009【カームプレイス】
特に問題らしい問題も起きる事無く三日が過ぎた。心はどことなく物足りないという様子を伺わせ、育真は問題なく終わりそうで良いじゃないかという様子を見せている。
「後は入り口まで戻って終わりだろ? まぁ最後までしっかりとやるか」
「そ~だね~。もうちょっと時間をかけても良かったんだけどなぁ」
「無駄な時間をかけた所で意味がないだろうが、ほれ、さっさと行くぞ」
「もぅ、解ったよ~」
二人はそんなやり取りをしながら入口へと向かって歩き出す。育真のアイテムの地図にもしっかりと自身が見聞きした情報が記載され地図が出来上がっている。そのことを改めて心へと告げて礼をいうときょとんとした顔をして笑う。
「あはは、一階の地図でお礼を言われるとは思わなったなぁ。いっくんも見て回って解ったでしょ? 特に問題らしい問題が何もないんだよね此処。階層が深くなればなるほど違っては来るんだろうけど、正直な話しいっくんが一人で回っても大して違いがなかったと思うな。だからお礼は良いよーどうしてもって言うなら御飯位奢ってくれると嬉しいかな?」
「おう、そうだな、なら迷宮から出たら飯くらいは奢るよ」
「わぁい! ラッキーラッキー! ありがとー!」
ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねながら心が笑い、それを見て育真は良くここまで喜べるなとそれを見つめる。二人はそして迷宮の地図の確認を終え迷宮を後にした。
迷宮から出れば時刻は夕刻になる少し前、空に赤みが僅かに表れ始めている時間帯だ。二人は身体を軽く解しながらお疲れさんと言葉を交え更衣室へと入っていく。装備を軽く点検し、問題がありそうな場所が出来ていないかを確認してマジックリングの中へとしまい込み、パパッと着替えを済ませて出て来た。
「女の着替えってのは時間が掛かるって聞いてたけど、心はその辺時間が掛からないんだな」
「まっこの格好だしね? 私だっておしゃれして出かけてる時とか化粧しないといけない時はやっぱり時間はかかるよ。今は必要ないから早いだけ」
「そんなもんか」
「そんなもんなんだよ」
それより御飯御飯! と心に促され管理局の中を歩いていく。露店の中にはモンスターの肉なのか、迷宮から得られた動物の肉なのか解らない何かの焼き鳥や、ケバブの様な食べ物、たこ焼きとか焼きそばまで売っている。
「どうする? 適当な露店で買って食うか? それともどっかの店で落ち着いて食べに行くか?」
「ん~」
育真のそんな言葉に周囲をぐるっと見て回り、心は首を振る。外に行ってお店で食べようと。それに素直に頷きながら育真は管理翼を後にする。小さなカウンターの受付に再度挨拶し、確認されながら外へ出れば、門番にも身分証等の提示を求められる。隠し立てする事もないので素直にそれを見せれば、お疲れ様とねぎらいの言葉をかけられながら見送られた。
管理局の周囲はがやがやと賑わいを見せている、中から出て来た者からこれから入っていく者まで様々だ。気合を入れすぎて武器や防具を身に着けたまま歩いて注意されている松年少女の姿も見受けられ、周囲に笑われている。
もちろん喧嘩染みた衝突も多少見受けられるが日常茶飯事の出来事らしく門番や警備をしている人も軽い注意をするだけで終わらせていっていた。注意された奴等は舌打ちをしながら離れて行くものから権力に弱いらしくペコペコと頭を下げて逃げていくものまでいる。
「どっかきたい場所はあるのか?」
「特にないかなぁ、というよりも私はいっくんのお勧めの場所を教えてほしいなっ!」
「お勧めったってなぁ、俺ほっとんど家から出てないから知らないって思わねぇのかよ」
「ん? だっていっくん友達に料理人の人がいたよね? 私その人の店とか知らないしその人と関わりないけどいっくんなら知ってるかなって、結構仲が良さそうだったしこっちでも繋がりを持ってるんじゃないかなぁって思ったんだけど違った?」
「あぁ、心は知ってたのか、まぁ確かにこっちに来てからも関係は続けてるよ、それなりに仲も良い方じゃないかとは思うな。んじゃそこいくか」
「やった! あの人の店って向こうにいた時も人気で私達も滅多に入れなかったからね、でもその分凄い美味しかったのを覚えてるから少しだけ期待してたんだ」
「なら最初からそう言えばいいのによ」
「いや、ほらさ、何かこう、ね?」
「はいはい、取りあえず行くぞ」
「もぅ、まっ良いや。いこいこ!」
てへっと誤魔化すような笑みを浮かべた心をジト目で育真が見つめ、心はついーと視線を外す。小さく肩をすくめ育真は心に呼びかけ歩き始めた。それに続いて嬉しそうな笑みを浮かべて心も続く。
育真が進んでいく先は中心から少し離れ、育真の家の方向へと向かっていった。
「あれ? こっちの方だったんだ、てっきり商店街とかの方の立地の良い場所に建ててると思ってたよ」
どうりで探しても見つからない訳だぁとうんうん心は頷いている。
「ああ、あいつもあっちであの賑わい用でこっちでもあんな状態じゃ作りたい物も作れないって言ってたからな、余り人が来なさそうな場所に店を立ててるぞ」
