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「そこにいるのサグレスだろ?」

 声でわかるとはいえ自分の顔色を考えてサグレスはすぐに振り向くのをためらった。しかしそのまま無視する訳にもいかず、なんでもない風を装ってゆっくりと振り返る。思った通りシナーラだった。他には誰も居ず、一人で上がってきた様だった。

「やぁ。ここで会うのは初めてだね」

 シナーラの方はというとサグレスの内心を知ってか知らずか、暢気に隣に立って海風に吹かれている。もっともこの星明りでだけでは顔かたちを判別するのがやっとという状況だったが。

「何か考え事?邪魔だったらいなくなるけど」

「そ……そんな事無いよ。大体なんでそう思うのさ」

「一人になれる所って言ったらここぐらいじゃない?」

「そういえばそうだな。と、言う事はお前も何かあるって事か?」

「ま、ね」

 そのシナーラの言い方が可笑しくて二人してしばらく笑っていた。

「ここにはよく来るのか?」

「そうだね。最初はぼーっとしに来たりしてたんだけど、ここってね、いろんな人が来るんだよ。今日のサグレスみたいにね」

「へぇー?」

「そういえばグロリアが言ってたけど、積荷がダメになったじゃない。もしかしたらザルベッキアまで持たないかもしれないって」

「なんでグロリアが?」

「あぁ。グロリアは家が代々船大工をしているらしいよ。それで、色々船の事が詳しいみたいだね。本人はもっと実地で船の事を知りたくて士官学校に入ったらしいけど」

「ふふ……らしいな」

 サグレスの押さえた笑い声と、シナーラのくすくす笑いが風に乗って遠くへ流れていく。ひとしきり笑いあってから、シナーラは真顔に戻ると先を続けた。

「それでね、人魚を怒らせたせいだ……って、いう人もいるみたい。船員が話しているのをラディックが聞いたって」

 人魚の言葉にサグレスはドキッとした。

「へ、へぇー。なんでまた人魚なんか……」

「人魚の機嫌を損ねると嵐を呼ばれるんだって。デワルチに聞いたら、迷信らしいけど信じている人は多いみたい」

 そういえばシークラウドも似たような事を言っていたと、包丁の切っ先を思い出しながらサグレスは考えていた。そんなサグレスに気づかずにシナーラは一人で先を続けた。

「そうそう、デワルチは商家の後継ぎでよく商船に乗り込んでいたみたいで、こういう話しは詳しいんだよね。海で荒れるのは大体人魚のせいみたい。本当かね」

 ふと、やはりあの時のあの人魚は自分の事を海底深くに引きずり込む気だったんじゃないかとサグレスは急に背筋が寒くなった。


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