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その海藻の群れは厄介だった。長く伸びた緑の藻は絡み合い、波に漂い複雑な網を作り上げている。そしてその下は光が届かない薄暗い闇を形成している。これでは何度見ても判らない筈だ。海藻の下には岩棚があるとごまかされてしまう。
意を決してイーグルは海藻の少なそうな個所から下を目指して更に潜って行った。海藻の群れを掻き分け少しずつ進んで行く。絡む海藻に足を取られるのでは無いかと内心は心穏やかではいられない。そしてそろそろ戻れなくなるという不安を抱く頃、唐突にそれは見つかった。目の前の海藻が開けて、その更に下は深い海溝が口を開けている。そして、その途中に真新しい鷹の船首像がこちらをひたと見据えていた。
(女神を守るはずのお前がこんな所にいるなんてな……一体イングリアはどうなるんだ?俺はイングリア人じゃないが、ファン女神の建国の物語ぐらいは知ってるぜ。女神の窮地を何度も救ったのはお前じゃなかったのか?)
イーグルの心の問いに鷹の像は何も答えなかった。ただ目の周りの金縁がきらりと光っただけだった。
<青鷹>は船底を海溝の途中の岩棚に押し付け、不安定な状態で沈没していた。水の流れによってはゆらゆらと揺れている。イーグルは注意深く船に近付いた。船に使われている船材は真新しく、金属が海底で光っていた。木材も腐っておらず、沈んだのがごく最近であることを物語っている。
(どうして沈んだんだ?)
しかし、この疑問は程なく解けた。喫水近くに大きな穴が開いていたのだった。穴から中を覗くと、中には木っ端が散乱していた。他に甲板にも2、3穴が開いている。明らかに何者かからの攻撃を受けたのだった。船内を捜索したい気持ちはあったが、それには少し時間が足りない。
(いやな感じだな……明確に敵がいると知るのは。さて、戻るか)
ぐるりと見まわしたイーグルは、甲板の船鐘に目をとめた。近付いて、ズボンに差してあったナイフを取ると鐘を止めている綱を切った。鐘には鷹の紋章とイングリア船籍であることが刻まれていた。それからゆっくりとイーグルは船を離れ海面を目指して上昇していった。




