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森の中の戦い


 兄さんの剣術練習も母さんと立ち合い稽古も始まって、兄さん用の剣も父さんから渡されていた。ゴブリン程度なら切れるかもと言われた」せいか、一緒に遊んでいる友達にも自慢することが多くなってきた。



 数日後、いつもどおり午前中は魔法の訓練をして、午後、兄さんの剣術の練習がなくて、普段なら兄さんに連れられて村の子供たちと遊ぶと思ったんだけど。


 今日は昼食を食べた後に剣を持ちながら、僕に声をかけてくる。


「よし、アーサー行くぞ!」

「え? どこに?」

「いいからついてこい!」


 今日も今日とてアーサーは先に家を出て行ってしまう兄さんについて行くしかありません。


 その時の僕は、剣を持って出て行ったのだから、村の子供たちに実際に剣術を見せるのかと勘違いしていた



 兄さんはそのまま家の裏側にまわり、村から外れて林の中に柵を越えて入っていこうとしてる。さすがの僕もそれがよくないことなのは知っている。

 

 なんせ、ある程度森の奥に行くと魔物が存在しているらしいのだ。それでも週に3回も、父さんが村の人たちと一緒に魔物の討伐をしているため、この辺りには、どうしても繁殖力の高いゴブリンやウルフなどの魔物ぐらいしかいないらしい。


 だとしても、森の中に入っていくのは間違っていることだとわかっているから、兄さんを止めにかかる。


「にいさん、まさか、森のなか、いくの?」

「そうだ。俺も強くなったし、魔物なんて楽勝だ!」

「まって、あぶないよ!」


 僕は兄さんに危ないと言ったのに、その言葉も聞きやしないでどんどん奥に行こうとしてしまう。

 兄さんは僕が必ず付いてくると思ってるだろうから、後ろなんて全く振り向いてないし、しっかりついていかないと置いていかれる。


 

 進むにつれてどんどん足場が悪くなってくる。3歳の僕にはかなり歩きづらくなってきた。

 

 兄さんも、先ほどより歩きづらそうで進むスピードも遅くなってきている。


「にいさん、ほんとにあぶないよ! かえろうよ!」

「大丈夫だ。そろそろ魔物が出てくるかもしれないから、アーサーも周り見てろよ!」


 本当に大丈夫なのか? 魔物なんて見たこともないし、3割増しだといっても、元が弱かったらそこまででもないだろ。

 だけど何が起こるかは想像がつかない。

 

 今はただついていくしかないのか?



  

「うっ!」

 いきなり体がぞわりと感じる。


 その感じたほうを見てみると、100m 先だ。


 

 化け物がいた。嫌悪を呼び起こしそうな化け物。


 あれがゴブリンか。兄さんより大きいくらいだけど、筋肉の付き方が全く違う。てか、かなりいい筋肉してる気がする。それに手には木の棒を持っている。

 普通に考えて兄さん、あれはたぶん勝てないよ。



 小声で兄さんに見つけたことを伝える。


「いたか!!そうかあれがゴブ…リ…ンなの…か?」


 兄さん! 声がでかいよ! やばい見つかった!

 

 ゴブリンは僕らを視認してからこちらに走ってくる。そこまで走るのは速くないみたいだが、兄さんはともかく、僕のほうは逃げ切れないと思う。

 

 兄さんのほうは、おびえたような顔をしていたが、少しだけその顔を引き締めて剣を構え始めた。戦わなきゃいけないと感じているかのようだ。


 「にいさん! にげて!」


 僕は反射的兄さんに向けて叫んでいた。兄さんがもしも一人で逃げてしまったら、自分はだめだろうとわかっているのに。


 「だ、だめだ! どうにかする! アーサー早く逃げろ!」


 兄さんも二人では逃げられないことを感じているようだ。それならもう、兄さんがどうにかしてくれることに掛けるしかない。


 「……わかりました! ぼくがいしをなげでひきつけます。にいさんはきることにだけかんがえて!!」

 「な!? ……わ、わかった!」


 僕がいきなり提案したせいか、びっくりしていたが、わかってくれたらしい。

 すぐさま近くに落ちている石を大きいのだけ拾っていく。


 そのあと、兄さんから離れ、ゴブリンが兄さんから意識を離すのにはベストのタイミングを狙う。


 「やぁ!!」


 自分に掛け声をかけて、当たれ! 祈りを込めながら、石を投げまくる!


 ゴブリンに何個か命中した! 走ってきた足を止めて僕のほうを見てきた。

 

 怖い、殺されることが頭に浮かぶ。



 それでも、生きるために僕を腹に力を込める。


 「にいさん!!」



 

「おらぁ!!」


 兄さんがゴブリンに向かって切りかかった。剣が肩からゴブリンに食い込んでいく。


「グギャァァ!!」


 ゴブリンが絶叫を上げて痛がっているのがわかる。


 だけど、心臓部までは剣が届いてない! 致命傷までは言ってない気がする!



 その僕の懸念通りにゴブリンは痛がりながらも兄さんのことをにらみつけ、木の棒を振り上げた。


 兄さんもまさか一発で倒せないとは思ってなかったらしく、すぐ剣を抜こうとしたけど、うまく抜けないでいた。



 ゴブリンの攻撃が兄さんの腕に当たって少し吹き飛ばされてしまった。


 そのままゴブリンは兄さんにとどめを刺そうと痛みを我慢するかのように、ゆっくりと兄さんに近づいていく。

 兄さんは今の攻撃で気絶してしまったみたいだ。


 このままじゃ兄さんが死んじゃう!



 そう思ったらいつの間にか僕はゴブリンに向かって走っていた。


 「うわぁぁ!!」


 声にならないように声をあげながら、僕の体がゴブリンにあたる。


 僕の体当たりでゴブリンの進みが止まった。だけど、ゴブリンはこちらを向きながら蹴りを放ってきた。


 ゴブリンのけりが腹に当たり、僕の体を浮かせ、吹き飛ばされる。


「がぁっ!?」


 痛い!!息が!苦しい…



 痛みを我慢してゴブリンを見てみると、もう兄さんの前に来ていた。


ぼうぜんとしてしまった。 僕が何もしてもだめなのか?


 もう、僕の体は動かなかった。




 それでも、



 僕は見ていた。ゴブリンの首が落ちるさまを。


 もうひとり、誰かの背中が見える。心が暖かくなるような大きな背中が。



 そして僕の意識は暗闇に沈んでいった。


 



 「これでわかったね。この世界は本当に死が近くにあることを」


そんな言葉が聞こえた気がした……



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