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崩壊世界の最後の希望  作者: 榊原
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001【崩壊した世界】

 カリカリカリカリと黒板に文字が書かれていく音が教室の中へと響く。コンクリートで出来た小さな教室、学校と呼ばれる建物の中の一室にある狭い空間だ。

 教室の中には十ばかりの席とそこに座りつまらなそうに黒板を見つめ、肘をつき欠伸を漏らす学生達。それに背を向け教壇の上で黒板に文字を書き続ける教師の姿。教室の窓ガラスの向こうからは実に良い日差しがさんさんと照らされ実によく眠れそうな気持のよい天気であり、学生達の眠気をよりいっそう誘っているのが良く解るだろう。

 カリッ! 最後に小気味の良い音と共にチョークが僅かに欠けた音を響かせ、教壇の上の教師が振り返る。そして溜息を付きながらしっかり授業は受けて聞く様にと眠りこけている学生に注意を払いながら話を始めた。



「さて、お前等も既に何度も説明されて解っていると思うが最後の復習の為にもう一度話しをするぞ。世界が崩壊しわずかに残ったこの地ノアについての話しだ」



 パンパンと指に着いたチョークの粉を落しながら教師は話す。タイトスカートにブラジャーが透けて見えるような薄いブラウスをだらしなく着ている女教師。靴はそこらの運動靴を履き化粧等も殆どしている様子は見受けられないその肌には無数の傷痕が浮かんでいる。ネックレスや指輪等の装飾品も浸けておらず面倒くさそうに纏め上げられた黒い髪も彼方此方に枝毛が飛び跳ねている。化粧もしていないのにそこそこ見れる顔立ちで、その瞳をだらんと垂れ下げ見る者に面倒臭げな顔をしていると印象を受けるだろう。



「かつて、と言ってもまだ十五年程度だけどな、大地震が起こったのが始まりだ。その一度の大地震で世界の生活基盤は全て崩壊した。電気が使えず通信も叶わず混乱は酷い有様だったな」



 女教師はガシガシと頭を掻き揚げながらその時を思い出すように話しを進めていく。



「当時、私も私以外の奴等もほっとんど知らなかっただろうがその時同時に海や空への移動も不可になっていたようだ。後になってから情報を聞いただけだけどな? 当時その時海の上にいた奴等や空の上にいた奴等は全員が嵐と雷、そして津波によって死に絶えたって話しだ。そしてそんな大地震が終わった時だったな、今思い出しても夢じゃなかったのかと思いたい出来事が起こった、神様だかってやつの登場だ」



 全くやってられない、そんな調子の声音で女教師は溜息を付く。黒板に指さしながらその神様の言った言葉の説明に移っていった。



「此処にも書いてるが、その神様だがな、全員の頭の中に突然姿が映ったんだよ、目を開けても目を閉じてもその神様しか見えないって有様だ、恐ろしかったよ。んでその神様は言った訳だな、お前等に生きる資格はないと思っていると。だが最後に一度だけチャンスをやろうと。そして言い渡されたのがこの島ノア以外は滅び消滅するから此処に生き残りたい奴だけ来ると良い、そしてこの地で最後のチャンスに挑み自らの手で自らの存在の価値を指し示せってな」



