつく様に抱き付き、何度もその名を叫ぶ。



「良く頑張った、良く生きていた! 後は任せろ、すぐに終わらせる、だから少しだけ待っていてくれ」

「育真さん育真さんっ! いく、ま、さんっ! や……は、はい、わ、わかり、ました、だ、だけど、お願い、お願いです、早く、早く戻ってきて」

「ああ、本当に直ぐだ、安心しろ」



 育真はオーク達を睨み付け、睨み付けられたオーク達は怯えた様に一歩後ずさる。そして育真はヘレに視線を戻すと、優しくその頭を、枯れ葉や土で汚れたその髪の毛を優しく撫でながらそう約束した。

 ヘレは震える腕をその育真の足から離したくないという葛藤を抱きながらも、必死に引きはがしていく。邪魔をしちゃいけない、言う通りにしないといけない、頑張らないといけないと育真の姿を見てからまたその感情を思い出したから。



「お前等、お前等はいつもいつも本当に俺の大事な奴等を傷つけてくれるよな、俺はお前等とは違う、さっさといたぶる事なく一瞬で殺してやるよ」



 怒り狂ったような表情で育真はオークを睨み、脚を強く踏み込むとオーク達が反応するのに数秒遅れる速度で近づきその手に持った剣を振っていく。真っ直ぐに伸びる軌跡、それは一本一本の軌跡ごとにそのオークの首を跳ね飛ばしていく。ただその見える軌跡は一度振れば数本見え、五度も振ればその全てのオークが血に伏せて血を吹き出していた。

 本当に言葉通りの一瞬、終わった育真の剣にはオークの血の一滴さえついていない。綺麗に切れすぎた状態で斬った後になってから首がずれ落ち血が噴き出したが故の現象である。そして育真は倒し終えたオークを背中に、ヘレに近づき抱きしめる。

 ヘレはそれに縋りつきながら、また大きな声を上げて泣き始める。育真の名を呼び、怖かったと、助けてくれてありがとうと、怖かったと痛かったと、でも助けてくれてありがとうと、繰り返し子供の様に泣きながら叫び続ける。



「良くやった、頑張ったな、偉かった。遅くなって悪かったな、本当に、本当に無事でいてくれて良かった」



 そして育真はその言葉を聞きながら、傷を癒すべく暖かい白い光でヘレの全身を覆いつくしていく。言葉を聞き、それを褒め慰め受け入れながら呪文を唱える。ヘレがおっていた傷が少しずつ治っていく。同時に育真はその頭を子供を褒めるように優しくゆっくりと撫でながらヘレが落ち着くまでそうやり続けていた。

 ヘレがそれから落ち着いたのは三十分程経ってからだった。抱き付いたまま、甘えるように育真の胸に頬をすり擦りながら真っ赤な目で育真を見上げる。



「育真さん、また、助けてくれました。いつも、助けてくれます、やっぱり育真さんは私の……」



 そう言いながら嬉しそうに笑みをこぼす。ついさっきまで泣いていたのにもう笑えるのか、それに育真は心強さと共に、聞こえる言葉に少しばかり危機感を覚える。だが気のせいだろうとそれを流し少し乱暴に頭を撫でながら立ち上がる。



「少しは落ち着いたな。うし、それじゃあとりあえずこのオーク共の剥ぎ取りをするぞ。嫌かも知れないが探索者をやってく以上は苦労した分は対価を貰って帰らないとな。頑張れるか?」

「はいっ! っぁ、あっ! い、育真さん離れてっ! お願い、あっち行って!?」



 立ち上がった育真に少し残念そうにしながらその育真の言葉に元気に返事を返しながら立ち上がり、そして気づく。自分の今の状態に、濡れた下半身と濡れた地面に。そして顔を青くした後すぐに真っ赤にして育真にそう告げて行く。



「お、おう? あ、おう」



 突然何事だという感じで困惑した後、もじもじしている足とそこが濡れている光景、その地面を見て理由が解り、ぶっきらぼうに返事を返しながらそそくさとその場を離れオークの解体を始めて行った。ヘレは今度は恥ずかしくて今まで気づかずに抱き付いてもしかして匂いを移したかもしれないと考えながら泣く。泣きながらそっとその場にマジックリングから水筒を取り出して水をぶっかけ匂いを散らし、木の影に隠れて濡れた服と股や足を水で洗い流しながら新しい着替えに着替えて行く。



