011【少女】
パチパチと火花を上げ、パキンと焚火の中の小枝が割れ、落ちた音で少女は目を覚ます。暫しの間ぼぅっと星の光一つない暗い空を見上げ続ける。
「(……暗い……私、どうして……っっっ!?)」
そして意識が戻り始めると同時に自身がどういう状況にあったのかという事を思い出しバッと飛び上がるように起き上がった。
「あぅ! いたい……」
同時にその身を纏っていた毛布が零れ落ちその裸体を晒しながら、背中に走る張る様な痛みに蹲りながら周囲を見回していく。ただその瞳には涙を貯め、視界はぼやけているようだ。
「目が覚めたか、っとと、すまんがそれを身に着け直してくれ」
そんな様子を見て、というよりも目が覚めた時から意識を取り戻したのに気づいていた育真は、その意識がはっきりとするまで待っていた。そして動き始めたのを見て声をかけたのだがそこで見えたのが毛布が落ち蹲るように周囲を見つめる少女の姿であった。
「(誰っ!? 何、私ゴブリンに……生きてる? 何で? えっ? 助けて、貰った? 私を助けてくれた?)」
だが少女はそんな育真の声が届かないのか声をかけた育真を一瞬睨みながら続いて困惑した様な表情へと変えていく。背中の痛みを気にしている場合ではないと気合を入れるが痛い物は痛いらしく無視しきれていない。それでもと、必死に周囲を見回し焚火の明かりと周囲に育真以外がいないのを見つめ自分はどうやら助けられたのだろうと予想を立てて行く。
「あ~混乱しているから気づいてないと思うが、お前さんいま素っ裸だから? 俺がそっち見る前に頼むからそのボロボロになっちまった服か毛布を纏ってくれよ」
背中を剥きながらも少女の様子が何となくわかるらしく育真はそれに困ったように声をかけて行く。
「ふぇ? えっ? あっ、きゃぁぁぁぁぁ!? な、なんでっ!?」
そしてようやく育真の声が届き、自分の状態に気づいた少女は叫びながら近くに転がっていた毛布を直ぐにたぐせ寄せ身にまとう、くるまっているだけなのだが。慌てながらも背中以外に違和感がないのを確認しつつ多分何もされていないという事を認識し少しずつ落ち着いていく。
育真はその悲鳴を受けて仕方ないわなぁ等とぼやきながら頭を掻きながら少女が少しでも落ち着くのをただ待ち続けた。でもこの様子ならあんな死にかけの目に合っても大丈夫そうだなと安心出来ていた。
「あの、助けて、くれたんですよね? あっ、もう大丈夫です、振り向いていただいても」
それから少ししてごそごそと服を着る音が響いた後少女の声が育真へと掛かった。落ち着いた少女の声はまだ幼さの残る様な少し高めの声音だ。そこに多大な警戒心をにじませているのを育真は感じながらその声に従い振り返る。
「おう、一応な。ゴブリン三体に襲われて死にかけてたからな、流石に助けられるのに助けずに見捨てる訳にもいかんだろ」
「えっ? あっ、あ、ありがとうございます」
育真の何でもない様にいう言葉に少女は少しだけ驚いた表情を浮かべ、すぐにお礼を言いだし始める。驚いた表情を浮かべた時に少しだけ警戒が緩んだが、すぐにまた警戒心を露わに育真を見続ける。
「(見捨てる訳にもいかないって、今でもまだそんな人がいるの? 何か目的もである……訳もないよね、私にはこの身以外何ももうないんだから……えっ? もしかして私の身が目的なの?)」
そんな事を考え始めている。
「取りあえずだ、こっちを警戒するのも構わんが腹が減ってるだろう、軽い物だが干し肉のスープだ、飲んどけ。血を流し過ぎたのと急速に回復した事でかなり体力が消耗してる筈だからな」
育真はその様子を気にした様子も見せずに焚火の上で作っていたスープの中に干し肉を切り分け沈めながら、それを少女へと渡そうとする。だが育真が差し出した手が伸びた分少女は距離を開けてしまい、育真は~と呟きながら少女の近くに皿を置いて距離を開ける。
「あっ、あの、すいません」
「気にすんな、寧ろそれ位警戒してた方が正しいだろうさ」
自分がやったことが助けて貰った相手に対して失礼だと気づいた少女はそう謝り、育真は苦笑しながら首を振る。正しい事だと。
「迷宮の中何だ慣れないうちは警戒するに越したことはないさ、ましてや今の状況を見たら見知らぬ男と二人きりだ、警戒しない方が可笑しいって解ってるよ、だがまぁ取りあえずほれ、この通りスープの中には何も入ってないからそれは飲むと良い」
