16
日が傾き始めている。それに伴って徐々に風が強まってきていた。イーグルの目には遥か彼方の雲の動きが手に取るように見えている。今夜辺りは荒れるかもしれない。
「一体何やっているんだ?」
サグレスが潜ってから随分長い時間が過ぎている。イーグルはいらいらと四方の海面に目を走らせるが、今の所何らの異変も見つけられない。
(何かあったか……)
こちらから<我が女神号>の姿は確認できるが、この距離では恐らく向こうからはこちらの姿を捉えることは出来ないはずだった。サグレスが遭難した可能性が高い以上、探しに行かなければならない。しかしこの広い海の中を一人で探すのは至難の技といえる。そもそも、もっと大きな帆船一つ見つけられないのに人一人見つけるにはかなりの強運が必要になるだろう。かといって、このままにしておく訳にはいかない。イーグルは上着を脱ぎ始めた。
「もう、後悔はしたくないんだ……」
つぶやいて、当たりを付けた方向に飛び込もうとした時、何かが目の端に映った気がした。それは陽光を弾いて僅かに煌いたのだった。
(ヒレ?)
イーグルが目を凝らして見定めようとした時、海中から細かな泡が湧き上がってきた。
細かな泡は徐々に増え、やがて一際大きなかたまりになったかと思うと、人の頭になった。サグレスだった。サグレスは大きな息を一つつくと、再び潜ろうとしていた。
「おい!」
イーグルの呼ぶ声にも気づかないらしく、慌ててイーグルは後を追って飛び込んだ。さすがに深くは潜れないらしく、サグレスはまだ浅い所でもたもたしていた。イーグルは後ろから近づくとサグレスをひっつかんで、海面に引きずり出した。サグレスはそれでも往生際が悪くまだ潜ろうとしている。
「ばかやろう!」
イーグルはそのまま有無を言わさず自分の体とサグレスのとをボートに引き上げた。さすがにサグレスもおとなしくボートに上がってきた。
「何かあったのか?おい!大丈夫か?」
海面をなおも見まわしていたサグレスはイーグルの声ではっと我に返った顔をした。しかし、再び目は海上をさまよっている。イーグルに引き戻されて、ようやくサグレスはイーグルを見た。
「人魚がいたんです……」




