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 エディラは自分がかなり上手く周囲に溶け込んでいると信じて疑わなかったが、実際の所その容貌は目立つ以外の何物でもなかった。しかし、ここは城下とあって皆慣れたものでいつもの様に気付かない振りをしている。その中にあって、一人の男はこの様子に不信感を抱いていた。

「お姫様のお忍びにしちゃ、いつもと違わないか?周囲に誰も居ない様だが……」

 今までは目を凝らせば護衛がちらほら見つかるものだが、この日に限っては見当たらない。

「こいつは城に知らせておいた方がいいかな?」

 そうつぶやくと、男は急いでその場を後にした。


 ミルチャーが城門を通り抜けようとした時、守衛が何事かもめているのが目に入った。中々戻ってこないソルランデットの様子を見に来たところだった。つい、もう一人の顔なじみの守衛に声を掛ける。

「何か、あったのかい?」

「あぁ、町人が与太話を持ち込んだんだよ」

「どんな?」

「王女殿下を城下で見たとか」

 それを聞いてミルチャーの頭の中で警鐘が鳴り響いた。急いで馬を預けると、そちらへ近付く。

「おい!その話本当か?」

 ミルチャーを見ると掴まっていた守衛がホッとした顔をした。そのまま持ち場へ戻ってしまう。一方の男もこちらへ矛先を変えてきた。

「おぉよ。間違いないって!」

「その話、詳しく聞かせてくれないか?」

 ミルチャーは得体の知れない不安が胸を覆うのを感じていた。


 その場の空気を察して、エトワールは踵を返そうとした。その時、店内に入って来た者が居る。薄暗い室内にあっても燃え上がるような赤い髪の少女だった。

「……え?な……んで?」

 戸惑うエトワールに向かってエディラは勝ち誇ったように告げた。

「遂に尻尾を出したわね。お前が密偵だって事はとっくに判っていたのよ!」

 喧騒に包まれていた室内が静まり、少女の声が響き渡った。エトワールの顔が引きつる。

 しかし、エトワールが答えるより早く背後の者達が立ち上がった。クルゼンシュテルンとその連れが素早く立ち上がって、エディラを取り囲み店外へ連れ去ったのだった。

「待て!クル……」

「お前も来い!」

 慌てて止めようとしたエトワールをクルゼンシュテルンの連れが引きづり出した。店内にいた客達は余りに突然のこの一幕に、一体何が起こったのか殆どの者が判っていなかった

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