2
とにもかくにもサグレス他、士官候補生たちはエスメラルダに連れられて船尾近くにある食堂に移動してきた。今回この船に配属された士官候補生は全部で6人である。エスメラルダは6人が部屋に入るのを確認すると、船内の何処かへと立ち去った。室内は狭く6人が椅子に座るとほぼ一杯になってしまい、食堂とは名ばかりの落ち着かない空間でしかなかった。
今回<我が女神号>に配属されたのはグロリア、デワルチ、シナーラ、クリスチャン・ラディック、グァヤスそしてサグレスの6人だった。この時代通常では1つの船に20~40名の士官候補生が配属され、実戦の中で最終訓練が行われる事になる。しかしこれまでは60~100名前後の乗組員のいる大型船のみで訓練が行われている事を考えると、現在乗組員が18名で構成されている<我が女神号>では破格の受け入れ人数といえた。
座席についてお互いに顔を見交わす。しかし、それぞれに士官学校で見かけた顔ではあるような気もするが、これと言った知り合いはいない。
「何だ、直ぐ出航かと思っていたのに随分のんびりしてるんだな」
サグレスはぼそりとつぶやいた。
「僕達これからどうなるんでしょう?」
おずおずと最年少13才のラディックが口を開いた。
「指導教官が乗り込まないとすると俺達ちゃんと士官になれるのかな?」
最年長16才のグロリアも不安げにつぶやいた。
「そんなの困る!」
サグレスが椅子を蹴って立ちあがった。
「おらぁ!ガキ共!遊んでないで運べ!」
突然奥の厨房から声がかかった。全員が驚いて振り仰ぐと、厨房との境になっているカウンターに湯気の上がっている料理を載せた皿を置いている男がいた。慌てて、皿を取りに行く。
「俺は、厨房を任されているシークラウドだ。他に雑用全般もやってる。これでも士官だから尊敬しろよ」
シークラウドは顔全部を覆っている金髪を掻き揚げながらウインクした。
「まったくおまえ達に喰わせるにはもったいないほどの出来だってのにな。ありがたく喰えよ」
シークラウドは食べ始めたサグレス達を見ながらにやにや笑っている。
しばらく6人は黙々と食べていた。実際とても料理は美味しかったのだ。
「僕達、これからどうなるのですか?」
デワルチが肉の塊を口に運びながらたずねた。
「訓練するんだろ。まあ、この船は怖い船だからな…」
シークラウドの言葉に全員の手が止まった。
「それって……」
シナーラが恐る恐る口を開いた時。
カン、カン。カン、カン。カン、カン……
突然、鐘が鳴り始めた。