「あっ、そうなんだ」
向こうでも結構愚痴が多かったからな、こっちに来て店を構えてからは愚痴が結構減ってるから楽しんでるんだろうな等と育真は話す。心はあっちで凄い人気だったしねぇとそりゃ疲れたりもするよね等と相槌を打ちながら進み、中心から完全に外れ建物が減り始めたあたりの中央の道から二本程外れた路地裏にその店は立っていた。
一階建ての普通の家、そう見える外見に小さく入り口の扉に【カームプレイス】という看板だけが掛かり一見して店には全く見えやしなかった。そこに育真はノックをする事なく扉を開け中へと入る。
カランカランと小気味の良いベルの音が響き扉は開かれ中へと入れば、小さな二人掛け用のテーブルが四つ、カウンター席が五つだけの小さな店だった。内装は整った木目の木製で、椅子もテーブルも全て木製で作られている。カウンター奥の棚も全部綺麗な木製でこじゃれた印象を受けるだろう。
カウンターの後ろにそこそこ大きめの作業台があり、そこに様々な飲み物を入れるポットや道具が並んでいるのも見えるだろう。
「いらっしゃい、って育真? 何か必要あん素材でもあった? 俺は今余り迷宮潜ってないから多少の肉か野菜位しか真面なのは今は無いぞ?」
「よぉ、いや、今日は客としてきたんだよ、見た事あったっけ? こいつは心、礼の攻略者の一人だよ」
「あっ、初めましてー! 森中心です、宜しくお願いします!」
「おっと、そうだったか、うん、まぁ知ってはいるよね? 取りあえず初めまして、そして改めてありがとう。君達のお蔭で俺もこうして元の世界へ帰ってくる事が出来たんだからね。俺は静森 連田だ、宜しくね」
連田のその言葉にそんなっ! 等と手と首を振る。
「あれは私達だけの力じゃないですから、皆の協力が合って、支えて貰えたから出来た事で、それなら私こそあっちでは美味しい料理を、連田さんが作ってくれた保存食とかのお蔭で士気が保てたりもしたんですからお礼を言わないといけないですよっ!」
「ははは、ならお互い様って事で改めてよろしくね。んで、今日は何を注文してくれるのかな?」
「何をって、連田は自分が作りたい物を作ってそれを振る舞いたくてこんな辺鄙な場所に、解らない様に店を出してるんだろ?」
「まぁ今日位はね、心ちゃんは初めてだし注文も受けようかなって思ったんだよ、これからは基本的に俺のおすすめしか此処に来ても食べられないからそう思っておいてね?」
「あ、はい、解りました。でもそれなら私は今日もそのおすすめが良いかなって」
「俺も其れで頼むよ」
「なんだい、折角気を利かせたのに。でもまぁ俺としてもその方がおいしい料理を振る舞えるから嬉しいか、ちょっと待っててね」
そう言って連田は店の奥へと厨房へと入っていく。連田の容姿は育真より少し背の高い、茶髪の青年だ。顔立ちは柔和で笑うとえくぼができ人懐っこい印象を与える事だろう。服装はパティシエの人が着るような白い作業着に緑色のカームプレイスと掛かれたエプロンを付けている。
「気さくな人だねぇ」
「まぁな、怒らせたりしたら怖いが基本的に良い奴だよ」
カウンターの席に座りながらそう話し合う。店の中には二人の姿しかなく、カタカタカタカタと包丁がお湯が沸くような音だけが店内に響いていく。下手なBGM等より余程心地よい音が響き、徐々に良い匂いが漂ってくる事に心はごくりと喉を鳴らす。
「お待たせ、今日はサラダとスープ、そしてパスタだよ。飲み物はこれを飲んでね」
と言って出してきた飲み物は緑色の青汁の様な飲み物、料理は赤と緑の綺麗な彩のサラダに透明の香ばしい匂いのするドレッシングが掛かったサラダ、薄く食べやすい大きさに切られた肉とブイヨンが入ったスープでパスタには白タレが掛かっている。
いただきますと待ちきれないとばかりに食べ始める心と、それを見て嬉しそうに笑う連田、苦笑しながら飲み物から手を付ける育真だった。
「やっぱりおいしぃ! 此処に来れて良かった! いっくんありがと! 連田さんもありがと!」
そのまま一気に勢いよく食べつくし、ほっと一息つきながら心は花が咲いたような笑顔で二人に礼を言う。
「そこまでおいしそうに食べて貰えたんならこっちも嬉しいよ。店の場所を知ってるならこれからも顔を出してくれると嬉しいかな? でもあまり宣伝とか人をつれてくるのは勘弁してね?」
「は~い!」
「ごちそんさん、相変わらずうまかったよ。んでお代な」
そんなやり取りをする二人に、ゆっくりと食事を終えた育真は支払いを済ませて行く。毎度様とそれを受け取りながらお釣りを返した頃にはすっかり日が暮れ始めていた。
赤から黒へと変わり始める時間帯、それを見ながら育真はそろそろ帰るかと心を促す。
「そだね、ん、今日はあって言うよりも今回はかな? 色々ありがと! また一緒にいこうね!」
「まぁ機会があったらな、そっちもこれから色々忙しくなるんだろう? 頑張れよ」
連田に軽く別れを告げ店を後にし、育真と心は路地裏から表通りに出るとそんなやり取りをして別れて行った。ぶんぶんと手を振って見送る心に、軽く手を振り返しながら二人は自分の家へと帰ったのだった。




