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崩壊世界の最後の希望  作者: 榊原
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021【危機】

 ヘレが逃げ始めて既に三時間が経とうとした頃だった、後ろを追いかけるオークの数が十五匹ほどに増えていた。既に涙は枯れ、今はただ荒い息を少しでも長く持たせるために必死に逃げる事だけを考え視界を確保しながら木々の隙間を足を取られる事なく抜けていく。



「はぁっ! はぁっ! はぁっ! っぁ!」



 少しでも距離を開けようと必死に走るが、オークとヘレの足の速さは同じ程度、近づかれる事もないが引き離す事も出来はしないという状態が続いている。足の速さは同じ程度だが体力の面では全然違う、相手はタフな事で有名なオーク、ヘレの今の体力のステータスは最近になったようやくBに上がったばかりだが、相手のオークはA以上は間違いなくある存在である。

 逃げて逃げてそれで徐々に不利になっているのはヘレにもいやがおうにも解ってしまっていた。それでもと、ヘレは必死に足を動かし逃げ続ける。助けてくれる、そう信じて。



「(くるしっ、あたまいたっ、のどかわいたっ、くるしっ、あしいたっ、あたまいたっ、いくま、さんっ)」



 今のヘレは限界ギリギリ、というよりもすでに限界を超えてただ死にたくないから、一人では死にたくないからという気持ちのみで走り続けている。いつの間にか手に持っていた筈のナイフは落としておりその手には何も持っていない。服のあちこち、肌の彼方此方、顔にすら木々の声だ等で切れた傷痕が多数出来ている。



「はぁっ! はぁっ! はぁあぁぁっ!?」



 荒い息で必死に走り、育真の姿を探し続けるヘレ。だがその意思とは裏腹にその足はとうとう限界を超えて酷使したつけが回ってきてしまった。ガクンと膝が折れ、地面をえぐるように転がりながらヘレは転ぶ。木々の根に引っかかり飛び跳ね、それでも止まらず地面の枯れ葉や雑草をえぐりながら転がり続ける。



「ぐぇっ! ぐっ、がっぁはっ!」



 全力、自転車が走るよりも少し早い程度の速度で走っての転倒、その勢いはかなりの物でありその勢いで転がったヘレは酷い有様となっていた。土の茶色、雑草の緑、傷ついた血の赤、それらが混ざり合いながら体を汚していく。



「ま、だ、ま、だ、にげ、あっ……」



 それでもと、ヘレは震える手と足をどうにかして立ち上がろうとするがその足は動かない。震え痙攣し膝を立てる事すら困難な状態になっている。腕だけはまだプルプルと震えながら体を支えられてはいるが、辛うじて支えられているという状態。

 そして――――。



「い、や、だっ、い、やぁ、いく、まさんっ」

『GUOOOOO!』



 数多の雄叫びを上げるオークがヘレに近づいて来る。その額には少なからず汗が浮かび、全身にも近づけば吐き気を及ぼす程の臭気を醸し出しながら濡れそぼっている。だが今のヘレにはその匂いを気にしている余裕などなく、ただただ迫りくる絶望に恐怖しながら枯れた筈の涙をポロポロとまた零していく。

 辛うじて動く腕だけで必死に這うようにそこを逃げようと動くが、オークはそれを見て嬉しそな叫び声をあげるとゆっくりと大きな音を立て、周囲の木々を棍棒で殴ったり地面を殴ったりしながら近づいて来る。

 恐怖を煽る、それに怯え、逃げまどい、無力な姿で蹂躙される存在を好む、それがオークだ。オーク達は必死にその音が聞こえる度に身体を震わせながら逃げ、オーク達を振り返り顔を青くしながら悲鳴を上げるヘレを見て心の底から嬉しそうに笑い声を上げていく。

 そしてとうとうその音はヘレのすぐ後ろに響き衝撃が、その余波で抉れた地面の破片がヘレへと降りかかる。



「ぁ……ぁ……あぁぁぁぁぁっ!」



 それに痛みを感じ、恐る恐る振り返れば、逆光で顔は見えないまでも楽し気に笑い声をあげるオークがヘレのすぐ真後ろ、一歩進めば踏み潰せる程の距離にいる事に気付いてしまう。そして絶望した叫び声を喉が裂けるかと思わんばかりに上げて行く。



「いくまさんっ! いくまさんっ! いくまさんいくまさんいくまさんっ! 助けて育真さんっっっ!?」



 いやだいやだと駄々をこねる子供の様に必死に泣きながら、腕で逃げようとするヘレ、オーク達は笑いながらそのヘレのすぐ頬の隣に棍棒を手加減して振り下ろす。地面がへこみ、衝撃で頬に掛かる風、髪を揺らす風と地面を打ち据える大きな音が直にその耳に響く。



「いやぁぁぁぁぁ!?」



 そして叫ぶ。オークは笑う。

 オーク達は笑いながら楽し気に下半身を膨らませている存在も少なくない。興奮している。それはヘレが逃げまどう姿が余りのもオーク達にとって好ましかったからだ。これ以上の楽しみは無いと言わんばかりの笑い声を上げながらその腕がヘレに伸ばされていく。



「やだっ! やだやだやだっ! やだよぉ!?」



 ヘレはなりふり構わず手を振り回し抵抗するが、そんなものはオーク達を喜ばせるだけであった。湯気を上げながらそのヘレの下半身からは臭気が漏れている、地面を濡らしながらもそれに気づく事も出来ずにヘレは唯々泣きながら腕を振り回す。



「育真さんっっっ!?」



 涙で濡れた瞳で最後の最後までその名を呼び続ける。そして、オーク達の手はヘレの身体を鷲掴みに掴もうと開かれその手の中にヘレは収まろうしていった。

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