 女教師の指が黒板をなぞっていく。その指が指示した場所には迷宮という文字が浮かんでいた。



「その価値を示す手段が迷宮の攻略って訳だ、お前等の中にも潜ってる奴等はいるだろう? っーよりも全員潜ってる筈だよな? 潜ってみて才能があるない、出来る出来ないを判断してその結果次第じゃ能無しの烙印を押され私みたいな役割を与えられる筈だからな。まぁ能無しって言っても悪いもんじゃねぇさ、しっかりと働いて存在の価値を認めて貰えればだがな? ああ、この辺りも少しそれるが話しといた方が良いな、此処で能無しの上に価値無しと判断されたら餌役、奴隷とかそんな類の扱いになるから注意だ。まぁだがそんな事になる奴は余程の奴だ、怪我をしている訳でもない、身体に問題がある訳でもない、それでも働かない動かない、そんな奴等がそういう扱いになるだけだな。仕事自体は腐る程あるんだ、頑張って何かしらの仕事をやってさえいればそんな事にはなりゃしねぇからお前等ももし迷宮に潜らないとなっても仕事だけはしっかりと頑張れよと、そうだそうだ言語についても一応言っとくか、現に体験して解っていると思うが英語も日本語もその他の言語も全て意味が翻訳されて相手に伝わるようになっているだろう? これは一応文字の方に当てはまる、私は今これを日本語と英語の両方を分けて書いているが、英語が解らない奴等にゃ全部日本語で書いているように見えるだろう? 逆に日本語が解りづらかったりする奴は英語で見えている筈だ、こんな形で言葉も文字も神様の不思議な力ってやつでそこに込めた意思が間違いなく伝わるようになっている、可笑しな話だがなそういうもんだと思っとけ」



 女教師は話しを戻すぞと言いながら黒板の新しい場所を指示していく。



「迷宮だがこれはまた頭がおかしいんだけどな、レベル何て言うゲームみたいなもんがありやがる。お前等が首にかけているカード、神様に貰ったカードがあるな? それに書いてるから解るだろうけど一応説明しとくぞ。そのカードにはレベルと自分の身体能力が書かれている、と言っても数値で詳しく書かれている訳じゃないのは解ってるだろう? EからSまでの文字で大雑把に湧けられているだけだ。その文字でどのくらいの能力なのかってのを大雑把にまとめた数値を教えるぞ、と言ってもこれは例題みたいなもんだから詳しい数値として見るなよ?」



 そう言いながら指示した黒板にその文字によるランクと数字が書かれている。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 E:赤ん坊、子供等の幼い者達や怪我や何らかの障害によって能力が下がった者達。数値で表すとしたら1~5。

 D:一般的な中学生以上から成人した者達。数値で表すとしたら6~15。

 C:少し訓練したり身体を鍛えたりした者達。数値で表すとしたら16~30。

 B:軍人レベルでしっかりと鍛え造り上げた者達。此処が迷宮に潜らずに至れる最終地点。数値で表すとしたら31~50。

 A:軍人レベルまでしっかりと身体を造り上げた上で迷宮で経験を積み、力を付けた者達。数値で表すとしたら51~80。

 S:此処まで行ったらもう化け物レベル、御伽噺の勇者や英雄と言った者達。数値で表すとしたら81~120。

 例外のランク外:これは人の身では到達不可能であり、極稀にこの数値のモンスターがいる程度。数値で表すとしたら121以上。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「って感じだ、お前等はまだ若いからな、迷宮に潜りながら頑張ればステータスはガンガン上がる筈だ。ああ、レベルについて言ってなかったな。レベルはゲームみたいにある癖に中身は少し可笑しくなっている。普通ゲームであれば数値が一あがったり、ボーナスポイントみたいなもんが貰えて好きな能力に分けられる様になってるもんだがな、此処でいうレベルは割合上昇になってやがる。基礎能力のそのカードに掛かれているステータスに合わせた割合上昇だ。だから下手なレベル上げなら意味がない、しっかりと自身を鍛えた上でレベルを上げないとな」



 女教師はステータスの下に小さくレベルについてと新しく書いていく。そこには例題としてステータスが百あるとしてレベルがゼロから一に上がった場合はステータスが百一になる、つまり一パーセントの能力値が上昇すると書いてあった。追記と書き記され、上昇は小数点以下は切り捨てとなって能力値が低すぎると意味がない、レベルもある程度上げないと意味がないという事が書かれている。



