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サグレスは海中に身を沈めて行く。潜る事自体は難しい事ではないが、先が見えない事にはどう体力と折り合いをつけて良いのか判らない。更に海上は照り付ける太陽によって快適な気候とも言えるが、海の中はそれなりに水温が下がっている。相変わらず海中はうねりが大きく、泳ぎ続けた体にはかなりきつい作業になってきていた。しかし、辺りには船影すらも見えなかった。
(確か、さっきはあの岩の所から始めたんだよな……いや?向こうだったか?)
何も目印になるような物の無い海中では、漫然と探索を続けても結局は同じ所を探している事になりかねない。小船の位置も潮の流れで刻々と居場所が変わっているはずだった。サグレスは教えられた通り、目印に決めていた他よりもやや大きめな岩を探した。ぐるりと辺りを見まわして、これだと思う岩に近づいていく。目印にと切り取った海藻の跡を確認して、これからの方向を定める。やがてゆっくりとサグレスは泳ぎ始めた。右に左にと泳ぎ回るが、時々後方の目印との位置関係を確認するのを忘れない。
(海の中っていろんな物があるんだな……)
目の前にはサグレスに驚いた魚達が群れをなして泳ぎ去って行く。見慣れない人間に我も我もと散って行く様子は普段であれば見飽きないものだろう。大きく成長した海藻の類もあちこちの岩に取り付き、目に鮮やかな帯をなしている。海底も起伏に富んだ地形を見せ、目の届く限り同じ地形は存在しない。砂地に見えるところもあれば、岩場がびっしり海草で覆われているところもある。しかし、船どころか人工物らしき物は全く見当たる事が無かった。時々海面へ息継ぎに出て小船の位置を確認する事も忘れない。時には潮に流されたのか、思ってもいないところで小船を見つけたりする。イーグルは寝そべってでもいるのか、その姿は見つける事は出来なかった。
そう言えばとサグレスは思い出す。大陸からの異国人であるイーグルは実はあんまり泳ぎが得意では無いらしい。もちろん泳ぐ事自体に問題は無いのだか、あまり長く泳ぐのがどうやら苦手らしい事を今回の事でサグレスは気がつき始めていた。そもそも自分の見た物が事の発端である事であり、サグレスはなるべく長く自分の捜索時間を取るようにしていた。
何度目かの息継ぎの後、ゆったりとした気分で泳いでいたサグレスは、しかし突然体が強い力で流されて行くのを感じた。目に見えない水流に乗ってしまったのだった。見る見る体は流されて行く。なんとか水流から逃れようとするが、一日泳ぎ疲れた体にはもはや抗い様がなかった。やがて、息も苦しくなって来た。
(もう、駄目か……?)
サグレスの目が霞みかけた時、サグレスの背後から白い腕が延びてきた。




