19
まだ、髪からは滴が流れ落ちていた。<我が女神号>の甲板に上がったシナーラは両手で無造作に髪を掴むと思いっきり絞り上げた。潮の香りが滴と一緒に流れ落ちる。肩の辺りには早くも塩が結晶している。
「よぉ。おかえり。首尾はどうだい?」
唐突に声を掛けられて慌てて振り向くと、そこにはグロリアとラディックが立っていた。2人の髪が生乾きなところを見て取ると、2人はもう少し前に上がったようだった。
「全然。そっちは?」
シナーラが肩を竦めると、グロリアは首を横に振った。ラディックも苦笑いしている。
「成果無し。後は、サグレスの所だけか」
ため息交じりにシナーラが呟くとそれぞれの口からもため息が漏れる。
「もうね、海の中は勘弁だね……でも、明日もやるのかな……」
ラディックがおどけて見せた時、甲板にヴァーサが取り巻きを引きつれて上がってきた。
「まったくねー、可愛くないったら。いくら仕事がいやだからって、嘘までついてこんな所に船を止めさせるなんて」
ヴァーサは聞こえよがしに、周りの船員達に話しかけている。
「その代わり、3日も海さらいさせられるなんて思っても見なかったんじゃないすかね。今頃すっかりへばっているとこでさ」
誰かの言葉に一同からどっと笑いが起こった。中でもヴァーサの甲高い笑い声は癇に障る。
思わず、顔を上げたシナーラにグロリアは目で止めるように合図を送った。その意味を悟ったシナーラは腹立ち紛れに海の上に目をやった。
「あ、戻ってくる」
いち早く海上の小船を見つけて、シナーラは指を差した。




