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 水浸しの男は肩で荒い息を吐いていた。しかし、ハインガジェルを見とめると青ざめた顔色に血の気がさしてきた。

「ハイン!」

「お前は?」

「オレだよ。ゲンガイだ。イングリア軍船に乗るように依頼された」

「……あぁ!」

 ハインガジェルの様子にゲンガイは明らかにほっとした様子だった。ハインガジェルは身振りで船長に場を外す様に示す。船長の方もこの場はハインガジェルに任せるの良いと判断したのか、特に異議を唱える事も無く指揮を取るために船首へと向かった。まだ砲撃は続いている。それを見送ってハインガジェルはゲンガイに近寄った。

「それで、首尾はどうだった?」

 男は見慣れぬ外国人のクルゼンシュテルンが気になるようだったが、ハインガジェルに促されて話し始めた。

「どうもこうも、お前の言った通りザルベッキア行きの軍船があったんだ。それで、俺達は間抜けな副船長を丸め込んで上手く船に乗り込んだんだ」

「それがあの船か?もっと大きい船かと思ったが……」

「あれしか無かったよ。それで言われた通り足止めしようと積荷に細工したのが、この間の嵐で上手く崩れてくれてな、上手い事コルミナに寄港するってんで逃げる算段をしている所がバレて、海に飛び込む羽目になったと言う訳さ。気がつきゃドンパチ始まってるし、ダギの姿は見えないし……。さすがのオレももうダメかと思ったが、お前に会えるなんざまだツキに見放されちゃいねぇな」

 話し始めると、落ち着いてきたのかゲンガイはちらちらとクルゼンシュテルンを窺うようになって来た。それには敢えて注意を払わずにハインガジェルは尋ねた。

「あの船には誰が乗っているんだ?」

「<我が女神号>か?船長はあのセドフだ。他には特にいねぇな」

「イングリアの守護神セドフか?降格されたとは聞いていたが、まさかこんな所で会えるとは……。惜しいねぇ。大船団率いてたっておかしくないのに」

 この事はクルゼンシュテルンをも驚かせた様だった。クルゼンシュテルンは彼方の<我が女神号>を眺めると、何事か考え込んでいた。しかし、その間に本気で驚いているハインガジェルにゲンガイはこそこそと耳打ちした。

「なぁ、随分羽振りが良さそうじゃないか?今回の件もそうなんだろ?オレもお前の主人に繋いでくれよ」

「いや。オレは……」

 その時、海上で激しい炎が吹き上がった。見ると<我が女神号>の後部甲板に火柱が上がっている。

「よし!火薬に火がついたな」

 思わずハインガジェルの顔に笑みが浮かんだその時、押し殺した悲鳴が上がった。ハインガジェルが振り向くとゲンガイが血を噴きながら海へ落ちて行くのが目に入った。傍に剣に手をかけたクルゼンシュテルンがいた。既にその刃先は鞘に納まっている。

「もう、用はないだろう?」

 ハインガジェルは背筋が凍るのを必死に押し隠した。


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