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崩壊世界の最後の希望  作者: 榊原
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017【食い違い】

 ヘレが目を覚ましたのはあれから数時間後、空が赤く染まり黒くなり始めるまでそうもう時間が掛からないような時間帯であった。



「んっ」



 ゆっくりと毛布を被せられていたヘレは暖かい温もりを感じながら身を起こし、寝ぼけた眼でキョロキョロと周りを見渡す。そしてすぐそばで周囲を警戒している育真を見つけ、ふにゃと何かとろけた様な寝言の様な何かを呟きながら抱き付いて頬を擦りつけた。

 突然の出来事に育真は迷宮の中にいるという状態で意識を手放しそうになる。今まで迷宮の中にきて完全に油断をしたり警戒を解いたりしたことがなかったというのに、その瞬間、少しの間は何も考える事が出来ない程に混乱し固まった儘だった。

 幸いだったのはその時に襲ってくるゴブリンがおらず、それを見ていた者もいない事くらいだろう。



「んに~」

「あ、ありすてぃあ?」



 すりすりとすり寄りながら微睡むヘレに育真はようやく意識が戻ってきて硬い口調で呼びかけていく。ヘレはそれに小首をかしげながらなぁに? と舌っ足らずの口調で返事を返す。それにまた口を閉ざす育真であった。

 育真の退館時間で一時間以上は続いたようなどうしたら良いのか解らない時間、実際は数分程度であり、徐々にヘレは意識をしっかりと取り戻していく。



「……ぇ」



 そして完全に意識を取り戻した時、自分が今何をしているのかという事実に思い当たる。寝ぼけ微睡かけていた状態だったとはいえ記憶は残っているらしく、声を詰まらせ、ヘレまで身体が固まった様な状態になりながら顔を真っ赤に染め上げていく。



「あ、アリスティ、起きたか?」

「っっっっっ!?」



 どもりながらも何とかそう声をかける事に成功した育真だが、その声をかけられたヘレは顔を真っ赤にしながら飛びずさるように距離を開けて目に涙を貯めてあわあわと両手を振り回し、ツインテールを上下させ叫び始める。



「ご、ごめんなさい! 違うんです! 甘えたかったとかじゃなくて、寂しかったとかじゃなくてえと、違うんです! ごめんなさい!」

「お、おう。と、取りあえず落ち着けって、怒ってないし、何とも思ってないから、な?」

「何ともって、それはそれで……っ!? じゃないです、えと、本当にごめんなさい! 寝ぼけててあの、おく……い、育真さんを見たら少し安心出来るって思っちゃって、気づいたらあんなことを……ごめんなさい」

「いや、だからうん、怒ってないから謝らなくて良いって。何より安心できるって思って貰えたって事は少しは信頼して貰えたって事だろうからな、悪い事じゃないだろう」



 そんなやり取りをしながら二人慌て、時間だけが過ぎて行った。落ち着いたのは完全に日が落ちて周囲の光景が見づらくなってからだった。とりあえずと今日は帰るのを止めてここでキャンプをするという事を決め焚火を焚き始めたあたりで二人とも冷静になれていた。



「あの、改めてすいませんでした。色々意味不明な事を喚き散らした後に寝てしまった上、起きたら起きたであんな事を……、でも、あの、ありがとうございます」

「おう、まぁ何度も言ったが気にしてないから気にするな」

「はい、ありがとうございます」



 ヘレはそう言いながら育真の近くで嬉しそうに微笑みを浮かべて行く。昨日までは焚火を挟んで向かい合う様に座っていた距離が今は隣り合って座り話しをしている状態だった。



「取りあえずアリスティア、明日は一度家に戻ってこれから――――」

「あ、あの! 私の事はヘレと、ヘレって呼んでください。これから一緒にいる事になるんですし家名で呼ばれると少し寂しいというか、距離が遠い気がして悲しいというか、えと、駄目ですか?」

「あた……ん? お、おう。取りあえず呼び方な、解った、これからはヘレって呼ばせて貰うぞ」

「はい! 私はい、育真さんって呼ばせて貰いますね!」



 と嬉しそうに笑う。今まで見た事のないような心の底からの笑みのように見え育真はそんな風にも笑えるんだなという感想を抱いていた。



「取りあえず話しを少し戻して、これからあり、じゃなくてヘレの住む家の事も考えないといけないからな、どんな部屋が良いとかってあるか?」



 育真はヘレが新しく借りる部屋についてのつもりでそう尋ねて行く。自分の家から近い場所の部屋だとどこがあったかなどを思い出しながら。



「あ、はい、ありがとうございます。でも私は特に何かって思う物がないんです。現状で凄く満足できていますから。あ、でもそうですね、これから服とかも少しは増えると思いますし衣装棚は欲しいかもしれません」



 そしてヘレは育真の家でこれからも暮らしていけると思って答えていく。今住んでいる客室、ヘレ用に少し住みやすくベッドを用意し、扉を付けて貰ったあの部屋の様子を考えながら衣装棚があれば助かるという事を伝えて行った。



「そうか、そうだな。確かに今回倒したゴブリンの剥ぎ取り品だけでもそこそこ服や必要な物が買える程度にはなるだろうし色々日用品も増えるだろう。ヘレは女の……女性な訳だし色々物入りになる物も俺には解らないが多いんだろうからな。少し広めの部屋を考えた方が良いか」

「え? いえ、私は今のままで本当に大丈夫ですよ」

「ん?」

「え?」



 そんなやり取りをしつつ、ようやく互いに何か齟齬があるという事に思い当たっていく。育真は今までの会話を思い出しながらあれ? と考え、ヘレもまたあれ? と考えた後に追いだされる、約束したのに? 等と顔を青くしていく。



「お、おう! そうか! ま、まぁ必要になったら広くするかどうかは考えるとして今はあの儘で良いって事だな!」



 そしてその様子を見てこれはと育真は食い違いに気付き、顔を青くしながら俯き震えはじめたヘレを見て大声で被せるようにそんな事を言っていく。



「(え? 一緒にいるって、今の儘俺の家に住み着いてずっと一緒って事? まじで? ……あ、これもしかしてPTも固定でずっと組む事を考えられてるんじゃないだろうか……あぁ、考えられてるなぁこれは、どうしたもんか)」



 その返答にバッとヘレは涙が零れている顔を上げ育真を見上げる。そしてコクコクと必死に頷いていく姿を見るのであった。その様子からこれはPTを別にしてとか紹介してとか一人でとかそういう事を言いだしたらいけない、そう確信していく。

 凄い病んでいる、自分に依存しているという事を認識してしまい、今更ながら育真は顔を引きつらせながら笑みを浮かべどうした物かと考え始めていた。手遅れである。



「一緒に、いてくれるんですよね? 約束、してくれましたよね?」

「お、おう! 嘘はつかないぞ」

「はい、“信じています”」



 その声に籠る強い思いにこれはどうしようもないのだと育真は空を見上げる。とにかく今は変な事をするとどうなるか解った物じゃないと思いながらそれを受け入れ少しずつ考えて行こう、育真はそう考えながらおうと何時ものように返事を返していった。手遅れである。

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