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「大体さぁ、俺達の事なんだと思っているんだろ?」
サグレスは狭い段に腰掛けてぼやいた。
「頭数にも入っていないって事じゃないのかな?」
グロリアも空いている段に荷物を詰め込みながら答えた。エスメラルダに連れられて来たそこは、船内の最下層に近い窓も家具も無い狭い部屋だった。ただあるのは戸棚のような板が2段ずつコの字型に計6段設えてあるだけである。察するにその戸板1枚が一人分のスペースということになるのであろうか。もちろん戸板にはひと1人がやっと横になるだけの大きさしかない。高さも体を起こすには低すぎる。体の大きなグロリアやデワルチなどはその隙間に入り込むだけでも一苦労といったことになる。
「これじゃあプライベートもありませんね……」
グァヤスが肩をすくめた。
「そんな事より、いきなり甲板掃除だぜ!甲板掃除!俺は掃除夫じゃないぞ」
サグレスがグァヤスに噛み付いていると
「ちょっと?大丈夫かい?」
見れば、真っ青な顔をしたラディックがシナーラにもたれ掛かっている。
「き……気持ち悪い……」
「ちょっと待って……どうしよう?」
シナーラが困ったように周りを見回す。
「と、とりあえず外へ出よう」
様子がおかしい事に気がついたデワルチは慌ててラディックを抱えるように甲板へ連れ出した。サグレス達も後に続く。天空の太陽は傾き素晴らしい夕焼けに染まっていた。
そして……
「だーかーらー!おまえらにゃもったいないって言ったんだ!」
シークラウドは足先で小突きながら悪態をついた。しかし誰一人身動き一つしない。そこには思い思いの格好で甲板の上に寝転がったサグレス達がいた。海上は抜けるような青空だったが、前日までの雨の影響か風が強くうねりもあった。
「メシだぞ」
シークラウドは言い残すと、船内へ姿を消した。強い日差しが皮膚をじりじりと焦がしていたが、誰も船室へ行く者もいない。しばらくしてデワルチがよろよろと起き上がると、船べりへ這いずるようにすがりついた。そのまま、上体を屈めると海上へ胃液を吐き出した。もう2日もこの状態で、何も食べていないはずなのに吐き気だけはおさまらなかった。
「頭がぐらぐらする……床が揺れる……」
誰とも無く呟く声がした。