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 <我が女神号>の後部甲板は大騒ぎになっていた。装備の間に合わない後部を集中的に狙われた上に砲弾の一つが柱に大きな傷をつけ、その衝撃でこぼれていた火薬が火を吹き上げたのだった。その場にいた船員達は恐慌に駆られ、激しい炎に打つ手が無かった。

 その時グロリアが傍に投げ出してあった帆布を広げて炎の上に身を投げ出した。途端に嫌な臭いとグロリアの押し殺した苦鳴が響いた。

「ばかやろ!」

 デワルチが慌てて手近な砂桶をぶちまけた。それでも足りずに帆布の下からは炎が上がっている。その頃には恐慌状態にあった船員達も落ち着きを取り戻し、甲板の砂桶を集め始めていた。幸か不幸か手入れの行き届いた火薬は激しい炎を上げたものの、少量だった様で甲板を焦がしただけで、それ以上燃え広がる事は無かった。

「大丈夫ですか!?」

 騒ぎに気づいたエスメラルダが駈けつけてきた。助け起こされたグロリアは火傷を庇いながらもにこりと笑った。

「えぇ。帆に燃え移っちゃいけないと、思って……」

 しかし、途中から傷を押さえてうずくまってしまう。

「下に運びな。手当てする。まだ、戦闘は終わってないぞ」

 シークラウドは酒瓶を口に含むと消毒代わりに火傷に吹き付けた。グロリアは我慢し切れず苦名を挙げた。


 ハインガジェルは敵船の火が思った効果を上げずに鎮火したのを見て思わず舌打ちをした。

「いや、待て?帆柱がおかしいのか?速力が上がらないようだな。まだ、運に見放されていないな」

 慌てて船長に指示を出そうとしたハインガジェルを、しかし傍らのクルゼンシュテルンが引き止めた。押さえ切れずにハインガジェルの肩が恐怖に震える。

「?」

「もう良い。先を急ぐぞ」

「な、何故!?向こうはもう落ちるところだっていうのに……」

「一つにはザルベッキアの反応が見たい」

「なっ」

「2度は言わぬ。行くぞ」

 不承不承ハインガジェルは従った。敵船の様子だとこのまま簡単には落ちないだろう事も見て取れる。やはり、成りは小さくても軍船だと言う事か。既にクルゼンシュテルンの眼は別の海の彼方を見つめている。船は<我が女神号>を残して悠然と去って行った。


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