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先にボートが甲板に引き揚げられた。後からサグレスとイーグルもロープをよじ登って来る。2人ともその全身からは塩を噴いていた。ボートの中からシャツを取り出していたサグレスにイーグルが声を掛けた。
「後はいいぞ」
「あ、はい」
疲れ果てたサグレスにタオルが差し出された。
「ご苦労様です。首尾はどうですか?」
いつのまにかエスメラルダが現れていた。周りを見回すと他には誰もいない。イーグルは黙って手に持った鐘を差し出した。エスメラルダはそれに軽く頷くと、サグレスに向かって言った。
「他の者は食事に行かせました。あなたも行きなさい。その後は交代でワッチについて貰います。それまでは良く休んでおくように」
「はい」
返事をするのも億劫そうなサグレスはタオルで体を擦りながらのろのろと食堂へと降りて行った。その姿を見送ってイーグルは羽織っていたシャツをきちんと着た。その動作をエスメラルダは静かに見守っている。なんとなく気詰まりを感じてイーグルは手の中の鐘を玩んでいた。それはまだ錆もせずにいる。
「何がありましたか?」
さり気なくエスメラルダは切り出した。イーグルの手が止まった。
「いや……。船長に報告してくる」
視線を避けるように立ち去りかけたイーグルの腕をエスメラルダがそっと押さえた。思わず振り向いたイーグルの目に緑色に煌くエスメラルダの瞳が大きく映った。その瞳の色は何時にも増して濃く見える。
「サグレスから聞きましょうか?」
はっと、これ以上何一つ隠せない事にイーグルは気がついた。エスメラルダは聞き出す気なのだから……
聞こえないように息をひとつ吸うと、イーグルはゆっくりと口を開いた。
「……人魚に会ったそうだ」
エスメラルダは表情一つ変えなかった。しかし、その事がかえってその内心の動揺を顕わしているように思われて、居たたまれなくなったイーグルは逃げるようにその場を立ち去った。