「(絶対にかがれてる、絶対に呆れられたる、あんな格好で、あんな状態で抱き付いて、甘えて、どうしようどうしようどうしよう)」



 恥ずかしさが落ち着かず、そして同時に呆れられ見捨てられたらという考えが思い浮かび顔を青くしていった。直ぐに着替え終えるとヘレは木から飛び出して急いで育真の近くまで近づこうとし、少し手前で止まった後にすんすんと自分の匂いを少し確認してから改めて近づいていく。



「ごめんなさい! ごめんなさい、すぐに、すぐに私もやりますっ!」

「お、おう? いや、焦らなくても良いぞ、ゆっくりで良いから。ヘレはまだ体力も回復しきってないんだからな、無理はするな」

「ありがとうございます、でも、私は大丈夫です、だから、だから見捨てないでくださいっ」

「あ?」



 突然戻ってきたと思ったら青い顔をしながら必死に作業に移ろうとして震えているヘレを見て、育真はどうしたんだと焦りながらもまだ回復しきってないのかと、そう伝えていくがヘレはそれに首を振りながらぎこちない、媚びるような笑みを浮かべて震える手でオークに解体用の大振りのナイフを突き入れて行く。

 それに育真は少し表情を変え、そしてそのヘレの手を取る。



「っ! いくま、さん?」



 手を取られ無理やり立ち上がらされる。ヘレはそれに少しだけ痛みを感じながら見つめた育真が真剣な表情で少し怒っている様子を見て顔を益々青くした。やだやだやだやだと心の中で叫びながら瞳に涙が浮かんでいく。



「良く聞け、何がどうしてそんな事を思ったのか解らない、だが俺がお前をヘレを見捨てる事はしない。絶対だ、だからそんなふざけた事でそんな似合わないつまらない笑みを浮かべてんじゃねぇ。それとも、俺はそんな事をしそうな人間に見えたのか?」

「ちがっ! 見えない、違う! 見えないです、でも、だって! 私あんな恥ずかしい姿見せて、育真さんだってきっと汚れて、だから、だからぁ」

「……あぁ、もう! そんな事でかっ! 良いか! 俺達や他の奴等だって似たような経験はした事位誰だってあるんだ、探索者をやってら一度二度は絶対に経験してる、してない奴の方が数はすくねぇ位だ! なのにそんな理由で見捨てる見捨てない、汚い汚くないなんていちいちきにしねぇよ! 確かにヘレにとっちゃ恥ずかしい姿を見られて恥ずかしかっただろうが、俺もちと気まずいとは思ったが、それだけだ。ヘレは悪くないし、それで俺がどうこう思ったりもしやしない、良いか? 良く聞けよ? もう一度言うが俺はヘレが一人で立ってどっかに自分から行かない限りは絶対に見捨てない、約束だ、誓っても良い。だから信じろ、信じてくれ」

「いくま、さん」



 育真が怒り、そしてそれを受けて怯えながらその理由を喚き、また育真は怒り掛け、そしてがしがしと頭を掻きながらヘレにそう伝えていく。嘘は言わない、そう気づいて貰えるように真っ直ぐにヘレの瞳を反らすことなく見つめながらそう言い切っていく。

 そしてヘレはポロポロと涙を零しながら震え、しゃっくりを漏らしながらまた抱き付いて泣きだしていく。ごめんなさい、ありがとう、馬鹿でごめんなさい、そう言いながら。

 育真は解った解った、これからはこんな馬鹿な事で一々あんなつまらない笑みを浮かべたり怖がったりしないでくれよと、その頭を撫でながら空を見上げる。だが残念ながら空は見えずに見えるのは木々の葉で覆われた天井だけだった。



「(あぁ、柄でもない、恥ずかしいのはこっちだ! 何であんなこっぱずかしい台詞を吐かなきゃいけない。はぁ……でも、まぁ仕方ねぇか、初めてだもんな、とにかく今日何度泣きながら抱き付いてそれを慰めれば俺は良いんだ? これが、これが最後だよな?)」



 そんな事を思いながら育真はゆっくりと落ち着かせるようにヘレの頭を撫で続けるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