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カン、カン。カン、カン。カン、カン……
サグレス達6人が顔を見合わせていると、
「船長のお帰りだ!おまえらデッキに上がるぞ」
シークラウドが前掛けをはずしながら厨房から急いで出てきた。慌てて6人も後に続いて食堂をでた。船内の狭い通路のあちこちで船員達が作業の手を止めてバタバタと甲板に上がっていく
サグレスはようやく後尾甲板に上がったところで一人の船員に呼び止められた。
「この旗揚げとけ!」
サグレスは手に押し付けられた布切れを呆然と見つめた。相手の船員は聞き返す間もなくあっという間に行ってしまっている。何が何やら分からずに周りを見まわしたが、生憎そこにはサグレスの後に上がってきたシナーラしか見当たらなかった。
「早く行かないと……どうしたの?」
サグレスの様子にシナーラが足を止めて聞き返した。サグレスは無言で布を見せた。
「これ、旗じゃない?それも多分船長旗。これ揚げろって?」
「あぁ。でも、どこに?」
サグレス達はまだこの船に乗ったばかりである。未だに船内の構造はおろか、自分達のねぐらさえ知らないのだ。はっきり言って右も左も分からないのが現実だった。旗がどこに揚がるのか知るはずも無かった。それでも、2人してあちこち上を透かして見る。しかし、帆船というものは帆桁やそこに繋がれるロープが縦横無尽に張り巡らされ、それは容易な事ではなかった。
「あ、あそこ!」
不意にシナーラが船尾に近いマストの上を指差した。そこにはイングリア国旗「金獅子」の旗がはためいていた。慌てて2人はそのマストまで走って行き、細いロープに旗をくくりつけた。
「あれ?この旗……」
ふと、手に持っている旗に目を落としたサグレスは、頓狂な声を出した。その旗は青い地に白い鳥が染め抜かれている。
「どしたの?青地にこれは白鷺かな?」
覗きこんだシナーラは早くもロープの端を持って揚げようとしていたところだった。
「やっぱり白鷺だよな、これ。そうしたら、これはセドフ……提督の物って事か?」
「へぇ。よく覚えているね。そんなのすぐに忘れちゃったよ」
シナーラはいたって暢気である。
「知らないのかよ!セドフ提督って言えば、数々の海戦で勝利を収めた、このイングリアの守護神みたいな人じゃないか」
「あぁ。そう言えば……でも、そんなに偉い人がこんな小さな船の船長って事は無いと思うよ。大体、旗艦とかの司令官を務めるような人じゃなかった?」
サグレスも確かにそう思っている。セドフ提督と言えばサグレスの憧れの人でもあった。いつかはセドフ提督のように出世して、海軍の提督になるのがサグレスの夢でもある。この航海訓練はその第一歩でもあるのだ。はっと気がつけば旗は8割がた揚がっていた。慌てて、ロープを握る手に力を入れる。
「こんなところにいたんですか!」
後ろから、声が掛かった。エスメラルダだった。2人の姿が見えないので探しに来たらしい。エスメラルダは手早くロープを固定すると、2人を促して船首の方へ急がせた。