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「もうしわけありませんでした」
シークラウドは深々と頭を下げていた。セドフ船長は腕組みをしたま何も言わずにいた。すかさず寝椅子に寝そべっていたヴァーサが口を開いた。
「偉そうにしている割にはこれかい?どう責任を取るつもりなのさ」
「……」
シークラウドは敢えて黙ったまま頭を下げていた。更に続けようとするヴァーサを遮って、セドフは船長室にいた航海士のクレオーレに声を掛けた。
「士官の予想した日数で糧食を補給するとしたらどの辺りになるか」
慌ててクレオーレは机上に広げてある海図に指を走らせ始めた。ペンでいくつかの印をつけた後、最終的に大陸の海岸線の一つに印をつけた。
「コルミナ港であればギリギリ辿りつけるかと」
「ふむ」
「コルミナだってぇ?一体どこまで行くつもりかね」
実際シークラウドにしてみれば歯噛みする思いだった。本来、ザルベッキアまでは無補給で辿りつける計算をしていたはずだった。しかし、今回の不始末のために糧食-特に水-が足りなくなっていた。そのためどこかで補給をする必要があった。これが沈没船騒ぎで遅れている航海を更に遅らせる結果になっているのだ。コルミナ港ではまだ半分も来ていない。しかし、この先ザルベッキアまで安全に補給できる友好的な港は少なかった。
「こいつの処分はどうするのよ」
ヴァーサが喚いた。
「どうであれ、最小の被害ですんだのだ。船を守ってくれた事、感謝する」
セドフはヴァーサを取り合わず、シークラウドに声を掛けた。これを潮時とシークラウドは船長室を退出した。そして後には憮然とした表情のヴァーサが残された。ぶつぶつと文句を並べ立てているがセドフは動じもせずにクレオーレに指示を出した。
「進路の変更を頼む。この辺りの海岸は、潮目の複雑な海域で浅瀬もあるので見張りを増やし、細心の注意を払ってくれ」
「はい」
クレオーレは急いで、船長室を出ていった。




