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 この突然の敵対行動に対して、しかし<我が女神号>では取りたてて騒ぎ立てるものはいなかった。それでいて甲板の上はみるみる慌しさを増していく。今は、全ての船員が何らかの目的を持って動いていた。士官候補生達にもあちらこちらから声が掛かり、それぞれが煩雑な作業に入っていった。大砲を据えるもの。火薬や弾を武器庫から運び出すもの。あたりはあっという間に足の踏み場も無い状態だった。

「よーし!」

 シークラウドはいつの間にか手にした火種を傍らの大砲に点火した。大砲は慣例に従い空砲を空に向けて放たれた。しかし、相手方からはなんの反応も無いばかりか、相変わらず一方的な砲撃が続けられている。

「あたらないよ?」

 ラディックが不思議そうに聞いた。デワルチが新たな大砲を固定しながら怒鳴り返した。

「空砲はこっちに攻撃の意思は無いって事!」

「そっか」

「船長の許可がおりたぞ!」

 その時、船内からクレオ-レが駆け出してきた。歓声があがり一気に甲板の士気が上がり始める。その頃には狭い甲板一杯に大砲が並べられ、それぞれに砲身の煤が払われ弾が込められていた。

「シナーラ。お前目が良かったな?着いて来い」

 イーグルはメインマストに登りながら、シナーラを呼んだ。シナーラは慌てて後に続いた。見る間にイーグルはマストの見張り台にたどり着く。シナーラがピッチを上げて登り始めた時、今度は激しい轟音が辺りを包んだ。ついに反撃が開始されたのだった。しかし構えていなかった士官候補生達は一瞬何も聞こえなくなった。

「左へ20!」

 イーグルは下に向かって怒鳴った。すかさず、エスメラルダが大砲の角度を調整する。そして、シークラウドが次の大砲に点火する。他の大砲も船員達によって調整が加えられていた。

「よく見てろ。照準のズレを覚えるんだ」

イーグルはシナーラを振り返りもせずに海上の先の船を見つめている。見張り台の中は2人も入ると一杯だったが、無理に体をねじってシナーラは着弾点を見つめた。

「左へ5!」

 わずかな水飛沫を見極めてイーグルが位置を出しているのがシナーラにはやっと解ったが、この距離では水飛沫と敵船との距離が実際はどのくらいなのかさっぱり解らなかった。しかし、イーグルの目測の正確さは次の一弾が甲板を僅かに撃ち抜いた事で証明された。

「このシークラウド様のいる船を攻撃した事を後悔させてやる」

 不適な笑みを浮かべてシークラウドは次々に大砲を点火して行く。

(やっぱりこの人ってアブナイ?)

 密かに心の中でサグレスは呟いた。


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