「お前等の中にも無理してそんな事をしなくてもやりたい奴だけやれば良いって考えの奴等もいるか? まぁ間違っちゃいないがな、癖の悪い事にな迷宮に潜らないと私達は生きていけない、迷宮に潜る奴等に潜らない奴等は生命線を全て握られちまってる訳だ。この地では農業等が出来る土地は非常に少ない、動物等を育てる場所だって殆どない、私達が今いるここを作る為の石材、鋼材等は地上のどこにも存在しない。ああ、解ってるだろう? そうだ迷宮の中にそれらが全部ある訳だ、足りない分の食料、水、鉱石類、全てが迷宮から探し手に入れて来なければいけない訳だな」



 女教師は続ける、だから迷宮に潜る奴が少なくなれば下の奴等から死んでいくと、金がない奴から死んでいくと。



「だからまぁやりたくなくても出来る奴等は迷宮に潜らねぇといけない訳だ。今この地にいるのは大凡十万人程度だった筈だが、地上の農場等で得られる食料は精々千人分にも満たない程度だからな、迷宮に潜って最低でも必要量の食料が手に入らなければ、まぁ解るだろう。だからこの地にいる者達の八割は迷宮に潜っている。そのお蔭で今は食料は過剰気味で全員安価で飯が食えている訳だ。これからもそうあって貰いたいもんだな」



 続けて女教師は黒板の最後に掛かれていた場所を指し示す。



「そしてそんな迷宮の中だけどな、最初は現代火器が使えれば問題なく行けるだろう、なんてことも考えられていた。お前等が何で銃とか使っている奴がいないのか不思議に思った奴もいるだろうが、それはそれが通じないからだ。いや正確には違うな、外から持ってきた火器の類が通じない、火器に限らず武器の類も無理だ。この地で手に入れた木材、鉄等を用いた武器防具なら効果があるがそれ以外は効果がない。銃も同じだなこの地で手に入れた鉄等で作れば効果が出るのだろうが、そんな銃を作る為の設備がまず此処にはない、仮に頑張って鍛冶師の奴等が銃を作り上げられたとしても火薬が作れねぇ、だから銃は今の所誰も使ってないって訳だ」


女教師は少しだけ胸を張り、寂しげな表情で学生達を見る。そっと自身の腕をさすりながら。



「だからな初めの頃は本当に大変だった、迷宮のモンスター共を素手でどうにかしなきゃいけなかった訳だからな。迷宮の中にある木の皮や蔦とかがあるだろう? あれを手に巻いてな即製のグローブみたいに扱ったりしてやり合ってたんだよ。そりゃまぁそんなやり方でやってりゃあっという間に人は死ぬ、それでも頑張って進んでいってなその内鉄や石とか、モンスターの素材とかが手に入って少しずつ楽になっていった訳だ。お前等の装備も最低限剣とか槍は持ってるだろう? 防具もちゃんとした革防具、鉄防具ってのも売られてるしな、今は本当に良くなった、ああ、良くなってくれた本当に良かったよ」



 しみじみと女教師は呟き、そしてハッとしたような表情で軽く笑いながらすまねぇすまねぇと謝る。そしてそこでチャイムが鳴り響いた。チャイムと言っても昔懐かしい鐘の音ではなくリンリンリンリンと鈴が泣くような電話の呼び出し音の様な音だ。



「うし、タイミング的にも丁度良い塩梅だな。今日の授業はこれで終わりだ、そしてこれで最低限の今のこの地、ノアと迷宮についての説明も終わりって訳だ。これからはお前等が好きにすると良い。数学や昔の今は既に関係ない歴史等を、迷宮についての行動を、他にも私達で解る事で学びたい事があるならまた来ると良いさ。まぁこれからは別途必要に応じて金がかかるから気軽にとは言えないがな、ただ最後に言っておくぞ、金を惜しむと命が軽くなる、命を惜しむなら金を惜しむな。金は頑張れば手に入れられるが命は頑張っても新しい物が手に入る事はねぇからな、それだけは覚えとけ」



 女教師は最後にそう告げて、笑いながら学生達を見送った。せめて長く生きて自分の幸せだと思える生き方を見つけてくれよと願いながら。その全員の背中が見えなくなるまで見送り続けた。

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