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幾分うきうきと、エトワールは街路を辿っていた。涼を求めて道にまかれた水が今は熱い靄となって辺りを包んでいる。エトワールは額の汗を拭って、先を急いだ。それとは距離を取って、エディラが後をついている事にエトワールは気付いていない。
「何処へ行こうかな……」
エトワールは竪琴を抱え直しながら、立ち止まった。ぐるりと周囲を見まわして、幾つかの店を思い返す。その時、見慣れない一団が一軒の店に入っていくのが見えた。明らかに異国人らしかった。
「……あ……れ?まさか?」
エトワールはその中の一人に目を止めた。ただでさえ目立つ程上背があるというのに、その人物は更にフードを被っていた。ちょうどエトワールが見ている時に風に煽られて、ずれたフードから半分覗いた顔を見て、エトワールは後を追って店に入った。
この店は美味い大陸風の料理を出すと有名な店のため、薄暗い店内には客が多かった。しかし、エトワールはざっと見回すとすぐに目当ての人物を見つける事が出来た。今度はフードを取っているため、顔がはっきりと判る。エトワールは戸惑いながらも、いつもの愛想の良い笑顔を浮かべてその人物に近付いた。
「久し振りだね。クルゼンシュテルン」
しかし、次の瞬間クルゼンシュテルンの浮かべた表情を見てエトワールは声を掛けた事を後悔した。
「やっぱり」
この暑い季節に目深にフードを被った一団を追って店に入ったエトワールの姿を見て、エディラの頭の中には怪しい人物と通じている事が容易に想像出来た。この事を暴露すれば、母の気持ちも変わるだろう。この場に現れた自分を見ればあの男も何の申し開きも出来ないはずだ。嬉しさの余り、しばしくすくすと笑いを抑えきれなかったエディラだったがひとしきり笑った後、努力して真顔に戻ると颯爽と店に向かった。




