13
海面に細かな泡が浮き上がってきた。その数は徐々に多く、大きくなっていく。やがて、小さな影が海中に近づき大きくなり、そして海面に人の頭が出た。天空は高く太陽は真上にまぶしく輝いている。
「ちくしょー」
海面に顔を出したサグレスは、荒い息を吐き出しながら悪態をついた。じきに小船が近寄ってきて、サグレスを船の上に引き上げる。小船にいたのはイーグルだけだった。
「どうだ?」
しかし、イーグルはサグレスの憮然とした表情を見るとそのまま自ら海中に飛び込んだ。大きな水飛沫があがり、みるみるイーグルの姿は見えなくなった。後には小船に仰向けに寝そべったサグレスだけが残された。あたりには水の音とサグレスの荒い呼吸だけが響いている。ぎらつく太陽に瞳を焼かれそうになり、サグレスは慌てて大空に背中を向けた。
この海域に<我が女神号>を停泊して、総出で沈没船の捜索を始めてはや丸2日経とうとしていた。当初は簡単に思えた捜索も、この2日間全く手がかりが見つからない事で船員達に不満も見え始めている。かといって、セドフが中止を宣言しない限りは捜索は終わらない事だろう。
サグレスの濡れた背中はじきに夏の太陽に焼かれて湯気が上がり始めている。かなり離れた所では、同じようにグロリアやラディックも潜っているはずだった。大海原ではお互いの様子は見て取れない。一見、海面上は穏やかに見えるが、一度海中に潜れば複雑な海流に拠るものなのか、大きなうねりによって巻き上げられた砂や海藻によって視界はかなり悪くなっている。
「どこ行っちゃったんだよ……」
サグレスは体を起こして辺りを見まわすが、見えるのは<我が女神号>とどこまでも広がる水平線だけだった。これだけ見つからないと自分が見たものに不安を覚えてくる。
やがて、気泡を引き連れて海面にイーグルが上がって来るのが見えた。慌ててサグレスが小船を寄せるが、流石のイーグルの目にも怒気が滲んでいる。サグレスはイーグルを引き上げると無言で再び海中に飛び込んだ。