育真は自分の分のスープをよそいそれを飲んで何も変な物は入っていないという事を示しながら、少女へ置いた皿を再度進めていく。少女はそれを見て、おずおずとそれに手を伸ばす。そしてくぅ~と小さな腹の音がなり顔を赤く染め上げる。
育真はそれを聞かなかったことにして自分のスープをそ知らぬふりをして飲み続け、少女は少しだけ育真を見た後に気付かれなかったと安心したような表情になってそっとスープで喉を潤していった。
それからごくごくと、少し覚めて飲みやすくなっていたスープを勢いよく飲み干し、中の干し肉や野菜も食べて行く。直ぐに食べ終えるとあっと小さく残念そうな声を上げた。
「ほれ、鍋の中にまだ入ってるから全部喰っちまいな、お前さんが大食いとか食い意地が張ってるとかじゃなくてな、知ってるか知らんが傷を負って急に回復させたりした場合それを補う為なのか大量に食事が必要になったりするんだよ。それを見越して作ってるから遠慮せずに満足するまで食ってくれ」
「えっ、でも、助けて貰って食事も湧けてもらってそんな事まで」
「折角助けたのにそれが無意味になったら意味がないだろうが、構わんから食えっての。何より俺だけじゃもう一杯くらい飲んだらそれで腹が膨れるんだ、残ったもんは捨てなきゃならねぇ、逆に食べ物を無駄にしない様にと助けると思って食えば良いさ」
育真が言う通り鍋の中にはまだ五人分近い量のスープが入っており、その中へ育真は再度干し肉を切り分けながら入れていく。そしてそんな事を言いながら少女へと食え食えと促していく。
「ありがとう、ございます」
「あいよ」
そしてお礼の言葉を投げかけ少女はおずおずとそのスープをお代わりし、育真は軽くそれに返事を返す。それからしばらくの間少女は食べる事に集中し、そのスープが全部なくなる勢いで必死に食べて行く。
育真は改めて少女の外見を眺めながらどう見ても一人で潜る様な存在ではないよなぁという考えを深めていく。これが育真や心、それ以外にも連田等の様にあっちから帰ってきた存在であるなら話は別だ、もしくは長年迷宮へと潜り実力があるのであっても話しは別だろう。だがどう考えても少女はそんな様子を見受けられない。
少女が身に着けているのはレザーアーマ―でもないただの衣服。それもそんなに厚さもない自分で作ったのか誰かに作って貰ったのか、結構雑な作りの長袖の服、そして下はそこそこ長めの膝下までのスカート……いや、これをスカートと言っても良いのかとそれを見て育真は考える。何せそれは大きめの布を適当に斬って長さを調整した後、強引に縫い合わせて腰元でずり落ちない様に紐でしばりつけているだけなのだから。
武器はそこまで大きさの無いナイフ、包丁より少し長い程度でありゴブリンを相手にするとはいえそれ一つではあまりにも心許ないと感じさせるだろう。それも寝ている時に確認したがナイフには錆が浮いており、刃先も掛けて突き刺すのにも問題が発生しそうな状態になっていた。
明らかに迷宮へと潜る恰好ではない、マジックリングも持っている様子を見受けられない事からそれ以外に何かを持っているという事もないだろう。不本意ながら衣服を脱がし、その下にパンツ以外何も身に着けてもいなければ何も持っていない事を育真は確認をしてしまっている。
そんな少女がおいしそうに育真が作ったスープを必死に呑み込んでいく。色素が抜けて白くなってしまったかのような白いツインテールの髪をひらひらと閃かせながらその表情は嬉しそうに見える。顔立ちはまだ本当に幼さを残しており小顔だろう、その瞳は非常にくりくりとした大きさで青い、肌は焚火の明かりに照らされその白さを今は少しだけオレンジ色に染め上げていた。
育真がそんな事を思うのはその顔立ちの幼さと身に着けた装備類、そして少女の小ささが原因だ、何せ身長が恐らくではあるが百四十前後といった程度である。ただその胸だけが少しだけ年齢を疑わせる要素ではあるが、成長が早い子供は何処にでもいる者だろう。その大きさは育真は実際に故意ではないとはいえ触れて確認している、手のひらから零れ落ちる程度には大きいのを知っていた。そんな少女が食事を終えて落ち着くのを暫く待つのであった。




