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 <我が女神号>の乗組員達は、簡単な身支度を済ませると順に海賊船に乗り込んだ。それぞれ内心には不満があるにしても、その事は一切口に出されなかった。シスヴァリアス提督はその姿を見て正直感心せずにはいられなかった。それだけセドフという男が命を預けるに相応しいといえる。

(私がしようとしている事は間違っているのだろうか…?)

 甲板の端ではクレオーレがエスメラルダに航路について海図を指しながら話していた。

「ここからザルベッキアへは大陸沿いに船を進めるのが一般的なんだが、今の人数を考えると海底の地形が複雑な分、操船が難しくなると思う。だからいっその事、外海へ出た後ザルベッキアを目指す方が時間は掛かるが安全なはずだ。それになまじ陸が見えるとヴァーサ殿がよからぬ考えを起こすといけないしな」

「はい」

「この季節なら上手く風を捕まえられれば、内海路より早くつけるよ」

 にこにこしながらサフランが近付いて来た。

「そう、上手くはいかないだろ」

 途端にクレオーレは嫌な顔を見せた。

「外海に出るのなら、船で曳いてやるよ。本当はずっとついてってやりたいとこだけどね。まぁ、紅い女神の加護があるから大丈夫だろ」

 サフランは周りを全く無視してエスメラルダに話しかけた。エスメラルダの緊張した顔がややほころんだ。横でクレオーレが呆れ顔だ。

「ありがとうございます。それから提督と船長をよろしくお願いします」

「誰に物を言ってるんだぃ!任せておきな」

 サフランは不意をついて軽くエスメラルダにキスすると背中越しに手を振りながら自分の船に戻って行った。

「何しに来たんだか」

 クレオーレが悪態をつく。エスメラルダの反応に納得がいかないらしい。

「悪い人では無いですよ」

「どうだか。所詮海賊じゃないか」

 しかし、クレオーレは自分が最後だと知ると慌てて海賊船へ移っていった。そして、エスメラルダは緊張をほぐすように大きく溜息をついた。

「出港用意!」

 サフランの声が響いた。よく通る大きな声だ。これなら潮風にも負けないだろう。そして、海賊船は慌しく出港準備に入った。一方、士官候補生達は皆不安な表情を隠せずに舷側に立っている。

(オレ達、これからどうなるんだ?)

 サグレスは目の合ったシナーラと目で不安を訴えあった。しかし、シナーラも首を横に振るだけだった。やがて、エスメラルダも指示を出した。

「出港用意」

 サフランに比べれば小さいがこちらは澄んだ声だった。潮風に乗る声とでも言うところか。

 すかさずイーグルが復唱した。慌ててサグレス達はロープを解き始める。しかし、その手付きはまだまだたどたどしい。やがて、海賊船からロープが渡された。シークラウドが受け取って<我が女神号>と繋ぎ合わせる。心配した海賊船上の<我が女神号>の乗組員達からも細かな注意が飛ぶ。やがて、2艘の船はゆっくりと離岸して行った。

 そして、海上の一点で2艘の船を繋いでいたロープが離された。

「航海の無事を祈る」

 セドフの言葉を最後に海賊船は北へ、<我が女神号>は南へ分れて行った。


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