014【訓練】
「はい、取りあえず起きて、倒れてないで歩く。走って倒れてだと余り良くないからまず歩いてある程度整ってから倒れるように」
「身体が硬い、少し強引にでも解していくから我慢しろよ」
「反応が鈍すぎるぞ、最初の内は見てから反応できるくらいで良いがそのうちに見ないで反応できる程度までしっかり鍛え込めよ」
ヘレが育真に連れられ迷宮から出てから一週間、今ヘレは育真の家の居間で椅子に座る事も出来ずに作って貰ったソファーに横になって魘されていた。もうできません、ごめんなさい、勘弁してください、許してください、そんな寝言が飛び出しながら汗が吹き出し寝てません! という最後の寝言を叫びながら飛び起きる。
「あっ、え? あぁ……また私倒れたんですか」
「おう、おはよう、今日三度目の気絶だな。取りあえずお茶飲んで身体に物を入れとけ、終わって十分位したらまた動くからな」
「あぁぁぁぁ」
そしてその育真の言葉を聞いて倒れるようにまたソファーに寝転んだ。その表情からは絶望染みた物が伺わせている。
「(気軽に手を取った私はどうかしてたんだ。あの時断ってたら……私死んでたよね。……無理はさせるけど怪我もしないしちゃんと動けるようになってるし、はぁ、死ぬかと思う程大変だけどやっぱり間違えてはいなかったのかな? でも、それでも、もう少しどうにかならないのかなぁ)」
早くしろよと促す育真の声に、恨めし気な視線を投げながら起き上がり、のそのそと移籍へ着くとヘレは食事を食べ始める。文句を言いたいが言えない状態、何せ衣食住全てが今は育真に面倒を見て貰っている状態だからだ。
それに用意される食事は非常に美味しい、ヘレは悔しい事に育真が用意した食事を残したことがない程、食べ過ぎて動きが鈍くなったことさえある程に美味しいと感じている。自分はそんなの作れないのにと心の内で嘆きながら。
「あの、私は何時までこのごう……訓練を続けないといけないんですか?」
「拷問ってお前なぁ、言い直しても聞こえてるから。取りあえず少し急ぎ目で鍛えてるからな、後二週間はこの基礎訓練だよ。最後の一週間で迷宮に潜って戦い方と罠の見分け方、後は警戒の仕方とかを教えて行くつもりだ」
「後二週間……」
顔を青くしながら肩を落とし、それでも手を止める事なく食事を続けるヘレの姿そこにあった。暫しの間ヘレはその状態で絶望していたがふと解らないと言った様子で顔を上げて育真へと尋ねて行く。
「最後の一週間というのはまぁ一ヶ月だけという事でしたのでそういう事なのでしょうが、何故最後の一週間戦闘訓練? だと思うんですけどそれを迷宮の中で行うんですか? 普通に今まで通りこちらで教えて貰っても変わらないと思うんですけど」
「ん? あれ、アリスティアは迷宮について説明とかされたりしてないのか?」
「私がこの島に来て数年後からでしたからね学校とかが出来たのは、その頃には私はもう学校に通えるような状態ではありませんでしたし、その手の知識を真面に教えて貰った事も無かったので」
「あぁ、そうか。ん、取りあえず迷宮で戦闘訓練をする理由からだな、それは迷宮内だと戦闘とかした時の技術の覚えが非常に良くなるからだ。身体能力等の基本的な所は余り変わらないが、それ以外の扱う為の技術とでも言えば良いのかね? 例えば剣を使ってゴブリンと戦って何度も倒していけば、数ヶ月かかる様な剣を最低限扱えるようになる腕前が数日から数週間で手に入ったりな。だからそういう技術的な問題を教える時は迷宮でって方が良いんだよ。安全にゆっくりと時間がある場合は別だが、俺がアリスティアに教えるって言った機関が一ヶ月だからな」
「そんな事があり得るんですか?」
「ありえるんだよなぁ。理由とかは詳しい所は解ってないけど、あれだ、神様だかの加護だって言われてるぞ。レベルとかステータスとかの確認できるようになっているのも同じだな」
「なるほど……良く解りません」
「俺もだ、ただそういうもんだとだけ思っとけば良いさ。身に着くのは早いが、それは早いだけで必死に努力して身に着けようと思わなけりゃ意味がない。だからこそ身に付けさえすればその後はその技術は自分の物だ、籠のお蔭だ何だってのを気にする必要もなくなる。たとえその加護がこれから間違えて働かなくなっても一度身に付けた物は失われないからな」
「はい、頑張ります」
そして二人は食事を終えて、一息ついた後にまた訓練を始めて行く。体力をつける為に走り込み、最低限の力を付ける為に筋トレをし、反応を高める為に時折不意打ち気味に色んなものを投げつけて、そして気絶する。それを唯々繰り返し続ける。
ヘレが気絶するまでの時間はほぼ変わらない、旨い具合に育真が様子を見て難易度の調整を上げて行っているからだ。だからこそヘレは自分が本当に成長出来ているのかの確認が余り出来てはいない。少しは成長しているということ自体は間違いないとはわかっても、それがどの程度なのかという所までは解っていないのだ。
だからこそこの程度では足りないのだ、足りないからこうして訓練されているのだ、そう思いながら育真の訓練を受け続けていた。実際、育真が施している訓練は拷問染みていると言っても間違いない物だった。確かに身体が壊れるまでの無理はさせていない、だが身体が壊れないギリギリまでの無理をさせ続けた。育真自身人を教えたりした経験はさほどなく、ましては一から初めからと言った経験など皆無だ。だからこそ気づかなかった、精神的に弱い者がこの訓練を受けていれば身体が壊れる前に心が壊れていたであろうという事実に。
幸いにもヘレはその辺りは強かったようで、多少夢見が悪く魘されるようになってしまったがそれでもその訓練を耐える事が出来た。出来てしまった。だからこそ二人とも気づかない、自分達が可笑しい事をやらかしたというその事実に。




