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 力の入らなくなったサグレスの体に白く細い腕が絡みつく。サグレスがその気配に気がついて振りほどこうとするが、その細さに似合わず振りほどく事ができなかった。

 体の周りを強い勢いで冷たい水が流れていくのを感じる。しかしサグレスの体はしっかりと抱き止められていてもう水流に流されて行くことは無かった。

 次第にサグレスの目の前が真っ赤に染まり始めた。同時に頭もガンガン鳴り始める

(息が……)

 潜る前には十分に大きく吸い込んだはずだったが、それもそろそろ限界だった。空しく海面を目指して水を掻くが、疲れきった体にそう余力のあるものでは無かった。やがて手足から力が抜けて行くのを感じる。何かが自分の顔を覗き込んでいるのが感じられたが、目の前には赤い闇があるばかりだった……


 ふと、サグレスは薄れかけた意識の中で何かが顔に、そして唇に触れるのを感じた。そして、徐々に肺の中に新しい空気が送り込まれていく!次第に視力が回復してきた。

 最初サグレスは自分が海藻に埋もれているのかと思った。じきにそれは深い緑色をした髪の毛だという事に気がついた。一人の少女がしっかりとサグレスを支えて、口移しで空気を送り込んでいるのだった。

 少女はサグレスの意識が回復したのに気がつくと、唇を離してにっこりと微笑んだ。それは、目鼻の整ったかなり美しい少女だった。長い髪も瞳も深い緑色で、胸も顕な肌は白く輝いている。それに気づくとサグレスは目のやり場に困って目を逸らせた。すると大きな魚のヒレが目に入った。振り返って見るとそれは腰の辺りで少女に繋がっていた。

(人魚……?)

 サグレスが少女の正体に気づいて驚いているのを見て、少女はいたずらっぽく微笑みサグレスを抱え直すと泳ぎ始めた。背中に当たる柔らかい感触にサグレスは戸惑って、なすがままにされていた。一体この細い体のどこにそんな力があるというのだろう?人魚の少女はある一点を指して泳ぎ続けた。

(まさか、海の底に連れて行かれるんじゃ無いだろうな……まさか餌とか?何の?でも、今更どうする事も出来ないし、なるようになれ……だ)

 サグレスが心を決めている間にも、人魚の少女はどんどん泳ぎ続けている。やがて、大きく海底が落ち込んでいる所に来た。そこは何度かサグレスが捜索に来た地点でもある。海藻が長くたなびき、かなり視界が悪い。少女はゆっくりと降下し始めた。

(やっぱり行くのは奈落の底か)

 太陽の光が徐々に弱まり、辺りは薄暗くなって行く。茂る海藻を掻き分けるように進んで行くと、何かの影が滲むように浮かび上がってきた。

 それは船だった。帆船が斜面の途中に引っ掛かる様に沈んでいる。そしてその船首像は<青鷹>だった……!

 サグレスが驚いた様に振り向くと、少女はまるで何でも知っているとでも言うように頷き、それからサグレスを真上に引き上げ始めた。


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