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案内されておずおずと入ってきた姿に気がついて、セドフは顔をほころばせた。その表情を見て安心したのか、緊張した面持ちをしていたソルランデットは丁寧にお辞儀をした。前に会った時はほんの子供だったのに、今では一人前の振る舞いが出来るようになっている。月日の経つのは早いものだと、セドフはひとり微笑んだ。<我が女神号>を離れて国に戻ってからセドフはそのままシスヴァリアス邸に逗留していた。ソルランデットの今日の用向きも大体わかっているつもりである。
「お久しぶりです。ソルランデット様。すっかり大きくなられた。今日はどんなご用でしょうか?」
「あ……の……」
ソルランデットが意を決して口を開きかけた時、背後の扉が大きく開いてシスヴァリアス卿が姿を見せた。
「緊急議会が開かれる事になったぞ!」
大股で室内に入ってきたシスヴァリアスは、しかし、息子の姿を認めるとソルランデットを一喝した。
「こんな所で何をしている!殿下から離れるとは何事だ。今が大事な時だとあれほど言っただろう!」
最後まで聞く前に、ソルランデットは部屋から駆け出していた。
「そんなに厳しくしなくても……」
シスヴァリアスの剣幕にセドフは驚いた様に取り成した。
「……すまない。とんだところを見せてしまって……」
苦い顔を見せたシスヴァリアスにセドフは軽く頷いた。セドフには長年の付き合いであるシスヴァリアスの心中がわかりすぎるだけに、自分に出来うる限りの助力を惜しむまいと思いを新たにするのだった。




