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サグレスが見た物、それは正確にいうと鷲を模った彫像だった。その人間ほどもある大きな木製の像が海中に沈んでいるのだった……

「ちがう……あれは、船だ!」

 サグレスは鷲の像の背後に続く巨大な影が実際には船体であった事に気づいた。鷲の像を船首に戴く帆船が海中に沈んでいるのだった。もちろんこれだけの事に気づくまでには何度も海面と海中を行き来させれていたわけだが……

 何度目かに海面に顔を出した時にサグレスは「我が女神号」に向かって力の限りに叫んだ。

「船が……船が沈んでいる……!」


 ちょうど船べりでは暇を持て余した船員達がこの余興を楽しんでいた。彼らにとっては見慣れた光景だったし、大概経験もある事だった。甲板上から口々に囃し立てていた彼らは、しかしサグレスのこの悲鳴に近い絶叫を聞くと即座に行動を開始した。

 かなりの長さがあると思われたロープは熟練した船員達の手で素早く巻き上げられていく。ほどなく仕官候補生達6人は甲板の上に引き上げられていた。けれどもほとんどの者が海水を飲み込み、気絶するかそれに近い状況だった。そんな士官候補生達も、手早く船員達によって手当てされる。

 気がついてもサグレスは最初自分の状態がよく飲み込めなかった。早くも濡れた衣服は湯気を上げて乾き始めていて、蒸し暑く感じた。しかし、エスメラルダに激しく揺さ振られている内にサグレスは次第に海中で見た鷲の事が思い出されてきた。

「船が……沈んでいたんです。鷲の船首像の……」

「それは、本当に見えたんですか?」

 エスメラルダはゆっくりと落ち着かせようとするかのように声をかけた。後ろから皮肉った嘲笑が聞こえる。

「自分が助かりたくてでっち上げてるんじゃないの?」

 ヴァーサ副船長が人垣の後ろから嫌味ったらしく声をかけているのだった。しかしセドフ船長がデッキに現れたのを見て、ヴァーサはそっとその場を離れて行ってしまった。

「どんな鷲の船首像だったのか?」

 セドフ船長は人垣を分けてサグレスの傍にやって来ると潮風に焼けた良く通る低い声で訊ねた。

「人程の大きさの鷲でした……青い翼で……」

「目が金で眼の下に赤い縞のある……」

 サグレスは脳裏に浮かぶ覚えている限りの特徴を並べ立てた。

 唐突に、シナーラが言い出した。その瞳は焦点が合っていない。

「青い鷹が僕を助けに来てくれたんだ……」

 それだけ言うとシナーラはまたぐったりと目を閉じてしまった。

「青い鷹……」

 セドフは呟いた。シナーラが呟いた言葉は誰にもイングリア建国の物語の一説を思い出させた。

「おおよその位置が出ました!」

 航海士の一人が速度や進路から問題の位置を割り出して来た。海図を見るとセドフ船長は即座に判断を下した。

「180度回頭。沈没船の捜索に向かう」

 風が強く一筋吹き抜けて行った。


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