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 目の前に出された麦酒を眺めながら、イーグルは考えこんでいた。

「すみません。私のせいで……」

「……あ?」

 イーグルとグロリアはコルミナの町中で遅い昼食にありつこうとしていた所だった。しかし、一向に手を付けようとしないイーグルの様子をうかがっていたグロリアが遂に口を開いたのだった。

「いや、お前のせいではないよ」

 実際イーグルは今の状況に困惑していたのだった。町の医者にグロリアをみせるという簡単な事が未だに完了していないのだ。聞き込んだ医者は2軒ともイングリア船の乗組員と聞くと診療を拒絶した。この事は極めて異常な事だと言える。自分達の知らない何かが起こっていると考えるのが自然だと思えた。

「私は、大丈夫ですから、船に戻りましょう」

 ようやく食事を口に運び始めたイーグルにグロリアはおずおずと切り出した。大きな体をすくめるようにしている。

「しかし、その火傷はなんとかしないと……」

「もう、痛みも殆どありませんし、そのうち治ると思いますから」

「しかし……」

 そうは言ってもこの見知らぬ土地でイーグルに良い考えなどあるはずも無かった。まずは船に戻って対策を考えるのが今は最良だと思える。その時、店の奥の卓についていた2人連れが立ち上がった。代金を置いて出口へと向かう。イーグルはその2人連れを何の気無く眺めていた。一人は黒髪に黒い瞳の青年。もう一人は銀髪に隠れてよく判らないが印象的な瞳をした少年だった。イーグルの視線に気付いたのか青年が立ち止まった。

「ディン?」

 先に扉に手をかけた少年が振り返った。しかし、青年は少年に先に行くように合図すると、まじまじとイーグルを見てから唐突に懐から取り出した小瓶を卓に置いた。

「……え?」

「火傷に良く効く。新しいのにも、古いのにも」

 黒髪の青年はそれだけ言うと、少年の後を追って店から出て行った。

「……あ、ちょっと……!」

 瓶を握り締めてイーグルは扉を開けたが、既に通りの何処にも2人連れの姿は見当たらなかった。

「今のは何だったんでしょうかねぇ?」

 面食らったようにグロリアが呟いた。席に戻ったイーグルも呆然としている。

「試しに使ってみるか?」

「そうですねぇ。悪い人には見えなかったのでちょこっと使ってみましょうか」

 グロリアは悪びれた風も無く瓶に手を触れると、蓋を開けた。

 広口の瓶の中には白い軟膏が入っていた。特に悪い匂いもしないのを確かめて、イーグルはグロリアの手に軟膏を少量塗りつけた。驚いた事に、塗り込むうちに赤かったグロリアの手から赤味が消えて行く。

「どうだ?」

「はい。良いみたいです」

 半信半疑の二人だったが、遂には跡の残る部分に総て軟膏を塗っていた。グロリアの手はすっかり綺麗になっていった。

「とりあえず船に戻るか」

「はい」

 イーグルとグロリアは急いで食事を平らげ始めた。


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